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第11章:上陸

第3話:処遇

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 玉座に座るオウロウに対して、諫言をおこなう姫武将が居た。エーリカはこんな王家でも立派な女性がいるのねと感心してしまう。だが、オウロウはわなわなと身体を震わせ、意見してきた姪っ子を思いっ切り叱り飛ばす。ケンキと呼ばれた女性は出過ぎましたと謝り、3歩、その場から下がってしまうのであった。

 ケンキが下がったことで、オウロウは玉座に深々と尻を乗せる。そして、ぞんざいな態度を崩さぬままに、ホバート王国からの要求に対しての返答を待てと言い、エーリカたちを行政府の屋敷から追い出すのであった。

「何なのよっ! 期待させるだけさせといて、あの娘もあの娘ですぐに下がってんじゃないわよっ!」

「まあまあ。腹立たしい気持ちはわかりますけど、ここは抑えてください。先生たちも先生たちで、アデレート王家では飲みがたい要求をしているわけですから……」

 エーリカたちは仮の王都:カイケイのとある一画へと追いやられる。そこにある屋敷に入ったエーリカは行儀が悪いのも承知で、木刀で訓練用の藁人形を滅多打ちにするのであった。タケルはおっかねえ……と思いながら、遠巻きにエーリカを観察していた。だが、そのタケルの横を通り、エーリカの軍師であるクロウリーがエーリカに接近し、エーリカを宥めるのであった。

 エーリカはハアハアと肩で呼吸をし、クロウリーから差し出されたタオルで肌に浮き出ていた珠となった汗を拭いとる。ふかふかのタオルを顔に押し付けることで、エーリカの頭に昇っていた熱がいくらか空へと発散していく。エーリカはふぅふぅ……と呼吸をし、もっと熱が身体の外へと出ていくようにと努める。

「しっかし、予想以上に俺たちは歓迎されていないな。ちょっとくらい土地をくれてもいいじゃねえか」

「それがすんなりまかり通るくらいだったら、それこそあんな代表を表に立てませんよ。失地に失地を重ねてきたアデレート王家です。ここから挽回するためにも、先の代表を引きずり落として、今のあの代表ですからね」

 今のアデレート王家の代表:オウロウ=ケイコウは、前の代表を『第3代失地王』という不名誉すぎる蔑称を与え、代表の座から無理やり引きずり落とした。ケンキはその失地王系譜の娘である。いくら排斥したと言っても、同じ王家ということもあり、前の代表の娘を閑職に就けた。

「その辺りの事情は仕方ないとしても、大器なのを示しつつ、器の小さいことをしてたら、意味ないじゃないの」

「それだけ、人材が居ないということでしょう。アデレート王家の守護者である大賢者殿ですら、見限るレベルですからね。いやまあ、あの方は面白そうな方につくという悪癖持ちなのですが……」

「チュッチュッチュ。4人の偉大なる魔法使いの中で、もっとも『博愛』という言葉から遠いのが大賢者:ヨーコ=タマモでッチュウからねぇ……。あいつには『俗愛』がぴったり当てはまるッチュウ。見限ると一度決めたら、ドン引きするくらいに行動が早いでッチュウ」

「そこが彼女らしいというか、女性らしいというか……」

 4人の偉大なる魔法使いは、それぞれにお気に入りの人物を見つけ出し、その人物のサポートに徹するという流れを作っていた。大精霊使いはテクロ大陸東にあるケアンズ王国の宰相を300年近く続けている。

 大賢者は南のアデレート王国、西のバース王国、そして、北のダーウィン王国の宰相を転々としてきた経歴持ちだ。エーリカの軍師であるクロウリー=ムーンライトもまた、各国で宰相の座に就いていたことがある。大賢者の現パートナーは剣王であり、クロウリーの今のあるじ血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団の首魁であるエーリカ=スミスであった。

 4人の偉大なる魔法使いの庇護が無くなる時、それがその国の終わりとも言われていた。そして、その言葉通りのことが現実で起きようとしていた。それがアデレート王国と、その王家ということになる。だからこそ、あのような不遜すぎる代表がアデレート王家をまとめているという逆説が成り立つのであった。

「まあ、いいわ。アデレート王家がどうなろうが、あたしにとって大事なのは、そのアデレート王家から土地をもらうってことだから」

「僻地なのか、最前線なのか? そこが肝心です。飛ばされるにしても、身動きしようが無い僻地に飛ばされては、良いように扱われるだけに終わりますから」

「どっちにしろ、良いように扱われるんだが、まだ最前線のほうがマシってことろが面倒だよなぁ。状況はどうであれ、お墨付きは絶対に必要だしな」

 エーリカはクロウリーにタオルを返すと、次は立てかけてあった木刀を1本取り、タケルに投げるように渡す。タケルはそれを土の地面に落としそうになるが、それをすくうように持ち直し、エーリカの前で構えを取るのであった。エーリカはタケルが構えを取るなり、まるで100年振りのライバルとの邂逅を楽しむかのように、タケルへと木刀を振り下ろしていく。

「タケルお兄ちゃんじゃ、物足りないけど、アイス師匠が到着するまで、あたしに付き合ってもらうわよっ!」

「おう、じゃんじゃんきやがれ! 俺も身体を動かして、ストレスを発散したいからなっ!」

「どちらも大怪我をしないようにしてくださいよ。治療術を使えるセツラ殿が到着していないのですから」

「出来る限り、寸止めに努めるわ。先に3本取った方が相手にひとつ要求できるってことで良い?」

「いいぜっ! エーリカに肩もみさせてやるよっ!」

 威勢の良いタケルにヤレヤレ……と嘆息せざるをえないクロウリーであった。クロウリーはそんな仲睦まじい兄妹を放っておき、自分はあてがわれた屋敷の執務室へと向かう。そこで、これからの血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団についての推測をコッシローと語り合うことになる。

「コッシロー殿から見て、今のアデレート王家の代表はどのような評価なのですか?」

「ボクに確認しなくても、それとなくわかるはずでッチュウよ? あんなの鑑定眼にかける必要も感じていないはずでッチュウ」

「先生は石橋を叩いて、叩き壊して、さらに自分で新しい鉄橋を架けるタイプなので……」

「ふんっ。念には念をってことでッチュウね。ボクの見立てでは、おそらく血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団は最前線送りで、さらにはまともな支援をもらえる期待は無いってところでッチュウ。干されるのは覚悟の上で、味方を増やすしかないでッチュウ」

「そう……ですか。ならば、あのケンキという姫将軍とお近づきになりましょう。タケル殿は危険すぎるので、相方の居ないミンミン殿が良いでしょうね」

「お前も相当に悪い奴でッチュウね? でも、これだけは言っておくでッチュウ。男女の仲はコントロール出来るモノじゃないでッチュウ。結局は創造主:Y.O.N.Nのみが知ることでッチュウ」

「ほんと、ひとのえにしは嫌みたっぷりに言いますけど、先生たちがどうこう出来ることではないのでしょうよ。でも、そうだとしても、きっかけくらいはこちらでどうにか出来ます。ミンミン殿ならケンキ殿を口説けると思っています」
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