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第4章:イソロク王
第11話:配属先
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ホバート王国の兄王:イソロク=ホバートが主催を務めた三日間に及ぶ会合は無事にお開きになる。この三日間でエーリカはニンゲン的におおいに成長出来たと思った。汚い大人の事情が渦巻く会合と立食会を三日間も経験すれば、エーリカはホバート王国内の実情を嫌が応にも知ることになる。
イソロク王はそんな権謀うず巻く宮中政治のトップに君臨する御方だ。それなのにかの王様は優しすぎると感じてしまうエーリカであった。エーリカにはエーリカ自身が叶えたい野望を抱いている。イソロク王はエーリカにとっての良き反面教師であった。そんな優しすぎる王に対して、大魔導士:クロウリー=ムーンライトはエーリカにとって良き師匠であった。
「知識でしか知り得ないことは実戦では役に立たない。知識を持ったうえで経験して、それを【知恵】に変えなさいと言ったクロウリーの意味がやっとわかったわ。あたしはあたしの国を興したい。そして、そのためには血で血を洗うことも厭わないわ」
「チュッチュッチュ。それでも辛くなったら、ボクを愛くるしいマスコットのように愛でると良いでッチュウ」
「ありがとう、コッシロー。でも、コッシローは愛くるしいって表現よりも、邪悪が身体から滲み出てるのよね。だから、あたしはセツラお姉ちゃんに癒されるわ」
「チュチュゥゥゥ!? ボクの身体のどこから邪悪が滲み出ているのでッチュウ!? 名誉棄損で訴えてやるでッチュウ!!」
憤慨しているコッシローに対して、そういうところだぞと借りている屋敷の執務室に集う皆が思うのであった。しかしながら、皆がそうコッシローにツッコみを入れないのは殊勝と言って良かった。ああ言えばこう言うで、必ず反論してくるコッシローである。1~2年程度の比較的短い付き合いであったとしても、コッシローの性格の悪さは皆が知るところになっている。
「発狂しているコッシローくんのことは置いておいて、本題に戻りましょう。我が団の配属先はゴンドール将軍の先鋒となりました。贅沢を言うのであれば、ファルス=シュティール将軍の旗下だと良かったのですが」
「北伐軍の主軍団のひとつであるファルス将軍の下なら、良い意味でも悪い意味でも目立てたってことでしょ? 言いたいことはわかるけど、タラオウ大臣にこれから何かとお世話になりそうだし、そのタラオウ大臣が後ろ盾になっているゴンドール将軍の旗下に入れたのは、それほど悪くないと思う」
「そうなら良いのですが……。先生には一抹の不安を感じるのですよね」
エーリカたちは執務室にある四角い大机の上に、ホバート王国の地図を広げていた。以前と同じようにチェスの駒を置き、現状把握を行っていた。そのチェスの駒は赤、青、緑、黄、黒、白と彩り鮮やかであった。その中でも金色の兵士は純白の王将の駒よりも悪目立ちしていた。
言わずもがな。この金色の兵士が示すのは血濡れの女王の団の位置である。血濡れの女王の団は総数400である。そうであるというのに、まるで戦場の主役とでも言いたげな色をしていた。
「北伐軍の主軍団には南島軍の正規兵1万が配属。その両翼を担うファルス将軍とオーガス将軍が率いる5千ずつには正規兵6割の他は傭兵団で固めています。しかしながら、ゴンドール将軍率いるは私兵をかき集めた商人たち、さらにはうちの団。そして残り1割が正規兵ってところですね」
「チュッチュッチュ。ゴンドール将軍の軍団は延べ3千ってところでッチュウ。先鋒を任された血濡れの女王の団でッチュウけど、配属されている正規兵よりも多いのは笑い話にもならないのでッチュウ」
「別にそこは良いんじゃない?」
「大有りですよ……。先生たちが先鋒ってことは、信用できない私兵軍団が中陣組になるってことです。先生たちが不利な状況に陥れば、先生たちが崩壊する前に中陣組が我先とばかりに逃げ出すことが容易に想像できます」
エーリカは自分が率いる血濡れの女王の団は、ゴンドール将軍旗下の軍の中では一番精強だという自負を持っていた。その点は軍師であるクロウリーも異論は無い。だが、この戦いは今までエーリカたちが体験したことのない大戦である。
