上 下
148 / 197
第15章:転落

第3話:4人の偉大なる魔法使い

しおりを挟む
 剣王:シノジ=ザッシュを呪い殺さんとするレベルの眼力でクロウリー=ムーンライトは睨みつける。シノジはフンッと鼻息を鳴らし、この娘を預かっておけと、ブンエン将軍にエーリカを放り投げる。ブンエン将軍がエーリカをお姫様抱っこした瞬間であった。剣王様に向けられていたはずの眼力が自分に一点集中した。ブンエン将軍は心臓を鷲掴みされる恐怖を感じた。抱えていたはずのエーリカの体重を感じられないほどの圧迫感に襲われる。

「相手を間違えているぞ。用があるのは我輩であろうっ!」

「ぶはっ、ぶはぁっ!!」

 ブンエン将軍とクロウリーの間にシノジが割って入る。それにより、ブンエン将軍は呼吸を再び行えるようになる。ブンエン将軍はエーリカを抱え直し、一歩、また一歩とクロウリーから物理的距離を開けていく。シノジはそんな状態になっている自分の配下に視線を送ることも出来なかった。

 それもそうだろう。ブンエン将軍レベルでも指一本動かせないどころか、呼吸も止められてしまうほどの圧を、眼の前の優男が身体全体から発していた。ブンエン将軍の間に割って入ったはいいが、自分が今、手ぶらであることこにおおいに後悔の念を抱いてしまうことになる。

 シノジは全身から熱すぎる汗がダラダラと流れ落ちる。全身がくまなく汗でべたべたになる。しかしながら、シノジは両手を握りしめ、こぶしを作り、さらにはファイティングポーズを取る。そんなシノジに対して、無礼者とでも言いたげな圧を発するクロウリーであった。

「ふんっ。いつもは冷静なくせに、女のことになると熱くなる。大昔から今になっても、そこは変わっていないようで、逆に安心したのじゃ」

「大賢者様。何故、我輩の前に立つ?」

 次にクロウリーの前に立ちはだかったのは、4人の偉大なる魔法使いのひとりである大賢者:ヨーコ=タマモであった。ヨーコが間に割って入ったことで、シノジはクロウリーからの圧を受けることは無くなった。しかしながら、邪魔をするなとばかりにシノジはヨーコの前へと回り込もうとする。

 そんなシノジを左手に持つ芭蕉扇で止めてしまうヨーコであった。シノジはそれでも、ヨーコに食い下がろうとした。だが、ヨーコは身体を少しだけ捻り、シノジの顔を下から覗き込む。シノジの心臓はドックン! と激しく鼓動を打つ。シノジはたまらず、その場から一歩、下がってしまう。

「2歩下がらなかったのは褒めてやろう。それでこそ、わらわが見込んだ剣王ぞ。しかしだ。偉大なる魔法使い相手に臆することに関して、何ら恥じることはないぞえ」

「臆するだと!? 剣王である我輩がお前たちにびびっているとでも言いたいのか!?」

 剣王は怒号を放つ。だが、ヨーコはコロコロと可愛らしく喉を鳴らす。まるで、我が子が親に宥められたことで、気恥ずかしさを覚え、さらには反発してるのかえ? とでも言いたげな表情となっていた。シノジはまるで心の奥底を見透かされているような気分になってしまう。

「安心せよ。わらわを母親のように思っておくがよい。わらわが可愛いシノジをイジメる悪い大魔導士をこらしめてやろうぞ」

 大賢者:ヨーコ=タマモは赤子を宥めるように優しい口調で、自分の後ろに居るシノジに語りかける。シノジはそう優しく言われれば、言われるほど、憤慨しそうになる。しかし、ヨーコは大地母神のような慈愛を持ってして、シノジの鬼迫を丸ごと受けきってしまう。シノジはグッ! と唸った後、配下に床机しょうぎを用意せよと命じる。

 どっしりと腰を据えて、大賢者と大魔導士の戦いを見届けてやると態度で示してみせた。ヨーコは拗ねているシノジに視線を送ると、またしてもコロコロと可愛らしく喉を鳴らすのであった。

