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第11章:上陸

第2話:仮の都

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 タコワサが無いことにブツブツと文句を言いつつも、クロウリーたちは魚の煮つけとお酒をおおいに楽しんだ。次の日には先遣隊500の士気も復活し、血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団は意気揚々とショウアンの港から北西50キュロミャートル先にある仮の王都:カイケイへと移動開始する。

 街道を北に進み、低い山と山の間にある間道を通ると、目的地である仮の王都:カイケイが見えてくる。エーリカはそのカイケイを見ると、目を丸くしてしまうのであった。

「ここに向かっていく道中でも、驚きを隠せなかったけど、本当にテクロ大陸本土にある町や街、さらには村にまで。そして、仮の王都なのに、ぐるっとその周りを石壁で囲っているわね」

「そうですね。ホバート王国なんて、王都くらいですから。石壁で厳重に街をぐるっと囲んでいるのは。仮の王都なのに、王都:キヤマクラの方が支城に感じるほどです」

 仮の王都:カイケイを囲む石壁の高さはホバート王国の王都:キヤマクラのそれよりも2倍の高さを誇っていた。小高い丘に登れば、壁の向こう側に街が存在するのが丸見えであったキヤマクラに比べて、カイケイは山の中腹にまで登らなければ、その都市の中を覗き見ることは出来なかった。

 さらに仮の王都:カイケイを囲む壁は四角である。外と中との境界線をはっきりとキレイに分けていたのである。四角の石壁の東西南北にそれぞれ門がひとつづつ配置されている。キヤマクラとカイケイはそもそも造りが違っていたのだ。そのカイケイの南の大門の前へと血濡れの女王ブラッディ・エーリカの先遣隊500が到着する。

「カイケイに何用だ。ことと次第によっては……」

「そんなに喧嘩腰にならないでください。先生たちはアデレート王家の救援へとやってきたホバート王国からの援軍なのです」

 クロウリーは門兵に対して、ホバート王国のイソロク王が発行した書状を見せつける。門兵は優男が見せつけてくる書状と優男の顔を交互に見る。そうしておきながらも、門兵はずっと渋い表情のままであった。上司に確認を取ってくると言い、門兵は一度、大門の奥へと消えていく。

「ほんっと、ホバート王国とは気質が違うってのが、この一連のやり取りだけで感じちゃう。ショウアンの港町のひとたちも、あたしたちのことを怪訝な表情で見てきたけど、門兵があからさまに胡散臭い奴らを見る目になってたわ」

「そこは仕方が無いと言えるでしょう。ホバート王国は国を二分するような大きな情勢不安定になったからと言っても、2~3年程度の短期間ですし。同じ国内でいがみ合った時間が短すぎます。あっちとこっちで客人に対する態度が違って当たり前ですよ」

「戦国時代が200年も続けば、人心から信用とか信頼なんて言葉は消え去り、キレイな言葉が全部、嘘っぱちに聞こえて当然の土地柄になるよな……。いやだいやだ。俺たちもこれに染まらなきゃならんのかね?」

「そうならないためにもエーリカ殿という存在があるのです。エーリカ殿がテクロ大陸本土で平和な国を興し、さらにはテクロ大陸本土に起きている争乱を鎮めるのです。エーリカ殿。どうか、平和という感覚をとうの昔に忘れたテクロ大陸の住人たちに希望の光を見せてやってください」

「おおげさすぎるわ、クロウリー。でも、あたしはあたしが出来ることを出来る限り、やってみせるわ」

 エーリカたちが南の大門前で足止めを喰らってから、30分後、ようやく先ほどの門兵が戻ってくる。門兵は先ほどは失礼なことをしたと、深々と頭を下げ、血濡れの女王ブラッディ・エーリカの先遣隊500を大門の向こう側へと通すのであった。

「最初から素直に門をくぐらせてほしいわ。まさか30分も足止めを喰らうなんて、予想外すぎた」

「逆に王都:キヤマクラがぬるすぎるんですけどねっ。キヤマクラはキヤマクラで問題ですが、ここまで厳重に門を守っていたら、流通すら滞りますよ、カイケイは」

 クロウリーの言う通り、仮の王都とされているカイケイは活気がかなり無かった。人々の行き交いは王都内で限定されており、それが淀みとなっていることがはっきりと空気で感じ取れる。エーリカは何だかなぁ……という気持ちでやきもきとしてくる。

 国が発展するには、街や町、そして村に活気があるかどうかだ。だが、高すぎる石壁により、外界と内側をはっきりと区別しているカイケイの中を歩いていると、アデレート王国の終焉は近いのだと、この王都に足を踏み入れたばかりのエーリカですら、すぐに勘づいてしまうのであった。

 南の大門を通された血濡れの女王ブラッディ・エーリカの先遣隊500が向かった先はカイケイの中心部にある行政府が置かれている多層構造の屋敷であった。平屋の上に平屋を乗せたような形の屋敷の前にある広場で、エーリカたちは衛兵たちに足を止められる。またか……とエーリカは思わざるをえない。

 ここに来るために、何個か門をくぐってきたが、その度に足止めをされてしまう。『囲』という文字そのままの形をしているのがカイケイのみやこであったのだ。その度にエーリカの気持ちが段々と下方へと向かっていく。だが、下がっていく気持ちを下から上へと押し上げていく別の気持ちがあった。

 その別の気持ちとは『怒り』であった。エーリカは何故に怒りという感情が腹の底から沸いてくるのかわからなかった。だが、その感情が何故、芽生えたのかを教えてくれる人物が行政府の屋敷の奥に居た。

「ふんっ! イソロク王め。我がアデレート王家を舐めくさりおって! 世が世なら、ホバート王国に攻め込んでやるというのにっ!」

 エーリカがアデレート王家の代表者と面会を果たす。だが、その代表者はエーリカからの挨拶を受けるや否や、エーリカを通して、その向こう側にいるイソロク王を口汚く罵り始めたのだ。そして、続けざまにエーリカにホバート王国はどれほどの兵を送ってくれるつもりなのかと、問いただす。

「先遣隊500に続き、五日後にはもう500。さらに順次続いて、計4000にまで膨らむ予定です」

「田舎のホバート王国にしては、よく出してくれたと感謝すべきか? いや……。そもそも、先代のトーゴー王が支援してくれていれば、アデレート王家がここまで追い詰められることも無かったはずだっ! なあ? そうであろうよ!?」

 エーリカはアデレート王家の代表者であるオウロウ=ケイコウの所作ひとつひとつにイラつきを覚えていた。さらにエーリカがオウロウ=ケイコウのことが気に喰わないと思ってしまことは、彼の周りを固める文官、武官が然り然りとオウロウ=ケイコウと同調しまくったことであった。

「叔父上……。せっかくのホバート王国の援軍の方々に対して、失礼すぎませんか? わたくしはそのような態度はいささかやりすぎかと思いますわ」

「ああん!? 女ごときがしゃしゃり出るではないっ! 人が足らずに将軍位を与えたことで、増長しおったか? ケンキよっ!」
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