ここ数百年単位で行われることはなかったホバート王国統一戦なのだ。だが、エーリカはまるで今からその戦場を呑気に散歩してくるとでも言いたげな感じであっけらかんとしている。軍師:クロウリー=ムーンライトは、そんなエーリカを大器と見るべきなのか、それともただの『阿呆』と見るべきなのかと迷ってしまう。
しかし、その迷いを自ら打ち払うかのようにクロウリーは頭を左右に振ってみせる。エーリカを見出したのは他でもない、クロウリー自身なのだ。エーリカの器の大きさを自分が信じなくて誰が信じるのか? と自問自答してみせる。
「こりゃあ、おもしれえ戦になるなっ! エーリカ様、おれっちに兵100を与えてくれよっ! 斬った張ったの大活躍をしてみせるぜっ!」
「何言ってんのよ、ケージ。あんたはまだまだ新参者なの。ここは大人しくコタローの旗下で働いておきなさい」
「ええっ!? おれっちは自分で言っちゃなんだが、率いる兵が多ければ多いほど燃え上がる体質なんだぜ!? 血濡れの女王の双璧であるブルース様、アベル様と肩を並べるように配置してくれなきゃ困るぜっ!?」
「まあまあ、落ち着け、ケージ。軍を率いる才能は持っているんだろうと俺の眼から見てもわかるが、お前にとっちゃ初陣だろ? ここは熟練のコタロー=モンキーの旗下で大人しく学んでろ」
不平不満を口にするケージに対して、仲介役を務めるのがタケル=ペルシックであった。タケルはエーリカ直属となっている。他にエーリカ直属となっている血濡れの女王の幹部は、心優しい力持ちのミンミン=ダベサ。軍師のクロウリー=ムーンライト。そして、血濡れの女王の象徴のひとりであるセツラ=キュウジョウであった
エーリカと彼女の軍師であるクロウリーはホバート王国で大戦が起きる際に、どのように幹部たちを配属させるか日夜を問わず、話し合っていた。そうやって決まった初戦での配置は、エーリカはコタローが練兵したなかでも見込みがある新兵50を率いる。ブルースとアベルの未来の両将軍には元野盗から改心した兵を100づつ。
さらにコタロー=モンキーに辺境の村:オダーニから王都へやってきた直属50と新兵50をあてがった。そして、残りのオダーニ村出身の兵50は巫女:セツラ=キュウジョウを御旗にしつつ、実際にはクロウリーの旗下となる。
「ぼくはエーリカおねーたまと一緒が良かったのですぅ。親衛隊長はアイスさんじゃなくて、ぼくにこそふさわしいのですぅ……」
「親衛隊長で終わらすにはもったいないってことで、ラン=マールはアベル隊の副将なんだぞ。エーリカはランの将来を見込んで、そう決めたんだ。しっかりしろ。エーリカの期待に応えてみせろってんだ!」
イソロク王はそんな権謀うず巻く宮中政治のトップに君臨する御方だ。それなのにかの王様は優しすぎると感じてしまうエーリカであった。エーリカにはエーリカ自身が叶えたい野望を抱いている。イソロク王はエーリカにとっての良き反面教師であった。そんな優しすぎる王に対して、大魔導士:クロウリー=ムーンライトはエーリカにとって良き師匠であった。
「知識でしか知り得ないことは実戦では役に立たない。知識を持ったうえで経験して、それを【知恵】に変えなさいと言ったクロウリーの意味がやっとわかったわ。あたしはあたしの国を興したい。そして、そのためには血で血を洗うことも厭わないわ」
「チュッチュッチュ。それでも辛くなったら、ボクを愛くるしいマスコットのように愛でると良いでッチュウ」
「ありがとう、コッシロー。でも、コッシローは愛くるしいって表現よりも、邪悪が身体から滲み出てるのよね。だから、あたしはセツラお姉ちゃんに癒されるわ」
「チュチュゥゥゥ!? ボクの身体のどこから邪悪が滲み出ているのでッチュウ!? 名誉棄損で訴えてやるでッチュウ!!」
憤慨しているコッシローに対して、そういうところだぞと借りている屋敷の執務室に集う皆が思うのであった。しかしながら、皆がそうコッシローにツッコみを入れないのは殊勝と言って良かった。ああ言えばこう言うで、必ず反論してくるコッシローである。1~2年程度の比較的短い付き合いであったとしても、コッシローの性格の悪さは皆が知るところになっている。
「発狂しているコッシローくんのことは置いておいて、本題に戻りましょう。我が団の配属先はゴンドール将軍の先鋒となりました。贅沢を言うのであれば、ファルス=シュティール将軍の旗下だと良かったのですが」
「北伐軍の主軍団のひとつであるファルス将軍の下なら、良い意味でも悪い意味でも目立てたってことでしょ? 言いたいことはわかるけど、タラオウ大臣にこれから何かとお世話になりそうだし、そのタラオウ大臣が後ろ盾になっているゴンドール将軍の旗下に入れたのは、それほど悪くないと思う」
