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第11章:上陸

第4話:ミンミンの縁談

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「ええっと……。どういう状況だ?」

「うわぁ……。エーリカ様が御満悦な表情なのです。しかも、そのエーリカ様の足を洗っているタケルさんもまんざらでもないという表情なのです。これは軍の規律を乱したということで、ふたりを成敗していいのですか??」

「おいらから見れば、どちらも役にハマっているってだけの感じだだべさ。ほっとけば、そのうち、何やってんだろ……と眼を覚ますはずだべさ」

 エーリカたち先遣隊はアデレート王家が拠点にしている仮の王都:カイケイに到着し、さらにそこの一画に押しやられてから、早5日が経過していた。その先遣隊に遅れること、6日目の昼には、アベル隊500がカイケイに到着した。

 そのアベル隊の幹部たちが屋敷で眼にしたのは、気持ち良さそうに足を洗ってもらっているエーリカの姿であった。まさにあるじと下男との関係はこうあるべきだという様相を醸し出しているエーリカとタケルであった。タケルはエーリカの生足を両手で持ち、桶からすくった水で、丁寧にエーリカの生足を洗う。エーリカはご満悦と言った感じで、タケルからのご奉仕を受けるのであった。

「やあやあ。久しぶりですね。あの2人のことは見て見ぬ振りをしてください。アデレート王家の代表と面会を果たしたは良いんですが、そこからずっと放置されていて。そして、暇になったエーリカ殿とタケル殿が賭け事に興じていたってだけですので」

「な……なるほど。しかし、援軍を頼んだ割りには、いささか悠長すぎんか? アデレート王家は」

「チュッチュッチュ。土地をくれと言われて、はいそうですねとはならないのが普通でッチュウ。もうしばらく放置されると思うから、アベルとレイヨンも同じことをする羽目になるでッチュウよ?」

「うぅ……、それは魅力的、いや悪魔的提案なの……です。私はアベル隊長にどんな罰を与えたら良いんでしょうか?」

「そこはふたりで決めてください。でも、白昼堂々の子作りはやめてくださいね? それはさすがに軍規の乱れということで、厳しく取り締まらなければなりませんので。あと、ミンミン殿。エーリカ殿からの別命がありますので、あちらで話をしましょう」

 アベルがちょっと待てぃ! とクロウリーを止めようとする。だが、クロウリーはアベルの静止も聞かずに、別室へとミンミンを連れて行く。背中の方からアベルのやめて許してという声が聞こえるが、クロウリーたちは耳から入る情報を完全にシャットダウンしてしまう。

 あてがわれた屋敷の別室へと案内されたミンミンは、どうしたんだべ? という不可思議な顔つきになっていた。そんなミンミンを着席させたクロウリーは、背の低い机の上にほっぺたが堕ちそうなほどに甘いお菓子を並べるのであった。ミンミンはさすがにこれは罠だということには気づいていた。この甘いお菓子に手をつければ、とんでもないことを頼まれるという危惧を抱いてしまう。

「ミンミンくんはほうじ茶が好きでしたね」

 クロウリーは何もない空間から急須と湯飲み茶碗を取り出し、これも机の上に置く。そして、ミンミンに船旅お疲れ様でしたと、ミンミンを待ちわびていたという雰囲気をバリバリに前面へと押し出していく。ミンミンは机の上のお菓子とクロウリーの顔を交互に見る。クロウリーはそんなミンミンに対して、毒なぞ入っていませんよと、優しい口調で告げる。

「あむあむ。本当に美味しいんだべさ! おいら、クロウリー様にとんでもないことを頼まれるのはわかっているのに、手を止められないんだべさ!」

「いやいや……。そんなに大変なことを頼むわけではありません。ミンミン殿に縁談の話を持ってきただけです……」

「え、縁談だべか!? 唐突すぎるんじゃないだべさ!?」

 さすがのミンミンもクロウリーお手製のお菓子を食べる手を止めてしまう。縁談とはどの縁談だべ? とミンミンがクロウリーに問いかけると、クロウリーにしては珍しいほどの邪悪な笑みをその顔に浮かべるのであった。ミンミンはゴクリ……と喉奥にお菓子を押下してしまう。

「日に日に血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団ではカップルが成立していっています。そこは気にしていません。そりゃ、同じ釜の飯、同じ湯舟に浸かり、同じ洗い場で背中を流し合ってりゃ、嫌でも惚れた腫れたなんて当然起きえますから」

「チュッチュッチュ。ヒトの営みを止めるなんて出来るわけがないでッチュウからね。ただボクらは血濡れの女王ブラッディ・エーリカの幹部なのに、特定の相手が居ないミンミンを心配してのことなんでッチュウ」

「それを言うなら、クロウリー様もそうじゃないだべか?」

 ミンミンの的確過ぎるツッコミにクロウリーとコッシローが固まる。まるで石像のように固まってしまったクロウリーだが、彼の顔面から汗がダラダラと噴き出る。そこはタケル殿も~と言ってほしかったのだが、まさか自分の名前を挙げられるとは思わなかったのだ。

「ごほん……。先生は4人の偉大なる魔法使いであるゆえに、現世に関われるのは限定されるんです。ええ、これは創造主:Y.O.N.N様が決めたルールなので、致し方ないのです!」

 こいつ、上手いこと、ごまかしやがったという表情になるミンミンとコッシローであった。事情があることを察したミンミンは、おいらで良ければ、その縁談話に乗るだけ乗ってみせると言い出した。クロウリーはミンミンの右手を両手で優しく包み込み、さすがミンミンさんですと、心から感謝するのであった。

「んで? おいらはどの方と縁談するんだべ? おいらが良くても、向こうは承知なのだべか?」

「そこはあちらでは腫物扱いなので、引き取り先を探していたんですよね。渡りに船とはまさにこのことだという感じて、その方の周りは大歓迎ムードですよ」

「チュッチュッチュ。策を弄するつもりが、あちらが思いっ切り乗り気だったのには、びっくりしたでッチュウね。あとはミンミンの返事待ちだったのでッチュウ」

「ふ~~~ん。向こうが大丈夫なら、おいらは大丈夫だべ。いつ、その方とのお見合いをするんだべ?」

「ご心配に及びませんよ。さあ、入ってきてもらえますか?」

 ミンミンは頭の上にクエスチョンマークを浮かべる前に、自分との縁談話に登場する人物を紹介されてしまうことになる。ミンミンは思ってもいなかった展開により、右手に持っていた湯飲み茶碗を机の上に落としてしまう。慌てたミンミンがひっくり返った湯飲み茶碗を再びその手に持とうとする。

 だが、その湯飲み茶碗はお茶でべたべたになっており、ミンミンの手から擦り落ちていき、さらには絨毯の上へと転がっていってしまうのであった。ミンミンはその湯飲み茶碗を追いかけ、ソファーから尻を離す。だが、その湯飲み茶碗を拾う前に、部屋に入ってきたとある女性の額と自分の額がごっつん! という痛そうな音を奏でることになる。

「いったぁぁぁぁ! こういうことってありますの? こんなのギャグそのものですわ」

「も、申し訳ないんだべっ! ってか、すっごいキレイなんだべ……」

「しょ、初対面の女性にキレイとはっ! 話に聞いていた人物像とは違いますっ! とても真面目で優しいひとと聞いておりましてよっ! それなのに、いきなりキレイだと言ってくるのは甚だ軽いひとですわねっ!」
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