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第8章:在りし日の感傷
第7話:嫉妬の聖痕
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クロウリーの意識が寸断されて、眼の前を真っ黒な幕が降りる。そして、次の開幕とばかりにその真っ黒な幕が天上へと昇っていく。クロウリーは今、自分が何者であるかを確認する。着ている服から察するに、かつて自分が宰相を務めたとある国の王城にいることを認識する。
「クロウリー師匠! ここにお出でだったか! 随分、探したぞ」
「ああ、これは〇〇殿。何か問題が起きましたか?」
「それが聞いてほしい。俺の婚約者があろうことか、俺の妹であるリズに嫉妬してだな。俺は妹にそんな感情を一切抱いていないと言っているのに、まるで聞いてくれないんだ」
「それはそれは。〇〇殿は天然のたらしですからね。婚約者殿も気が気ではなくなるのは当然です」
クロウリーはクスクスと笑いながら、彼が6歳の頃から教育係を務めていた〇〇と受け答えする。〇〇は憤慨しながら、クロウリーの言を否定しに入る。
「笑いごとではないっ! 俺は誰にでも誠実でありたいと願っているだけだっ! それが何故、あいつにはわからないんだっ。俺の言うこと全てがただの言い訳に聞こえるらしい」
「では、籍を正式に入れるのはまだですが、いっそ、抱いてしまわれればよろしいかと。自分に忠実な女にしてしまえば良いのです」
クロウリーは自分で言っていることの意地の悪さを理解していた。〇〇は決して、女子をそのようには扱わない。天然のたらしなくせに、倫理観はしっかりとしていた。それもクロウリーの教育あってこそだが、〇〇は女子だけでなく、誰に対しても、公平で誠実であろうとした。
そういうところがダメなのですとツッコミを入れてやりたいのだが、それはコッシロー=ネヅの役目だ。そして、待ち構えていたかのようにクロウリーの右肩に乗っている白ネズミの精霊が、〇〇にきついツッコミを入れるのであった。〇〇はたじたじとなり、顔を真っ赤にしてしまっている。
「お、俺は婚前交渉はダメだと思っている……。そりゃ、クロウリー師匠にそう教育されたってのもあるが、俺は俺で、ちゃんと考えている。俺は将来、この国の王になる男だ。国民への示しのため、自分の誇りのため、そして婚約者を大事にしているという気持ちを伝えたい」
「チュッチュッチュ。そんなことを言っていると、婚約者ちゃんに浮気されるでッチュウよ? 忙しいクロウリーにわざわざ相談しにきたってことは、婚約者ちゃんが他の男の名前を出したんでッチュウよね??」
コッシローの言に、たじたじとなってしまう〇〇であった。そのいじり甲斐のあるヘタレっぷりにコッシローはますます〇〇を追い詰めるべく、言葉を重ねていく。クロウリーはヤレヤレ……と嘆息してしまう。そんなクロウリーであったが、とある場所から自分を覗き見している人物を察知していた。
クロウリーはその熱い視線を感じながらも、徹底的に無視し続けた。その熱い視線を飛ばしてきていたのは、今、自分に相談しにきている〇〇の妹君であったからだ。〇〇は来年で18歳。彼の妹君のリズは来年で16歳。どちらも多感なお年頃だ。そして、今はまだリズからの視線には『あこがれ』という感情が9割を占めていた。残りの1割は言わずもがなである。
クロウリーはその残りの1割が9割のそれと入れ替わらないようにと祈った。この3人の関係を自分から崩したくなかったからだ。自分はあくまでもこの国の未来を担う〇〇と、その妹君の補佐でありたかった。彼らそれぞれの幸せを願ってやまなかった。
だが、クロウリーに課せられた原罪はまたしても、彼に安息の地を与えなかった。場面が急展開する。クロウリーは王城のとある一室にいた。そこは外からの雷光が間断なく差し込んでくる暗い寝室であった。その寝室のベッドの上でリズは実の兄である〇〇に全身くまなく穴という穴を穢されていたのである。
「〇〇殿っっっ!!」
クロウリーはベッドに駆け付け、〇〇の肩を掴み、強引にこちらの方へと向けさせる。するとだ、彼の額には聖痕が怪しい光を放っていた。〇〇はまるでこの世の終わりを告げるかのような悲嘆な表情になっていた。クロウリーはまたしても、このような結果になってしまうのかと苦々しい表情になる。
「ダメだった。いくらクロウリーに再三注意を受けていても、俺は俺に宿った聖痕を扱いきれなかった……。俺は『嫉妬』に狂ってしまった……。リズが見つめる先にいるお前を許せなかった」
