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第9章:スタート地点

第10話:タケルの価値

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 クロウリーはレイヨンがなかなかに人物評に優れていると思ってしまう。レイヨンの場合は真面目がゆえに、相手のことをじっくりと見るという『観察眼』に優れているというところか。彼女に似た能力持ちであるコッシローは優れた『鑑定眼』を持っている。

 コッシローのはどちらかというと『人相占い』に近しい。過去に出会った人物たちをデータ化し、それを元に人物鑑定をおこなう。それに対して、レイヨンは相手の言動をじっくり見ることで人物評をおこなうタイプだ。どちらが秀でているという話ではない。どちらも有用であり、使い分けが必要であるのだ。

 クロウリーはレイヨンの人物評を面白く感じ、他の人物たちのレイヨンから見た評価を聞くことになる。その度にレイヨンなりの見方に感心してしまうのであった。そして、クロウリーはタケル殿はどういう風に見えているのかとレイヨンに聞いてみる。

「タケル殿……ですか? うーーーん、一番難しいひとの名前があがったのです。周りからの評価はきっと『天然たらし』なのです」

「おや? その口ぶりからすると、レイヨン殿はまた違った評価を持っていると?」

「はい。私から見ると『天井も底もどちらも見えない恐ろしい人物』という評価になるのです。タケルさんを見ていると、決して覗いてはいけない『闇』を感じるのです! タケルさんが何故に『天然たらし』になってしまうかというと、その『闇』に起因している形になると思うのです!」

 クロウリーはなるほど……と感慨深い気持ちになる。わかっているひとはわかっているのだと、ちょっと嬉しく感じてしまう。皆がタケルの扱いがぞんざいなのは致し方ない部分がある。普段のタケルは不真面目で、さらには飄々としている。その掴みどころの無さに追い打ちをかけるように、彼を頼りにしてはいけない雰囲気を感じさせるのだ。

 そうだからと言って、邪険に扱われているわけではない。ある程度のリスペクトをしつつ、肝心なところで頼ってはいけないという、まさに扱いが難しい人物なのだ。有用に活用出来ないのはお前がその器量を持っていないとでも、言われてしまいかねない。こんな扱いに困る人物を使いこなすほうが難しい。

 ひとはどうしても安定性を求める。それがいくさ場となれば、それは顕著になってくる。隊長格たちはそういう事情もあって、タケルを補佐にしたがる者は現れていない状況であった。それゆえにクロウリーはタケルを安心して、ひとり占め出来る状況であった。クロウリーはタケルを操り、彼の実力を発揮できるような配置を出来るという自信があったからだ。

「ん? なんか鼻がむずがゆいんだけど? お前ら、もしかして、俺がいない間に、俺の噂をしてた?」

「チュッチュッチュ。花粉症じゃないでッチュウか? タケルの噂をしたところで、一銭の得にもならないのでッチュウ」

 タケルは右肩にコッシローを乗せて、料理場へとやってくる。タケルは鼻を指でいじりながら、スンスンと何かの残り香を嗅ぐような仕草を見せる。レイヨンはそんなタケルの姿を見て、あわわ……と動揺してしまうのであった。

「おや。タケル殿にコッシローくん。先生はレイヨン殿と一緒に、次に調理場へ現れる人物を当てるゲームをしていたのです。そうですよね? レイヨン殿」

「は、はい! まさか、私の予想が的中するとは思わなくて、驚いていたのです!」

 レイヨンはクロウリーに助け舟を出され、それに全乗っかりする形をとる。悪口とは言わないが、人物評というのは受け取るひとにとっては、非常に不愉快に感じてしまう部分がどうしても出てくる。それゆえに、そういうことをしていなかったという風に収めてしまいたかった。

「じゃあ、正解したレイヨンには何か賞品を贈らなきゃいけないなっ。何が欲しいんだ?」

「そ、そういうところがタケルさんのダメなところだと思うのです! 私は所用を思い出したので、失礼させてもらいますのです!」

 レイヨンはそう言い、調理場を後にしようとする。だが、心の中のひっかかりを解消するためにも、一度、タケルの方に振り向き、強めの非難の視線を飛ばす。

「エーリカ様を泣かせたら、血濡れの女王ブラッディ・エーリカの女性連合全員でタケルさんを正座させて説教するのです! これだけは覚えておいてほしいのです!」

 言いたいことを言い切ったとばかりにレイヨンは調理場から姿を消す。タケルは頭の上でクエスチョンマークを3つほど浮かべてしまう。そして、俺、何かレイヨンを怒らせるようなことをしたっけ?? とクロウリーに質問するのであった。

「レイヨン殿は別に怒っていませんよ。ただ単にレイヨン殿はアベル殿のように生真面目すぎなのです。不真面目なタケル殿と反りが合わないだけだと思いますよ?」

「チュッチュッチュ。反りが合わない相手でも、無理やりに合わせてしまうのがタケルでッチュウからねぇ……。お前は本当にもう少し、自覚を持った方が良いでッチュウよ?」

「えーーー!? 自覚しろって何をだ? つか、エーリカが顔を真っ赤にして、正座している俺を蹴っ飛ばしまくってた、その直後だぜ? そこから解放されたばかりの俺に次はレイヨンを理解しろってか? エーリカだけでも無理だっつうの」

 反論するタケルに対して、冷ややかな視線を送るクロウリーとコッシローであった。こいつは『天然たらし』の癖に、包容力がまるで足りていない。下手をすれば、次は自分たちがタケルをその場で正座をさせて、小一時間ほど説教してしまいたくなる。だが、それをしたところで、タケルは自分の『罪深さ』など、わかりもしないだろうと思えてしまう。

 タケルから見て、エーリカは『守らなければならない妹』なのだ。そして、タケルの中では、それは決して覆らない。姫と騎士ナイトの主従関係よりも、すがすがしいほどに清い純心ピュアな関係だ。そして、エーリカもまた、タケルを『お兄ちゃん』とでしか認識していない。

 こんな、いつ壊れてもおかしくない『理想の兄妹像』を黙認している血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団である。ある意味、腫物なのだ、タケルとエーリカの関係は。だから、こいつら、いい加減、どうにかなっちまえよと思うようなイチャイチャぶりをタケルとエーリカが皆に見せつけてはくるが、あくまでも『仲の良い兄妹』として、決して外からイジラないように細心の注意を払っていた。

 タケルとエーリカが『理想の兄妹像』を保っていられるのは、皆の消極的な協力があってからこそ、成り立っている。そこは血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団における『聖域』とも『禁忌』とも言える部分になってしまった。2人がその関係性を最上と思っているのならば、それで良いのだと、周りもそうしてしまっている。

「チュッチュッチュ。タケルは幸せ者なのでッチュウ。可愛い妹に説教されるのは、ご褒美でッチュウよね?」

「んーーー!? そりゃ、どういう風に受け止めたらいいんだ? 俺は別にエーリカに説教されるために産まれてきたわけじゃねえぞ??」

「テクロ大陸本土に渡っても、この日常をおこなえることを祈っていますよ。タケル殿はこの日常のキーパーソンなのですから……」
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