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第7章:エーリカの双璧
第3話:虎殺し
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「うぅ……。ブルースさんに説教されていると、お尻がうずいてきちゃんですぅ」
「たまにはヘタレに責められるのも悪くねえって思うなっ! 俺っち、そっち方面の性癖も開発されそうだぜっ!」
「お前ら、反省しているのでござるか!? 拙者は珍しくも怒っているのでござるよ!?」
ブルースは草地の地面に直接、正座させている2人を説教していたのだが、性的刺激を受けたかのようにゾクゾク! と嬉しそうな顔をしているケージとランであった。もっと、自分たちを責めてほしいとばかりの表情になっている。ブルースは気持ち悪さを感じて、説教を中断してしまう。そして、少し話を変えて、何故、そんな行動をしたのかの理由をケージたちから聞くのであった。
「なるほどでござる。ヘタレな拙者に自信を持たせようとばかりに、つい何も考えずに行動に走ってしまったわけでござるな?」
「そうだぜ。俺っちはブルース隊長が立派な隊長になるようにと、ランと画策しただけなんだっ!」
「ぼくたちの計画通りなら、今頃、ブルースさんは街行く先々で女子たちから黄色い声援をもらえる予定だったのですぅ。でも、ぼくたちの思っているような状況にはなっていなかったようなのですぅ」
ケージとランがやったことは単純なことであった。だが、単純がゆえに、ケージたちのとった行動は裏目に出てしまう。ケージたちは街を歩く度に、自分たちを囲んでくる女子たちに耳打ちしたのだ。
「先の大戦では、竹やぶから飛び出してきた俺っちでも腰を抜かすような大虎をその手に持つ斧槍で屠ったんだぜ? しかもたった一振りだ! 俺っちでもあんなことは出来やしねえ!」
「あの時のブルースさんの勇ましい姿には、ぼくのお尻が濡れ濡れになってしまったほどなのですぅ!」
ケージたちが取った行動とは、ブルースに字名をつけさせようとしたことだ。字名には自称と他称がある。誉れある字名が存在するように、悪名とも呼べる字名がある。ケージたちは戦場で戦う将なら誰しもが呼ばれたいであろう虎や鬼、そして龍にまつわる字名の中でも、『虎殺し』の異名をブルースが冠するようになってほしいと願った。
ケージたちは、ブルース隊長のことを『置かれた環境で化けるタイプ』だと評価していた。確かに、その評価自体はあながち間違っていなかった。その評価に基づき、他称による字名持ちになってもらおうとしたのだ。だが、実際にブルースが大戦において、大虎を退治したという事実は無かったのだ。
しかしながら、噂には背びれ尾びれがつく。その噂が血濡れの女王の団の首魁の耳に入った頃には、とんでもないことになっていた。そして、そんなことが起きていないことはエーリカが一番よく知っているとも言えた。そして、何故、そんな噂が立ったのかをクロウリーと相談したのだ、エーリカは。
相談を受けたクロウリーが導き出した答えは『ブルース殿もおちんこさんが股間に当たっただけでおちんこさんがフル勃起してしまう16歳だから、しょうがないんですよ』だった。エーリカは男がそうなってしまう仕方が無い部分があることを、先の温泉慰安会で痛いほど身に染みている。
それゆえに、軍の規律を引き締めるためにも、今朝の訓練開始前にブルースを呼び出し、エーリカ直々にブルースに厳重注意を行ったのである。まさに寝耳の水状態であったブルースだ。ヒトの噂というのは何故だかわからないが、本人の耳には入ってこない法則が存在する。『虎殺し』の異名を飛び越え、『女傑殺し』という異名を冠されつつあったブルースなのである。
先の大戦において、女傑と称される人物がふたりいた。その内のひとりは血濡れの女王の団の首魁であるエーリカ=スミスだ。しかし、女傑はエーリカの他にもうひとり存在していた。その女傑と戦場でラブロマンスな展開を起こしたと噂されてしまったのだ、ブルースは。
「すっげえな! 俺っちでも、あのひとを口説こうとは思わないぜ! そりゃ、エーリカ様が怒るのも当然だわっ!」
「うわぁ。そんなことになっていたんですねぇ。ぼくたちがばらまいた噂の根本ですけど、市中ではそんなことに発展していたんですねぇ……」
「その女傑殿が血濡れの女王の団に怒鳴り込んでくる前に、噂の元を絶ちなさいって言われたでござる! 拙者、気の強い女子はエーリカだけでお腹いっぱいなのでござる!」
