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第14章:南ケイ州vsアデレート王家

第8話:損害報告

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 エーリカは急いで被害報告を配下たちにさせていた。あちらの総大将であるカンショウ将軍がいきなり突っ込んでくる可能性はチンオウ将軍からの進言により、一応、対策を考えていた。だが、その対策が効果を発揮したのかどうかの確認はまだであった。

「チンオウ将軍がカンショウ将軍との一騎打ちに敗れ、その際に落馬! さらには骨折してしまったとのことです!」

「チンオウ将軍には御輿に乗って指揮を続けてもらうわ! 怪我までしないようにとあれだけ注意したってのにっ!」

 エーリカはぷんぷんと可愛らしく怒りながら、怪我をしたチンオウ将軍にダメだししまくるのであった。隣に立つアイス=キノレがお前が言うか? という顔をしていた。そもそもとして、カンショウ将軍が単騎で突っ込んできた際は、拳王とアイスが戦うことで、カンショウ将軍を捕縛してしまおうと画策していた。

 それを台無しにしたのが、あろうことかそういう作戦を取ろうと言っていたエーリカ本人である。だが、エーリカはアイスの表情に気づかぬままに、次の報告を受けて、伝令に言付けをする。

「カンショウ将軍が残していった兵4千にこだわりすぎたわね……。好機と見て、逃げ場所も無いくらいに囲んじゃったのは失敗だったわ。傷の深い負傷者は下がらせて。こちらは人数がいっぱいいっぱいだから、軽い怪我程度なら、そのまま戦闘続行してもらうわよ」

 カンショウ将軍が残していった兵4千は逃げ場無いと知るや否や、窮鼠、猫を噛むをそのままに実行してしまう。兵4千の内、1千が死兵となり、反攻してきたのだ。さらに勢いを止められぬまま、その死兵1千と2千がまともに戦い合うことになる。チンオウ将軍が率いていた2千の兵の内、500が戦いを続行するのが難しい負傷兵となってしまう。

 チンオウ将軍が骨折し、さらに傷兵混じりの1千500となっても、エーリカは戦い続けるようにと伝令を飛ばす。チンオウ将軍は苦笑しながらも御輿に乗り、陣頭指揮を執る。

 各軍が水深の浅い川を挟んで戦いつづけた。しかしながら、その日は段々と小康状態に陥り、陽が地平線に沈みかけたところで、全軍の勢いが完全に止まることになる。アデレート王家側の総大将であるシュウザン将軍が撤収急げ! 全軍に命じる。川に入り込んでいた軍は川向こうへと撤収していく。これは南ケイ州側も同じであった。

「南ケイ州の総大将:カンショウ将軍の突出により始まったが、エーリカ殿のおかげで、こちらは総崩れにはならなんだ。感謝するぞ」

「本当はカンショウ将軍を捕らえる予定だったけど、あたしの好奇心が勝っちゃった!」

 あっけらかんとそう報告するエーリカに対して、本陣に集まる諸将たちから笑い声が起きてしまう。エーリカは照れ笑いするしか無かった。元々、可能性があるとチンオウ将軍から進言されていただけで、そうできることは想定の外側であった。想定の外側にあるものに期待して軍を動かすのは愚か極まりない行為である。

「エーリカ殿がカンショウ将軍を圧倒してしまった以上、あちらは慎重にいくさを運ぶことであろう。がっぷり4つはこちらも望んでいることよ」

「そう言ってもらえるとありがたいわ。でも後で、あの時、カンショウ将軍を捕らえておけばっ! って言わないでね?」

「ハーハハッ! そんな女々しいことなど、言うわけが無いっ。それこそ、アデレート王家の恥だわっ」

 エーリカの冗談を笑い飛ばした後、シュウザン将軍は作戦会議を続ける。本部に集まる諸将たちは忌憚の無い発言をする。シュウザン将軍は彼らの言葉を受け、明日以降の作戦を明示する。エーリカの隣に立つ彼女の軍師はエーリカに対して、コクリと頷く。エーリカはシュウザン将軍が示す作戦に問題が無いことを、クロウリーの所作から受け取る。

「では、解散っ! 明日も早いゆえに、なるべく早く寝るようになっ! 気持ちが昂っている者はパートナーに癒してもらうが良いっ!」

 シュウザン将軍は特にケンキ=シヴァン将軍に向かって、そう言うのであった。ケンキ将軍は一瞬で顔がゆでだこのように赤くなってしまう。ケンキ将軍はシュウザン将軍に弁明を開始するが、シュウザン将軍はケンキ将軍の右肩に右手をポンッと軽く乗せて、本部から退出していく。

「うちの総大将がああ言ってくれてるんだし、気兼ねなくミンミンに会ってきたら? こっちに来てから、まともにミンミンとイチャイチャしてないんでしょ?」

「い、イチャイチャとは失礼ですわよっ! わたくしはただ公私混同してはいけない状況だと思ってまでなの!?」

いくさの流れは徐々にこちらに傾きつつありますが、いくさ自体が凶事であり、水物なのです。流れ矢でうっかり死ぬことだってあります。ケンキ殿のことでなく、ミンミン殿のこともおもんばかってください」

 クロウリーがケンキ将軍にそう進言する。ケンキ将軍は困ったという表情になっている。ミンミンにはいくさが終わった後に、思う存分甘えさせてもらう予定であった。だが、そんな悠長に構えてていいのかと、周りが囃し立ててくる。

「エーリカ。このくらいの時間に本部までエーリカを迎えにきてくれって言われてたけど、大丈夫だったべか?」

「ミンミン!? 何故、あなたがここに来ているのですの!?」

 ケンキ将軍は驚いてしまう。軍の本部には基本、各軍団をまとめる将軍格しか集まることが出来なかったからだ。これは命令系統の統一のためにも、守らなければならない掟でもあった。だが、エーリカはそんなこともあったっけ? と言いたげな表情でミンミンを迎え入れた。

「ミンミン。タイミングはばっちりよっ。ミンミンが居ない間に、ケンキをその気にさせておいたからっ!」

「ん~~~? それはどういうことだべ。もしかして、おいらはエーリカに騙されたんだべか?」

「さすが、タケルお兄ちゃんと違って、察しが良いわね。ミンミン。ケンキが寂しがってるわよ」

「了解だべさ! ケンキ様。おいらのお腹のお肉の感触を存分に楽しんでほしいんだべさ!」

 ミンミンはそう言うと、ケンキの手を引いて、本部からケンキを連れ去ろうとする。戸惑うケンキに対して、ミンミンは頭の上にハテナマークを浮かべる。さすがは血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団1番の紳士であるミンミンだ。彼はケンキをお姫様抱っこして、彼女を運び出してしまうのであった。

「ミンミン殿って、ヘタレな血濡れの女王ブラッディ・エーリカの双璧とは明らかに毛色が違いますね」

「マーベルも驚きすぎて口が閉じなくなっちゃってる。今からでもミンミンに乗り換える?」

「う、うるせぇ! あたいはブルースのおもりで手がいっぱいなんだっ! で? あたいにサプライズは無いのかい??」

「あっ……」

 エーリカはケンキ将軍を気遣って、ミンミンを本部へと呼び出していた。だが、マーベルのことはすっかり失念していた。

「ちくしょぉぉぉ! あたいをお姫様扱いしろってんだっ!」

 マーベルは憤慨しながら本部の外へ向かっていく。エーリカはマーベルに平謝りするしか無かった。マーベルは結局、自分の足で迎えに来ない王子様をぶん殴りに行くことになる。エーリカはこれからマーベルと喧嘩になる予定のブルースに、ごめんね? と小さく呟くのであった。
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