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第15章:転落
第5話:誓う再起
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「きびきび歩けでッチュウ! お前ら、今から葬式会場にでも向かうような顔をしているでッチュウね!? いつもの能天気さはどこに行ったでッチュウか!?」
クロウリーが血濡れの女王の団全員に代わり、剣王軍の捕虜となった。血濡れの女王の団にとって、クロウリーは無くてはならない存在である。皆は敗戦だけでなく、クロウリーが囚われの身となってしまったことで暗い顔になっていた。
その暗さは足取りの重さにも表れていた。彼らが解放された場所は急ぎ足ならば2~3日で州境を跨げる距離であったのに、予定していた行程の半分も消化していなかった、もちろん、剣王軍にめった打ちにされたことで、傷を負っていない者なぞ、ひとりもいない。だが、それを考慮に入れたとしても、血濡れの女王の団の進軍速度は遅すぎた。
それに激昂したのが、エーリカの頭の上にちょこんと乗っている白いネズミのコッシロー=ネヅであった。コッシローから言わせれば、所詮、こいつらは甘ちゃんだというのが正直な感想であった。ここまで連戦連勝出来ていたことのほうが、よっぽど奇跡なのである。運も味方したことで、血濡れの女王の団は大きな被害を被ることなく、やってこれた。
「お前たちは戦が水物だと知識では知っていただけでッチュウ! でも、肌で感じ、実際にそれを知らなかったのが不運なんでッチュウ! だけど、お前たちは生きているだけで幸運だと言うことを今こそ実感するべきなのでッチュウ!」
エーリカは頭の上で大演説を行っているコッシローを止めようとはしなかった。コッシローが今、放っている怒号は、エーリカにとっての諫言であることをしっかりと受け止めようとしたからだ。
「腹上死する予定のクロウリーに対して、情けないと思わないんでッチュウか!? そして、ボクに叱責されて、悔しいという気持ちが沸いてこないんでッチュウか!?」
「コッシロー……」
「だから、そんな悲しい声を出すなと言っているのでッチュウ! 生きていれば、この汚名はいつでも返上出来るのでッチュウ! たった一度の敗戦でクヨクヨしてたら、草葉の陰から見ているクロウリーに笑われちゃうでッチュウよ!? しかも、腹が立つほどのクールな笑みでッチュウ!」
コッシローはクロウリーの悪どさをとくとくと説いてみせる。コッシローの言っていることがあまりにもひどい内容になっていき、思わず、プッと噴き出す者たちが出始める。一度、笑いが起きれば、それは連鎖反応になる。お互いに顔を見合うことで、自然と笑みが零れるのであった。
「何だな。コッシローなんかに勇気づけられてんじゃ、俺たちはまだまだだったってことだ」
「タケル殿と同じ感想でござる。マーベル殿。拙者はまだまだこれからでござる!」
「おうよっ! ブルース。あたいに見合う男になれってんだい! あんたが立ち上がれなくなっても、あたいが抱っこしてやるからなっ!」
ブルースとマーベルの夫婦漫才が始まったことで、どんどんと血濡れの女王の団内に笑みが広がって行く。アベルは自分も皆を奮い立たせるための言葉を探し始める。
「むむぅぅぅ……、考えれば考えるほど、クソ真面目な自分が憎いなっ! こういう時にさらっと良い台詞を出せるようにせねばならぬっ!」
「アベル隊長! アベル隊長だけで思いつかないのなら、私も一緒に考えるのです! うーーーん! アベル隊長の素晴らしさを皆に伝えれる言葉は何でしょうかっ! 私もアベル隊長と同じくらいにクソ真面目なので、何も思い浮かびません!」
「おいらがツッコミを入れるところだべか? 真面目かっ! って」
アベル隊長とその補佐であるレイヨンがクソ真面目夫婦であることはアベル隊の常識となっていた。そのため、こんな時には癒し枠であるミンミンの出番である。だが、そのミンミンも戸惑いながら、ツッコミを入れている。アベル隊の皆は苦笑してしまう他無かった。だが、そんなクソ真面目な隊長たちを支えるのが自分たちである。次はやってやるぜ! という声が上がるようになる。
エーリカはそろそろね……と思うようになった。雰囲気がだんだんと良くなっていくのを肌で感じると、エーリカは馬の足を止める。そうした後、エーリカは後ろに続く皆へと振り向く。