「〇〇殿っっっ!!」
「ああ、クロウリーの体温が温かい。俺はこの優しい世界を壊したくなかった。リズが俺ではなく、お前を愛していることに気づいた時から、俺は狂い始めたんだ」
クロウリーは〇〇を力いっぱい抱きしめる。しかしながら、力強く抱きしめられればられるほど、〇〇の額に浮かぶ聖痕からは怪しい光が力強く放たれていた。クロウリーはどうすることも出来ないのかと、自分の無力さを嘆くことになる。クロウリーは〇〇も、リズもどちらも等しく愛していた。
だが、彼らはニンゲンだ。情に流される弱い存在だ。そして、情の中でも最も強い感情が『愛情』であった。そして、次にくるであろう2番目に強い感情を全身から発する〇〇であった。
「ああ、この世界の全てが憎い。何故、俺はリズとクロウリーを祝福できなかったんだっ! 俺にはあんなに美しい婚約者がいたのにっ! ダメな俺をクロウリーと共に支えてくれようとした彼女がいたというのにっ!」
「〇〇殿。どうか、気持ちを抑えてください。このままでは、創造主:Y.O.N.N様が望むように、貴方は冥皇に変えられてしまいますっ! どうか、私を信じてくださいっ!」
「ダメなんだ。いくら頭で理解していても、本能がそれを許してくれいなんだ……。俺は妹を本能で穢した、ただの一匹の獣にしか過ぎんのだ……」
〇〇の存在が希薄となっていく。クロウリーはこのままでは時間が無いことを悟る。〇〇に宿っている聖痕の暴走状態を放っておけば、この国全土が冥府に堕ちることは確定事項であった。クロウリーはそんな結末を望んではいなかった。いくら、リズを穢し、この優しい世界を壊してしまった〇〇だとしても、クロウリーが〇〇だけでなく、リズも救いたいという気持ちは本物であった。
「コッシローくん。私は禁術を行います。コッシローくんは私のために、禁術を使ったことによる負担を半分ほど担ってくれますか?」
呼びかけられたコッシローは、クロウリーの右肩で存在感を強めていく。そして、後ろ足の2本足で立ち上がり、前足で器用にも魔法陣を描き出す。クロウリーはコッシローのその行為を見て、彼は自分の決断を『是』として捉えてくれていると感じた。
「ふんっ。これはツケなのでッチュウ。いいか、よく聞くんだ、〇〇。お前は飛ばされた先でもリズとの縁は切れることは無いのでッチュウ。だが、それでも安心しておくんだッチュウ。ボクとクロウリーがお前を助けにいくんでッチュウ」
「クロウリー師匠! ここにお出でだったか! 随分、探したぞ」
「ああ、これは〇〇殿。何か問題が起きましたか?」
「それが聞いてほしい。俺の婚約者があろうことか、俺の妹であるリズに嫉妬してだな。俺は妹にそんな感情を一切抱いていないと言っているのに、まるで聞いてくれないんだ」
「それはそれは。〇〇殿は天然のたらしですからね。婚約者殿も気が気ではなくなるのは当然です」
クロウリーはクスクスと笑いながら、彼が6歳の頃から教育係を務めていた〇〇と受け答えする。〇〇は憤慨しながら、クロウリーの言を否定しに入る。
「笑いごとではないっ! 俺は誰にでも誠実でありたいと願っているだけだっ! それが何故、あいつにはわからないんだっ。俺の言うこと全てがただの言い訳に聞こえるらしい」
「では、籍を正式に入れるのはまだですが、いっそ、抱いてしまわれればよろしいかと。自分に忠実な女にしてしまえば良いのです」
クロウリーは自分で言っていることの意地の悪さを理解していた。〇〇は決して、女子をそのようには扱わない。天然のたらしなくせに、倫理観はしっかりとしていた。それもクロウリーの教育あってこそだが、〇〇は女子だけでなく、誰に対しても、公平で誠実であろうとした。
そういうところがダメなのですとツッコミを入れてやりたいのだが、それはコッシロー=ネヅの役目だ。そして、待ち構えていたかのようにクロウリーの右肩に乗っている白ネズミの精霊が、〇〇にきついツッコミを入れるのであった。〇〇はたじたじとなり、顔を真っ赤にしてしまっている。
「お、俺は婚前交渉はダメだと思っている……。そりゃ、クロウリー師匠にそう教育されたってのもあるが、俺は俺で、ちゃんと考えている。俺は将来、この国の王になる男だ。国民への示しのため、自分の誇りのため、そして婚約者を大事にしているという気持ちを伝えたい」
「チュッチュッチュ。そんなことを言っていると、婚約者ちゃんに浮気されるでッチュウよ? 忙しいクロウリーにわざわざ相談しにきたってことは、婚約者ちゃんが他の男の名前を出したんでッチュウよね??」