怒鳴るブルースに対して、あっけらかんとしているケージたちであった。こいつらは何故、他人事のようにしていられるのだろうか? と不思議に感じてしまうブルースであった。噂の根本である張本人たちは、まるで自分がしでかしたことを肯定的に受け取っているようにも見えた。ブルースは怒り顔のままにケージたちを睨めつける。だが、ケージたちはまさにカエルのつらに小便のような表情をその顔に浮かべるのであった。
「エーリカ様の言う通り、あのひとが怒鳴りこんでくるんだろうなっ! 俺っち、楽しみでしょうがねぇ!」
「気の強い女性は大好物なのですぅ……。ハァハァ……。ブルースさん、その女傑と上手くいったら、ぼくにもおすそ分けしてもらえませんかぁ??」
「ばっかもーーーん!!」
今日1番の怒声が練兵場でコダマすることになる。怒り続けたブルースはさすがに怒り疲れたのか、ケージたちにはそのような二度と噂を流さないようにと最後に付け加え、この日の練兵を終える。ブルースはさすがに今日はケージたちを横に侍らせようとはしなかった。ケージたちはまだ怒っているのかよと、ヤレヤレ……と嘆息するばかりであった。
「ん? 何か固い物にぶつかったのござる」
「硬い胸板でわるかったなっ!!」
「お、お主はホランド将軍旗下のマーベル隊長殿!?」
「あたいに代わって、自己紹介どうもありがとう。そして、死ねっ!」
怒りが収まらぬブルースは視界が狭まっていた。それゆえに王都の街中で自分よりも頭ひとつ背が高い女性とぶつかってしまったことに気づくのが遅れてしまった。ここで紳士なら、すぐさま自分の無礼を詫びていたはずだ。しかし、怒りはヒトの心と身体を鈍らせる。
ブルースは最初、ぶつかったものを何か認識できなかった。それゆえにグリグリと額でその壁を押してみせた。石壁の固さとは違うが、その壁は弾力をわずかに持っている。ブルースは頭の中にクエスチョンマークを浮かべながら、その壁を押し切ろうとした。だが、その壁はぴくりともせず、不可思議に思ったブルースはその壁から額をどかし、仰ぎ見るように上を向いてみた。
ブルースがぶつかったのは壁ではなかった。おっぱいまで筋肉で出来ていそうな大女であった。そして、その人物が誰であるかも、すぐさま脳裏に浮かび、その名を呼んだ。だが、名を呼ばれた大女が返したのは右のストレートであった。
「たまにはヘタレに責められるのも悪くねえって思うなっ! 俺っち、そっち方面の性癖も開発されそうだぜっ!」
「お前ら、反省しているのでござるか!? 拙者は珍しくも怒っているのでござるよ!?」
ブルースは草地の地面に直接、正座させている2人を説教していたのだが、性的刺激を受けたかのようにゾクゾク! と嬉しそうな顔をしているケージとランであった。もっと、自分たちを責めてほしいとばかりの表情になっている。ブルースは気持ち悪さを感じて、説教を中断してしまう。そして、少し話を変えて、何故、そんな行動をしたのかの理由をケージたちから聞くのであった。
「なるほどでござる。ヘタレな拙者に自信を持たせようとばかりに、つい何も考えずに行動に走ってしまったわけでござるな?」
「そうだぜ。俺っちはブルース隊長が立派な隊長になるようにと、ランと画策しただけなんだっ!」
「ぼくたちの計画通りなら、今頃、ブルースさんは街行く先々で女子たちから黄色い声援をもらえる予定だったのですぅ。でも、ぼくたちの思っているような状況にはなっていなかったようなのですぅ」
ケージとランがやったことは単純なことであった。だが、単純がゆえに、ケージたちのとった行動は裏目に出てしまう。ケージたちは街を歩く度に、自分たちを囲んでくる女子たちに耳打ちしたのだ。
「先の大戦では、竹やぶから飛び出してきた俺っちでも腰を抜かすような大虎をその手に持つ斧槍で屠ったんだぜ? しかもたった一振りだ! 俺っちでもあんなことは出来やしねえ!」
「あの時のブルースさんの勇ましい姿には、ぼくのお尻が濡れ濡れになってしまったほどなのですぅ!」
ケージたちが取った行動とは、ブルースに字名をつけさせようとしたことだ。字名には自称と他称がある。誉れある字名が存在するように、悪名とも呼べる字名がある。ケージたちは戦場で戦う将なら誰しもが呼ばれたいであろう虎や鬼、そして龍にまつわる字名の中でも、『虎殺し』の異名をブルースが冠するようになってほしいと願った。