「さて、待たせたのぅ。頭を冷やす分も含めて時間はたっぷり与えてやったのじゃ。わらわとやり合う準備は整ったはずじゃな?」

「おかげさまで、禁忌を犯さなかったことは感謝します。でも、あなたが相手であれば、先生は何の規則にも縛られませんけど?」

「それはわらわにも言えたことじゃ。さて、久方ぶりに喧嘩と相成ろうぞ。わらわとおぬしの関係上、そう表現するのが正しかろう?」

「喧嘩するほど仲が良いと言いたいんでしょうけど、先生はとっくの昔に、あなたに振られたはずですが?」

「おや? そうであったか? わらわの記憶では、ふがいない貴様がわらわの愛に耐えきれなくなって、夜逃げしたとばかり思うておったわ」

 ヨーコは自信たっぷりに上から目線でそう言ってみせる。彼女が胸を張れば張るほど、彼女の暴力的なおっぱいが目について、目障りこの上なかった。あの暴力的なおっぱいを鷲掴みにして、もみくちゃにしてやろうかとさえ思ってしまう。

「ほぅ? 挟んでほしいのかえ? しょうがないにゃぁ?」

「いい加減にしてくださいっ! 詠唱コード入力:紅焔!! 先生の身体を護りなさい!!」

 ヨーコの挑発に耐えきれなくなったクロウリーは詠唱をおこなう。身体の奥底から溢れる魔力を詠唱を通して、物質へと変換する。クロウリーの身体に纏わりついた魔力は焔で出来た鎧に変わる。対して、ヨーコは怪しげな笑みをその顔に浮かべ、ぷっくりした艶めかしい唇を動かす。ヨーコもまた、身体の奥底から溢れ出す魔力を詠唱を通して、物質へと変換したのであった。

 クロウリーは焔の鎧を纏い、焔の剣を両手で持っていた。ヨーコはそれに反発するかのように冷気が花咲く美しいドレスを身に纏い、さらには氷の円月輪を両手に一個づつ持っていた。

 先に動いたのはヨーコであった。右手に持つ円月輪を下手したてにクロウリーに向かって投げ飛ばす。円月輪は高速に回転しながら、地面に氷の針山を創り出す。その円月輪が突然、アッパーカットのようにクロウリーの顎先に向かって、かち上げをおこなう。

 クロウリーは下から上へといきなり軌跡を変えた円月輪を焔の剣の腹で受ける。しかしながら、氷と冷気をまき散らす円月輪は勢いを止めず、クロウリーの身体を宙へと吹き飛ばす。クロウリーは空中で体勢を整えつつ、焔の剣を横薙ぎに払う。

 すると、焔の剣から竜の焼き付く息吹ドラゴニック・ファイアブレスが吐き出されるこになる。紅き竜レッド・ドラゴンの紅焔がヨーコを燃え尽きさせようとした。だが、ヨーコは左手に持つ円月輪を回し、迫りくる紅焔をそれを持ってして防ぎ切ってしまう。

 とんでもない高熱を持つ焔と魂まで凍り付きそうな冷気がぶつかり合うことで、空気が一気に膨張する。それは爆発音だけでなく、とんでもなく厚みを持つ風を産み出すことになった。クロウリーとヨーコの戦いの趨勢を見守っていた者たちは、彼らが生み出した暴風により、吹き飛ばされそうになってしまう。

「こりゃ、とんでもないなぁ。あ~~~。身体がうずくんだわぃ……。うちがクロウリー様と闘いたいんじゃぁぁぁ」

「やめとけい。一瞬で骨まで溶かされて、灰にされるわ! しっかし、ここまでニンゲンと偉大なる魔法使いたちとの力に差があるとはおもなんだわ。あたしゃ如きが武人と名乗るのが恥ずかしくなってしまうんじゃ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ

Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」 結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。 「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」 とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。 リリーナは結界魔術師2級を所持している。 ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。 ……本当なら……ね。 ※完結まで執筆済み

処理中です...