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第14章:南ケイ州vsアデレート王家

第2話:不吉な予感

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 シュウザン将軍はエーリカにもう1度、頭を下げて、自分の補佐と共に作戦室から退出するのであった。エーリカは満足気な表情になり、お尻を椅子の上に乗せることになる。クロウリーはエーリカが落ち着いたのを確認すると、タケルが持ってきた事案の相談を受けることになる。

 エーリカがちらちらとタケルの方を見ているが、クロウリーは気づかぬ振りをする。タケルはクロウリーとの相談が終わると、作戦室を後にする。エーリカは何とも面白くないといった表情になっており、クロウリーはクスクスと軽く笑みを零すのであった。

 次に作戦室にやってきたのはセツラ=キュウジョウであった。エーリカとクロウリーはどうしたのだろう? という顔つきになる。セツラは血濡れの女王ブラッディ・エーリカの巫女であるため、ドンと構えておいてほしい存在だ。自分の役割をセツラ自身も理解しているため、セツラはエーリカたちの言うことをそのままおこなってきた。

「どうしたの? セツラお姉ちゃん。何だか、顔色が悪い気がするけど?」

「いえ……。わたくしの気のせいなら良いのですが。エーリカさんとクロウリーさんに何やら不吉ことが起きるという天啓メッセージらしきものが先ほど降りてきたの。でも、その天啓メッセージ内容は漠然としすぎてて、言語化できませんわ」

「ふむ。エーリカ殿と先生に何かとんでもなく不吉なことが起きると? それはどなたかの天啓メッセージかはわからないのですか?」

 セツラの普段の仕事は吉凶を占うことであった。亀の甲羅、鶴の骨などを焼き、その割れ具合により、血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団にこれから起きることを占いで調べていた。だが、セツラは特別な巫女であり、天上の神々からの天啓メッセージを受け取ることも出来る。エーリカが血濡れの女王ブラッディ・エーリカの物理的なあるじであるならば、セツラは宗教的精神的なあるじであった。

 そのセツラがエーリカとクロウリーの身に危険が迫っていると告げたのだ。これを無視することはクロウリーですら出来ない。クロウリーは左手を右肩に持っていく。すると、今まで隠形術をおこない、存在感を消し去っていた白いネズミが姿を現すことになる。

「う~~~ん。セツラがそう言うのであれば、南ケイ州の連中はエーリカちゃんとクロウリーのコンビすらも嵌めれるほどの罠を用意していることになるでッチュウね。エーリカちゃん。皆に先の大勝は頭から全部、どけておけと指示を出しておくことでッチュウ」

「うん。たった2千で1万を蹴散らしたのは、さすがに出来すぎだもん。今回はまともにぶつかりあえるだけの人数はしっかり揃えているわ」

「奇策はなるべく頼るべきことじゃありませんからね。あちらは2万。こちらは1万2千です。いつものいくさよりかは遥かにこちらも人数を揃えています」

「それでも用心しておいてくださいまし……。わたくしが軍事に関して言えることはありませんので」

 セツラはそう言うと、エーリカたちの前から下がるのであった。セツラは不安が全部解消されていないのか、エーリカたちに背中を見せている間も、ずっと挙動不審になっていた。しかし、作戦室の出入り口でばったりとコッサンに出会うと、コッサンがセツラを連れて、どこかに行ってしまうのであった。

「コッサンとセツラお姉ちゃんって、意外と上手く行きそうね。一時はどうなるかと思ってたけど」

「いつもなら、不安に陥ったセツラ殿を宥めるのは先生の役目なのですが……。娘を取られた父親のような気分になってしまいます」

「チュッチュッチュ。遅まきながらの愛娘のひとり立ちなのでッチュウ。クロウリーは変にセツラとコッサンの間をかき回さないようにしておくでッチュウよ? 経過観察の対象を増やしたくないのでッチュウから」

「ん? それってどういう意味? なんかすっごく引っかかることを言われたんだけど??」

「エーリカちゃんは気にする必要は無いのでッチュウ。エーリカちゃんはその身に刻まれた『欲望の聖痕スティグマ』以上の欲望で、戦国乱世を駆け抜けろでッチュウ」

 コッシローがそう言うと、エーリカは今さらに思い出しかのように、自分の左手の甲にある痣を見つめるのであった。この痣が最後に光り輝いたのはすでに遠い昔のような気がしてしまう。クロウリーが言うには、エーリカが命に係わるほどの危機に陥ることが極端に少なくってしまったとのことであった。

 それほどの無茶をホバート王国統一戦ではやってきたという自負がエーリカにもあった。ここでやらなければどうするの!? という展開ばかりだった、あの時は。アデレート王国に上陸して以降、そこまでのピンチはやってこなかったと今更ながらに思えてしまう。

「あたしも成長したってことかしら?」

「おっぱいのほうは残念ながら、成長しなかったでッチュウけど」

「うっさいわねっ! 天麩羅てんぷらにして、タケルお兄ちゃんに食べさせるわよ!?」

 エーリカがコッシローを捕まえようとクロウリーの周りをグルグルと回り出す。コッシローはエーリカに捕まえらえてなるものかと、クロウリーの頭を中心として駆け巡る。クロウリーがヤレヤレ……といった表情になっていると、コッシローはクロウリーの頭の上から、机の上へと飛び移る。さらにエーリカをお尻ぺんぺんで挑発し、まさに獣のスピードで作戦室の外へと逃げ出してしまうのであった。

「もうっ! コッシローは本当に逃げ足が速いわねっ!」

「まあまあ……。コッシローくんが戻ってきたら、先生の方から叱っておきますので」

「頼むわよっ。あーーー、疲れたーーー。って、戦う前から疲れてどうするのよっ!」

 エーリカは一度、尻を椅子に乗せて、椅子に座ったまま、背伸びをしてみせる。だが、すぐに姿勢を正して、次にエーリカたちに指示を仰いできた人物の対応へと移るのであった。そうこうしている内に、陽はすっかり地平線の向こうに消えていく時間となる。

「出来る限りの準備は整えたつもり。明日の朝には南ケイ州からの流民を保護しに行くわよ。クロウリーも今夜はしっかりと休んでおいてちょうだいね?」

「はい。エーリカ殿も遅くならないようにご注意を……。これから、タケル殿をとっちめに行くんでしょ?」

「う、うるさいわね! タケルお兄ちゃんの説教は、あたしの日課なのっ! そこはクロウリーと言えども口出し無用なんだからっ!」

 アデレート王国に上陸してから、エーリカがタケルを説教する回数は目に見えて減っていた。しかし、ある日をきっかけにこれまで以上にエーリカがタケルを説教するようになった。クロウリーはエーリカがテクロ大陸本土に上陸してからというもの、どこか無理をしているように見えて仕方なかった。それゆえに、あまりにもエーリカがタケルを説教しないのであれば、クロウリー自身がタケルがエーリカの説教を喰らいやすいように状況をセッティングしようと考えていた。

 だが、それは杞憂に終わる。わざとかはしらないがタケルはエーリカの前でやらかすポカが目に見えて増えたのである。
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