ケージたちは、ブルース隊長のことを『置かれた環境で化けるタイプ』だと評価していた。確かに、その評価自体はあながち間違っていなかった。その評価に基づき、他称による字名持ちになってもらおうとしたのだ。だが、実際にブルースが大戦において、大虎を退治したという事実は無かったのだ。
しかしながら、噂には背びれ尾びれがつく。その噂が血濡れの女王の団の首魁の耳に入った頃には、とんでもないことになっていた。そして、そんなことが起きていないことはエーリカが一番よく知っているとも言えた。そして、何故、そんな噂が立ったのかをクロウリーと相談したのだ、エーリカは。
相談を受けたクロウリーが導き出した答えは『ブルース殿もおちんこさんが股間に当たっただけでおちんこさんがフル勃起してしまう16歳だから、しょうがないんですよ』だった。エーリカは男がそうなってしまう仕方が無い部分があることを、先の温泉慰安会で痛いほど身に染みている。
それゆえに、軍の規律を引き締めるためにも、今朝の訓練開始前にブルースを呼び出し、エーリカ直々にブルースに厳重注意を行ったのである。まさに寝耳の水状態であったブルースだ。ヒトの噂というのは何故だかわからないが、本人の耳には入ってこない法則が存在する。『虎殺し』の異名を飛び越え、『女傑殺し』という異名を冠されつつあったブルースなのである。
先の大戦において、女傑と称される人物がふたりいた。その内のひとりは血濡れの女王の団の首魁であるエーリカ=スミスだ。しかし、女傑はエーリカの他にもうひとり存在していた。その女傑と戦場でラブロマンスな展開を起こしたと噂されてしまったのだ、ブルースは。
「すっげえな! 俺っちでも、あのひとを口説こうとは思わないぜ! そりゃ、エーリカ様が怒るのも当然だわっ!」
「うわぁ。そんなことになっていたんですねぇ。ぼくたちがばらまいた噂の根本ですけど、市中ではそんなことに発展していたんですねぇ……」
「その女傑殿が血濡れの女王の団に怒鳴り込んでくる前に、噂の元を絶ちなさいって言われたでござる! 拙者、気の強い女子はエーリカだけでお腹いっぱいなのでござる!」
怒鳴るブルースに対して、あっけらかんとしているケージたちであった。こいつらは何故、他人事のようにしていられるのだろうか? と不思議に感じてしまうブルースであった。噂の根本である張本人たちは、まるで自分がしでかしたことを肯定的に受け取っているようにも見えた。ブルースは怒り顔のままにケージたちを睨めつける。だが、ケージたちはまさにカエルのつらに小便のような表情をその顔に浮かべるのであった。
「エーリカ様の言う通り、あのひとが怒鳴りこんでくるんだろうなっ! 俺っち、楽しみでしょうがねぇ!」
「気の強い女性は大好物なのですぅ……。ハァハァ……。ブルースさん、その女傑と上手くいったら、ぼくにもおすそ分けしてもらえませんかぁ??」
「ばっかもーーーん!!」
今日1番の怒声が練兵場でコダマすることになる。怒り続けたブルースはさすがに怒り疲れたのか、ケージたちにはそのような二度と噂を流さないようにと最後に付け加え、この日の練兵を終える。ブルースはさすがに今日はケージたちを横に侍らせようとはしなかった。ケージたちはまだ怒っているのかよと、ヤレヤレ……と嘆息するばかりであった。
「ん? 何か固い物にぶつかったのござる」
「硬い胸板でわるかったなっ!!」
「お、お主はホランド将軍旗下のマーベル隊長殿!?」
「あたいに代わって、自己紹介どうもありがとう。そして、死ねっ!」
怒りが収まらぬブルースは視界が狭まっていた。それゆえに王都の街中で自分よりも頭ひとつ背が高い女性とぶつかってしまったことに気づくのが遅れてしまった。ここで紳士なら、すぐさま自分の無礼を詫びていたはずだ。しかし、怒りはヒトの心と身体を鈍らせる。
ブルースは最初、ぶつかったものを何か認識できなかった。それゆえにグリグリと額でその壁を押してみせた。石壁の固さとは違うが、その壁は弾力をわずかに持っている。ブルースは頭の中にクエスチョンマークを浮かべながら、その壁を押し切ろうとした。だが、その壁はぴくりともせず、不可思議に思ったブルースはその壁から額をどかし、仰ぎ見るように上を向いてみた。
ブルースがぶつかったのは壁ではなかった。おっぱいまで筋肉で出来ていそうな大女であった。そして、その人物が誰であるかも、すぐさま脳裏に浮かび、その名を呼んだ。だが、名を呼ばれた大女が返したのは右のストレートであった。
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