コッシローの言に、たじたじとなってしまう〇〇であった。そのいじり甲斐のあるヘタレっぷりにコッシローはますます〇〇を追い詰めるべく、言葉を重ねていく。クロウリーはヤレヤレ……と嘆息してしまう。そんなクロウリーであったが、とある場所から自分を覗き見している人物を察知していた。
クロウリーはその熱い視線を感じながらも、徹底的に無視し続けた。その熱い視線を飛ばしてきていたのは、今、自分に相談しにきている〇〇の妹君であったからだ。〇〇は来年で18歳。彼の妹君のリズは来年で16歳。どちらも多感なお年頃だ。そして、今はまだリズからの視線には『あこがれ』という感情が9割を占めていた。残りの1割は言わずもがなである。
クロウリーはその残りの1割が9割のそれと入れ替わらないようにと祈った。この3人の関係を自分から崩したくなかったからだ。自分はあくまでもこの国の未来を担う〇〇と、その妹君の補佐でありたかった。彼らそれぞれの幸せを願ってやまなかった。
だが、クロウリーに課せられた原罪はまたしても、彼に安息の地を与えなかった。場面が急展開する。クロウリーは王城のとある一室にいた。そこは外からの雷光が間断なく差し込んでくる暗い寝室であった。その寝室のベッドの上でリズは実の兄である〇〇に全身くまなく穴という穴を穢されていたのである。
「〇〇殿っっっ!!」
クロウリーはベッドに駆け付け、〇〇の肩を掴み、強引にこちらの方へと向けさせる。するとだ、彼の額には聖痕が怪しい光を放っていた。〇〇はまるでこの世の終わりを告げるかのような悲嘆な表情になっていた。クロウリーはまたしても、このような結果になってしまうのかと苦々しい表情になる。
「ダメだった。いくらクロウリーに再三注意を受けていても、俺は俺に宿った聖痕を扱いきれなかった……。俺は『嫉妬』に狂ってしまった……。リズが見つめる先にいるお前を許せなかった」
「〇〇殿っっっ!!」
「ああ、クロウリーの体温が温かい。俺はこの優しい世界を壊したくなかった。リズが俺ではなく、お前を愛していることに気づいた時から、俺は狂い始めたんだ」
クロウリーは〇〇を力いっぱい抱きしめる。しかしながら、力強く抱きしめられればられるほど、〇〇の額に浮かぶ聖痕からは怪しい光が力強く放たれていた。クロウリーはどうすることも出来ないのかと、自分の無力さを嘆くことになる。クロウリーは〇〇も、リズもどちらも等しく愛していた。
だが、彼らはニンゲンだ。情に流される弱い存在だ。そして、情の中でも最も強い感情が『愛情』であった。そして、次にくるであろう2番目に強い感情を全身から発する〇〇であった。
「ああ、この世界の全てが憎い。何故、俺はリズとクロウリーを祝福できなかったんだっ! 俺にはあんなに美しい婚約者がいたのにっ! ダメな俺をクロウリーと共に支えてくれようとした彼女がいたというのにっ!」
「〇〇殿。どうか、気持ちを抑えてください。このままでは、創造主:Y.O.N.N様が望むように、貴方は冥皇に変えられてしまいますっ! どうか、私を信じてくださいっ!」
「ダメなんだ。いくら頭で理解していても、本能がそれを許してくれいなんだ……。俺は妹を本能で穢した、ただの一匹の獣にしか過ぎんのだ……」
〇〇の存在が希薄となっていく。クロウリーはこのままでは時間が無いことを悟る。〇〇に宿っている聖痕の暴走状態を放っておけば、この国全土が冥府に堕ちることは確定事項であった。クロウリーはそんな結末を望んではいなかった。いくら、リズを穢し、この優しい世界を壊してしまった〇〇だとしても、クロウリーが〇〇だけでなく、リズも救いたいという気持ちは本物であった。
「コッシローくん。私は禁術を行います。コッシローくんは私のために、禁術を使ったことによる負担を半分ほど担ってくれますか?」
呼びかけられたコッシローは、クロウリーの右肩で存在感を強めていく。そして、後ろ足の2本足で立ち上がり、前足で器用にも魔法陣を描き出す。クロウリーはコッシローのその行為を見て、彼は自分の決断を『是』として捉えてくれていると感じた。
「ふんっ。これはツケなのでッチュウ。いいか、よく聞くんだ、〇〇。お前は飛ばされた先でもリズとの縁は切れることは無いのでッチュウ。だが、それでも安心しておくんだッチュウ。ボクとクロウリーがお前を助けにいくんでッチュウ」
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