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第5章:ホバート王国統一戦

第3話:神算鬼謀

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 優しやゆえに迷う男は『牛』だと揶揄されることがある。だが、牛は牛でもその者は『猛牛』の場合もある。ゴンドール=バッヘムは普段は『牛』ではあるが、決して農耕用の牛では無い。腐っても将軍の位に就いている男なのだ、ゴンドールは。やる時はやる男なのである。そうだからこそタラオウ=フタグ大臣はゴンドール=バッヘムを後ろ盾にしているのである。

 政治と軍事力は切っても切れない仲だ。それぞれの大臣はそれぞれに将軍を後ろ盾にして、政治の場で発言をおこなっている。そういった関係は各々の相性も関わってくる。タラオウ大臣は、この優しい将軍が好きなのだ。その優しい将軍にエーリカを引き合わせたのには立派な理由がある。優しさだけでは、この世知辛い世の中を渡り歩いていくのは難しい。

 そのことを教えるためにも、タラオウ大臣はエーリカという暴れ馬をゴンドール将軍にあてがったのだ。その賭けはまさに大当たりだったと言ってよかった。化学反応を起こし合った2人が率いる3千の兵は怒涛の如く進軍を開始しする。

 ゴンドール将軍は鉱山都市:ゴウブから南東に軍を進める。チバラギ地方のとある小砦に北島軍2千が居留していたのだ。それを討つと総大将であるイザーク=デンタール将軍に報告していたのだが、語詰めの将軍が1千の兵を率いてやってくると、この場は任せたとばかりに兵を引き上げる。そこからまっすぐ北北西へと3千の兵を向かわせる。

 そこにも小砦があり、元々、包囲されていた南南東にある小砦を囲む3千の兵を背後から突こうと、その小砦から北島軍500が進発していたのだ。道中において、北島軍500とゴンドール将軍率いる3千の兵がぶつかりあうことになる。だが、名無しのクロウリーはここでゴンドール将軍にとある策を授ける。

「なん……だと……!? 3千の兵で一気にこちらを叩き潰せば良いのに、わざわざ半分に分けた!?」

 500の兵を率いる北島軍の隊長は驚きを隠せなかった。こちらに勢いよく向かってくる3千の兵がその半分の1500ずつに分かれたのだ。分かれたうちの半分は自分たちの後ろにある小砦へと一直線に向かっていく。隊長はこのままでは小砦を落とされると思い、きびすを返し、迫りくる1500の兵に背中を向ける恰好となる。

 だが、この隊長は運が良いことに、手勢500のほとんどを保持したまま、元居た小砦へと戻ることが出来た。自分はこれ以上にない幸運者だと思った。あとは援軍が来るまで籠城を続けるのみだと思ったからだ。

 しかし、クロウリーの巧みなところは、結局のところ、この小砦に見向きもしなかったことだ。小砦を護る隊長は目を疑った。この地で籠城戦が始まるかと思いきや、包囲の形を見せた敵はあっさりと、その包囲を解き、さっさと北北西へと向かって行ってしまう。追撃しようにも、とっくの昔に元の3千に戻ってしまっている。ここで兵500で追撃したところで、返す刀で討ち取られるのは火を見るよりも明らかだ。その隊長は切歯扼腕としながら、どこからも襲われずに無為の時間を過ごすことになる。

「とんでもない策士でごわす。敵を騙すにはまず味方からと言うが、ここまで敵味方ともに翻弄してしまうとは……」

「げに恐ろしきはクロウリー殿ですな。エーリカ殿たちが言うようにこのまま北北西に向かいましょうぞ」

 敵の追撃が無いことを確認したゴンドール将軍は、先に向かわせた血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団を追う。ゴンドール将軍が率いる1500と前を進むエーリカたちとの差は数時間あるものの、それでもすぐに追いつくと思っていた。

 それもそうだろう。オシノビ城まではまだまだ小砦がいくつも点在していた。それぞれに300~500の兵が詰められている。どこかしこらで小砦に時間を割かれるだろうと予想していたのだゴンドール将軍は。だが、ゴンドール将軍は目を疑った。いくら先をいくエーリカたちを追おうが、一向にその差が縮まろうとはしなかったのだ。

 エーリカたちはぶつかる小砦ごとに、ゴンドール将軍がおこなったことをそのままやってみせたのだ。小砦が囲まれることで、その小砦を支える他の小砦から救援の兵がやってくる。そして、包囲網を解くことで、救援の兵を迎え討つ。単純にその繰り返しをおこなったのだが、陽動も同時におこなっていたために、まともに救援の兵が戦える状態ではなかった。

 ゴンドール将軍は無傷の小砦を横目に見ながら通過していく。その小砦に背を向ければ、そこから兵が溢れ出すのではないのか? という危惧に襲われる。少しばかり離れた位置で足を止めて、小砦の様子を見ることになる。このゴンドール将軍の動きも全て名無しのクロウリーの策であることにゴンドール将軍自身が気づいたのは、オシノビ城から南に約3キュロミャートル地点にまでやってきた時であった。

 そこはオシノビ城の支城のひとつがあった。エーリカたちはこの支城だけは無視せずに、落としにかかっていたのである。本城であるオシノビ城から支城を救援するための兵が3千出てきていた。しかしながら、エーリカたちは支城の包囲を決して解こうとはしなかった。ここにきて、ゴンドール将軍は、この地が自分たちにとっての決戦場であると知る。

 エーリカたちに支城攻略を任せ、自分たちは1500で救援軍3千を野外で迎え撃つことになる。ゴンドール将軍は甚だ勘違いしていた。確かにゴンドール将軍が率いる3千の兵は寄せ集めであった。だが、今、ゴンドール将軍が率いる1500の内、1千は南島軍の正規兵である。慌ててオシノビ城から飛び出してきた3千の兵と互角に渡り合えるだけの力を持っていたのだ。

さらにゴンドール将軍を驚かせる一幕が野外戦で見受けられることになる。ゴンドール率いる1500とオシノビ城から支城へと送られた救援3000が、がっぷり四つの形で攻防戦を繰り広げていた。これは名勝負だと心が昂っていたゴンドール将軍は自分の補佐たちに激を飛ばすように指示を出す。しかしながら、その激が飛ぶ前に、鬨の声が自分から見て、北東側から聞こえ出したのである。

「なんとっなんとっ! ここでも今までと同じように兵を分けるのでごわすか! これぞ神算鬼謀でごわすっっっ!」

 ゴンドール将軍はエーリカと名無しのクロウリーに脱帽せざるをえなくなる。エーリカたち『血濡れの女王ブラッディ・エーリカ』の団は支城の包囲を混成軍に任せ、自分たちは400の兵で救援兵3千の横腹を急襲したのである。これぞ『挟撃』という言葉が似あいすぎる状況は無かった。

 一軍を率いる者は誰でも横腹を急襲されることを嫌う。そのため、伏兵の存在に気を配らなければならない。しかしながら、オシノビ城から支城までは見晴らしが良いなだらかな平原が広がっていた。オシノビ城からも支城からも見やすい位置に敵軍が展開していたのである。だからこそ、伏兵の存在に気を留める必要は無いはずであった。しかしながら伏兵は確かにすぐ近くにいたのだ。それがまさかの支城を包囲している軍の一部だと気づかなかった。ただ、それだけなのだ……。
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