「そうなら良いのですが……。先生には一抹の不安を感じるのですよね」
エーリカたちは執務室にある四角い大机の上に、ホバート王国の地図を広げていた。以前と同じようにチェスの駒を置き、現状把握を行っていた。そのチェスの駒は赤、青、緑、黄、黒、白と彩り鮮やかであった。その中でも金色の兵士は純白の王将の駒よりも悪目立ちしていた。
言わずもがな。この金色の兵士が示すのは血濡れの女王の団の位置である。血濡れの女王の団は総数400である。そうであるというのに、まるで戦場の主役とでも言いたげな色をしていた。
「北伐軍の主軍団には南島軍の正規兵1万が配属。その両翼を担うファルス将軍とオーガス将軍が率いる5千ずつには正規兵6割の他は傭兵団で固めています。しかしながら、ゴンドール将軍率いるは私兵をかき集めた商人たち、さらにはうちの団。そして残り1割が正規兵ってところですね」
「チュッチュッチュ。ゴンドール将軍の軍団は延べ3千ってところでッチュウ。先鋒を任された血濡れの女王の団でッチュウけど、配属されている正規兵よりも多いのは笑い話にもならないのでッチュウ」
「別にそこは良いんじゃない?」
「大有りですよ……。先生たちが先鋒ってことは、信用できない私兵軍団が中陣組になるってことです。先生たちが不利な状況に陥れば、先生たちが崩壊する前に中陣組が我先とばかりに逃げ出すことが容易に想像できます」
エーリカは自分が率いる血濡れの女王の団は、ゴンドール将軍旗下の軍の中では一番精強だという自負を持っていた。その点は軍師であるクロウリーも異論は無い。だが、この戦いは今までエーリカたちが体験したことのない大戦である。
ここ数百年単位で行われることはなかったホバート王国統一戦なのだ。だが、エーリカはまるで今からその戦場を呑気に散歩してくるとでも言いたげな感じであっけらかんとしている。軍師:クロウリー=ムーンライトは、そんなエーリカを大器と見るべきなのか、それともただの『阿呆』と見るべきなのかと迷ってしまう。
しかし、その迷いを自ら打ち払うかのようにクロウリーは頭を左右に振ってみせる。エーリカを見出したのは他でもない、クロウリー自身なのだ。エーリカの器の大きさを自分が信じなくて誰が信じるのか? と自問自答してみせる。
「こりゃあ、おもしれえ戦になるなっ! エーリカ様、おれっちに兵100を与えてくれよっ! 斬った張ったの大活躍をしてみせるぜっ!」
「何言ってんのよ、ケージ。あんたはまだまだ新参者なの。ここは大人しくコタローの旗下で働いておきなさい」
「ええっ!? おれっちは自分で言っちゃなんだが、率いる兵が多ければ多いほど燃え上がる体質なんだぜ!? 血濡れの女王の双璧であるブルース様、アベル様と肩を並べるように配置してくれなきゃ困るぜっ!?」
「まあまあ、落ち着け、ケージ。軍を率いる才能は持っているんだろうと俺の眼から見てもわかるが、お前にとっちゃ初陣だろ? ここは熟練のコタロー=モンキーの旗下で大人しく学んでろ」
不平不満を口にするケージに対して、仲介役を務めるのがタケル=ペルシックであった。タケルはエーリカ直属となっている。他にエーリカ直属となっている血濡れの女王の幹部は、心優しい力持ちのミンミン=ダベサ。軍師のクロウリー=ムーンライト。そして、血濡れの女王の象徴のひとりであるセツラ=キュウジョウであった
エーリカと彼女の軍師であるクロウリーはホバート王国で大戦が起きる際に、どのように幹部たちを配属させるか日夜を問わず、話し合っていた。そうやって決まった初戦での配置は、エーリカはコタローが練兵したなかでも見込みがある新兵50を率いる。ブルースとアベルの未来の両将軍には元野盗から改心した兵を100づつ。
さらにコタロー=モンキーに辺境の村:オダーニから王都へやってきた直属50と新兵50をあてがった。そして、残りのオダーニ村出身の兵50は巫女:セツラ=キュウジョウを御旗にしつつ、実際にはクロウリーの旗下となる。
「ぼくはエーリカおねーたまと一緒が良かったのですぅ。親衛隊長はアイスさんじゃなくて、ぼくにこそふさわしいのですぅ……」
「親衛隊長で終わらすにはもったいないってことで、ラン=マールはアベル隊の副将なんだぞ。エーリカはランの将来を見込んで、そう決めたんだ。しっかりしろ。エーリカの期待に応えてみせろってんだ!」
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