「これはクロウリーが、あたしたちに敗北の味を知ってほしいという親心からの大作戦だと思っておくこと! 被害は甚大だけど、それでもあたしたちはこうして生きている! あたしたちはあたしたちの国を興すその時、それ以降も成長し続けるわよっ!」
エーリカはそう言った後、左の拳を高々と振り上げる。エーリカの左手の甲には光り輝く痣が浮き上がっていた。エーリカが指し示す未来には光があった。それも希望の光だ。血濡れの女王の団員たちは、エーリカの意志に呼応し、自分たちも左の拳を高々に振り上げる。
この日、この時から血濡れの女王の団の進軍速度はおおいにあがることになる。その進軍速度は敗戦による撤退速度では無かった。州境を越えた先にある砦で先に待っていたホランド将軍が驚いてしまうほどであった。
「よくぞ、戻った。こう言っては何だが、敗戦したというのに、一段と成長した顔つきになっている。三日会わずはなんとやらか?」
「ご心配おかけました。血濡れの女王の団、1192名、撤退完了です!」
随分、兵数が減ってしまったと思うホランド将軍であった。この砦を進発して、南ケイ州の地へと足を踏み入れた時に比べれば、4割近くの損害を出している血濡れの女王の団であった。通常の基準で言えば、全体の4割にも及ぶ被害となると、大敗を喫したと表現する。だが、血濡れの女王の団員たちは、大敗の憂き目に会い、やっとのこさで砦に到着したばかりというのに、すぐに次の行動を起こしていた。
これも若さか、羨ましいばかりだと思ってしまうホランド将軍であった。エーリカはやることがありますのでとホランド将軍に断りを入れて、その場から去ろうとする。ホランド将軍は去って行こうとするエーリカを引き留める。
「え? ロリョウの町で、慰労会を開く……んですか?」
「うむ。剣王軍の介入があったことは不運ではあるが、南ケイ州2万の軍を蹴散らしたことには変わりないとな。勝利を祝いつつも、敗戦を慰めるという何とも不思議な慰労会よ」
「そう……ですか。少し、考えさせてもらって良い? あたしたちは砦に戻ってきたばかりで、戦の汚れも取れていないし」
「そうだな。まずは水でも良いから、汚れを落としてくるが良いだろう。向こうはえらくこちらを急かしていたが、エーリカ殿たちの事情を優先して良いだろう。では、返事は後ほどな」
クロウリーが血濡れの女王の団全員に代わり、剣王軍の捕虜となった。血濡れの女王の団にとって、クロウリーは無くてはならない存在である。皆は敗戦だけでなく、クロウリーが囚われの身となってしまったことで暗い顔になっていた。
その暗さは足取りの重さにも表れていた。彼らが解放された場所は急ぎ足ならば2~3日で州境を跨げる距離であったのに、予定していた行程の半分も消化していなかった、もちろん、剣王軍にめった打ちにされたことで、傷を負っていない者なぞ、ひとりもいない。だが、それを考慮に入れたとしても、血濡れの女王の団の進軍速度は遅すぎた。
それに激昂したのが、エーリカの頭の上にちょこんと乗っている白いネズミのコッシロー=ネヅであった。コッシローから言わせれば、所詮、こいつらは甘ちゃんだというのが正直な感想であった。ここまで連戦連勝出来ていたことのほうが、よっぽど奇跡なのである。運も味方したことで、血濡れの女王の団は大きな被害を被ることなく、やってこれた。
「お前たちは戦が水物だと知識では知っていただけでッチュウ! でも、肌で感じ、実際にそれを知らなかったのが不運なんでッチュウ! だけど、お前たちは生きているだけで幸運だと言うことを今こそ実感するべきなのでッチュウ!」
エーリカは頭の上で大演説を行っているコッシローを止めようとはしなかった。コッシローが今、放っている怒号は、エーリカにとっての諫言であることをしっかりと受け止めようとしたからだ。
「腹上死する予定のクロウリーに対して、情けないと思わないんでッチュウか!? そして、ボクに叱責されて、悔しいという気持ちが沸いてこないんでッチュウか!?」
「コッシロー……」
「だから、そんな悲しい声を出すなと言っているのでッチュウ! 生きていれば、この汚名はいつでも返上出来るのでッチュウ! たった一度の敗戦でクヨクヨしてたら、草葉の陰から見ているクロウリーに笑われちゃうでッチュウよ!? しかも、腹が立つほどのクールな笑みでッチュウ!」
