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第13章:ロリョウの町・攻防戦

第2話:軍議

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「それだけ、自分の有能さを自分で主張できるのは羨ましいのでござる」

「クロウリー様は本当に配置が上手いっ。これほどの適任、コッサン殿とカキン殿を置いて、他に務まる者などいないなっ!」

「ブルース殿、それにアベル殿。今は高見からそう言えているが、近いうちに血濡れの女王ブラッディ・エーリカの双璧はコッサンだと、その口から証言してもらうことになりますぞ」

「楽しみにしているでござる。口は悪いが、それは、拙者たちを奮い立たせるための言葉だとも理解しているでござる」

「うむ。忠告、ありがたい限りだっ。それがしたちはこのいくさで、コッサンがやっぱり最前線で戦わせてほしかったと心底思えるほどの戦いぶりを見せつけなければならぬなっ!」

 エーリカは互いに好きなように言い合う3人が微笑ましく、同時に羨ましくも感じた。アデレート王国では年下は無条件で年長者を敬うべしという文化を持っている。しかしながら、コッサンは7つも年下のブルースとアベルに対等な物言いを許していた。

 隊長格としてはブルースとアベルはコッサンの遥か上に位置している。だが、ここはアデレート王国である。通常ならブルースとアベルはコッサンに敬語を使ってしかるべき存在だ。だが、コッサンはブルースたちを10年来の友であるかのように受け入れる。

 コッサンはコッサンでアデレート王国では異質な存在であった。それゆえに彼は所属先を血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団にしているとも言えた。コッサンは今、自分が身を置いている組織は水が合うと肌で感じていた。だからこそ、忌憚なく、ズケズケと発言をおこなうのであった。

「へへっ。なんだか可愛らしい弟がまたひとり増えたって感じだぜ。おい、コッサン。俺のことをタケルお兄さんと呼んでくれて良いんだぞ?」

「それはお断りさせてもらいましょう。女の尻に敷かれている男をお兄さんと呼ぶのは、さすがに身共のプライドが許しませんので……」

「タケルお兄ちゃんは、あたしとセツラお姉ちゃんのお兄ちゃん役で手がいっぱいなのに、何を新しい弟を増やそうとしてんのよっ。あと、ついでに言っておくと、ブルースたちもタケルお兄ちゃんをお兄ちゃんとして敬ってないわよ?」

「あっれ!? ブルースとアベルって、俺のことをお兄さんと思ってくれてなかったのか!?」

 タケルは今更ながらに真実を知ることになる。オダーニの村の悪ガキ集団のまとめ役であるエーリカのお兄ちゃんをやっている以上、自分はブルースとアベルのお兄さんもやっているものだと勘違いし続けていた。それゆえにブルースとアベルはタケルになるべく視線を合わせないようにしつつ、次のように言う。

「実のところ、言い方は悪いでござるが、拙者はタケル殿のことを『エーリカのお兄さん』としか見ていないでござる」

「右に同じだな。タケル殿は相談しにいくたびに、親身には答えてくれはするが、それが何かの解決に導いてくれたというよりかは、問題が大きくなる一方だった。タケル殿をお兄さんと呼ぶには、いささか抵抗を覚えてしまう」

「なんでえなんでえ。俺だけだったのかよっ! 可愛い妹と弟に恵まれていたってのはよぉっ!」

血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団に欠かせぬ人物だとは思っているのでござる。でも、兄貴分としては足りていないと言いたいのでござる」

「兄貴分と言うなら、コタロー殿のほうがよっぽどそれらしいのが難点だ。どうしても『エーリカのお兄さん』止まりと言ったところだなっ!」

 ブルースたちからの自分の評価を言われて、タケルはがっくしと肩を落としてしまう。エーリカはそんなタケルお兄ちゃんを見て、苦笑いしてしまうしか無かった。ブルースとアベル、そしてコッサンはいくさの将としての器は計り知れないものがあるし、これからもどんどん伸びていく人物たちだ。

 一方、タケルはそもそもとして彼らと使いどころが違うのだ。ブルースたちとは違うところで有能なのがタケルなのである。それを一番わかっているのは軍師:クロウリー=ムーンライトであった。

 クロウリーは血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団の将来の展望として、その双璧にはブルースとアベルを配置している。そこに食い込んでくるのがコッサンであることは間違いないとクロウリーとコッシローはそう評価していた。

 だが、そんなクロウリーなのに、いくさの場において、自分の横に立たせているのがタケルなのである。タケルはタケルで将としての器を十分に持っているのだ。だが、一介の将として使うよりも、クロウリーは自分の補佐としてタケルを自由に使いたいという欲望があった。

 エーリカだけはその事情をクロウリーから説明されている。クロウリーがわざわざ手元において、タケルが実績を積まないように仕組んでいるだけなのだ。そこそこの実績でそこそこの将として部隊を率いてもらうのは、タケルの才能の無駄遣いであるとクロウリーはそう主張したのである、エーリカに。

(あたしとしては、タケルお兄ちゃんがそこそこの将としてでも、皆に認められてもらいたいんだけどなぁ~~~。タケルお兄ちゃんの名誉を取るべきなのか、それとも血濡れの女王ブラッディ・エーリカ全体の利益を考えべきなのかと問われたら、あたしのわがままを通せないのよねぇ~~~)

 エーリカはしょげるタケルお兄ちゃんに何て言葉をかけるべきなのだろうかと首を傾げる。だが、そんなエーリカと比べて、クロウリーはニコニコとした笑顔である。まさにタケルの良い所を知っているのは自分だけだという優越感からくる笑顔であった。エーリカは考えても仕方ないわねと思い、場の空気を変える発言をする。

「軍議とは少し話が逸れちゃうけど、南ケイ州のいちゃもんレベルの主張には驚いたわ。あたしたちがアデレート王家から土地を譲ってもらうために散々回りくどいことをしたってのに、それが全部、馬鹿馬鹿しく感じちゃうくらい」

「やり方自体は決して褒められませんが、有効な手であることは認めますよ。普通なら、やらないだけです。傍目はためからは宣戦布告と同義ですからね。向こうもアデレート王家との物理的な衝突をこれ以上、避ける気が無くなったということでしょう」

「大義としては使えることは使えるけど、ちょっと弱いんだよな。ロリョウの町の住民はアデレート王家では無く、南ケイ州に帰属したがっている。ならばロリョウの町を保護下に置かなければならない義務がある、だってさ。無理筋もここまでくると、ただのいちゃもんだぜ」

 エーリカとクロウリー、そしてタケルが今回の南ケイ州の領主であるチョウハン=ケイヨウの主張が弱いと言い放つ。だが、そんな彼らを感心させる発言をしたのが、コッサンであった。

「200年に及ぶ長い戦乱が続き、さらにはアデレート王家は6つもあった州のほとんどを失い、ひとつの州に押し込められている現状を考えたとしても、エーリカ様たちの言うことのほうが正しく聞こえるでしょう。だが、そもそもとしての間違いがありますぞ。この国はホバート王国のような単一民族国家ではありません」
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