コッシローはクロウリーの悪どさをとくとくと説いてみせる。コッシローの言っていることがあまりにもひどい内容になっていき、思わず、プッと噴き出す者たちが出始める。一度、笑いが起きれば、それは連鎖反応になる。お互いに顔を見合うことで、自然と笑みが零れるのであった。
「何だな。コッシローなんかに勇気づけられてんじゃ、俺たちはまだまだだったってことだ」
「タケル殿と同じ感想でござる。マーベル殿。拙者はまだまだこれからでござる!」
「おうよっ! ブルース。あたいに見合う男になれってんだい! あんたが立ち上がれなくなっても、あたいが抱っこしてやるからなっ!」
ブルースとマーベルの夫婦漫才が始まったことで、どんどんと血濡れの女王の団内に笑みが広がって行く。アベルは自分も皆を奮い立たせるための言葉を探し始める。
「むむぅぅぅ……、考えれば考えるほど、クソ真面目な自分が憎いなっ! こういう時にさらっと良い台詞を出せるようにせねばならぬっ!」
「アベル隊長! アベル隊長だけで思いつかないのなら、私も一緒に考えるのです! うーーーん! アベル隊長の素晴らしさを皆に伝えれる言葉は何でしょうかっ! 私もアベル隊長と同じくらいにクソ真面目なので、何も思い浮かびません!」
「おいらがツッコミを入れるところだべか? 真面目かっ! って」
アベル隊長とその補佐であるレイヨンがクソ真面目夫婦であることはアベル隊の常識となっていた。そのため、こんな時には癒し枠であるミンミンの出番である。だが、そのミンミンも戸惑いながら、ツッコミを入れている。アベル隊の皆は苦笑してしまう他無かった。だが、そんなクソ真面目な隊長たちを支えるのが自分たちである。次はやってやるぜ! という声が上がるようになる。
エーリカはそろそろね……と思うようになった。雰囲気がだんだんと良くなっていくのを肌で感じると、エーリカは馬の足を止める。そうした後、エーリカは後ろに続く皆へと振り向く。
「これはクロウリーが、あたしたちに敗北の味を知ってほしいという親心からの大作戦だと思っておくこと! 被害は甚大だけど、それでもあたしたちはこうして生きている! あたしたちはあたしたちの国を興すその時、それ以降も成長し続けるわよっ!」
エーリカはそう言った後、左の拳を高々と振り上げる。エーリカの左手の甲には光り輝く痣が浮き上がっていた。エーリカが指し示す未来には光があった。それも希望の光だ。血濡れの女王の団員たちは、エーリカの意志に呼応し、自分たちも左の拳を高々に振り上げる。
この日、この時から血濡れの女王の団の進軍速度はおおいにあがることになる。その進軍速度は敗戦による撤退速度では無かった。州境を越えた先にある砦で先に待っていたホランド将軍が驚いてしまうほどであった。
「よくぞ、戻った。こう言っては何だが、敗戦したというのに、一段と成長した顔つきになっている。三日会わずはなんとやらか?」
「ご心配おかけました。血濡れの女王の団、1192名、撤退完了です!」
随分、兵数が減ってしまったと思うホランド将軍であった。この砦を進発して、南ケイ州の地へと足を踏み入れた時に比べれば、4割近くの損害を出している血濡れの女王の団であった。通常の基準で言えば、全体の4割にも及ぶ被害となると、大敗を喫したと表現する。だが、血濡れの女王の団員たちは、大敗の憂き目に会い、やっとのこさで砦に到着したばかりというのに、すぐに次の行動を起こしていた。
これも若さか、羨ましいばかりだと思ってしまうホランド将軍であった。エーリカはやることがありますのでとホランド将軍に断りを入れて、その場から去ろうとする。ホランド将軍は去って行こうとするエーリカを引き留める。
「え? ロリョウの町で、慰労会を開く……んですか?」
「うむ。剣王軍の介入があったことは不運ではあるが、南ケイ州2万の軍を蹴散らしたことには変わりないとな。勝利を祝いつつも、敗戦を慰めるという何とも不思議な慰労会よ」
「そう……ですか。少し、考えさせてもらって良い? あたしたちは砦に戻ってきたばかりで、戦の汚れも取れていないし」
「そうだな。まずは水でも良いから、汚れを落としてくるが良いだろう。向こうはえらくこちらを急かしていたが、エーリカ殿たちの事情を優先して良いだろう。では、返事は後ほどな」
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