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第3章:王都:キヤマクラ
第7話:白いネズミ
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キョーコ=モトカードはアイス=キノレに、ここ10数年、何をしていたと尋ねる。だが、アイスは天下に名乗りをあげようとしている生意気な小娘の師匠をやっていたとのみ、キョーコに告げる。10数年前のあの出来事の後、アイスはキョーコと袂をわけた間柄である。キョーコは一旦、アイスから視線を外す。
エーリカとの勝負で、すっかり酒が抜けきったキョーコは手持ちぶたさであった。医務室で酒をかっ喰らうのは少々、気が引けるキョーコである。そんな彼女が辺りを見回し、何か話の肴になるモノがないかと探し始める。そして、彼女の目に移ったのは、これまた小生意気そうな顔をしている白いネズミの精霊であった。
その白いネズミの精霊は優男の左肩の上にチョコンと乗っている。じっくりねっとりとその白いネズミの精霊を品定めするかのようにキョーコはまじまじと見つめる。
「チュッチュッチュ。姿を隠していたつもりなのに、ボクの存在に気づいているのでッチュウ。さすがは拳王なのでッチュウ」
キョーコに存在を気づかれたその白いネズミの精霊は存在を露わにしていく。急にずっしりと左肩に重みを感じた大魔導士:クロウリー=ムーンライトは、よしよしとその白いネズミの精霊を宥めるのであった。
「煮ても焼いても食えないコッシロー=ネヅくんです。可愛げのなさでは、うちの団随一ですよ」
「ふんっ。うちに気取られぬように身をひそめることが出来る隠形術の持ち主かい。しかし、挑戦的な視線を飛ばしてきたら、嫌が応にも気づいて当然だろ?」
「チュッチュッチュ。そちらが品定めを行っていたように、ボクも拳王を品定めしていたのでッチュウ。おい、エーリカちゃん。こいつはお前以上のじゃじゃ馬だッチュウ。口先で扱いきれる相手だとゆめゆめ思わぬことでッチュウ」
キョーコはコッシロー=ネヅがなかなかに興味深いことを言っていると思ってしまう。その口ぶりからして、エーリカたちが自分を利用しようとしていることがわかる。だが、どのように利用する気であるのかと、興味が湧いてくる。
「ほぅ……? うちを扱う? まさか、拳王を従えるつもりなのかい?」
拳王:キョーコ=モトカードは身体から不気味な気迫をゆったりと放ち始める。医務室の中の空気がキョーコによって、危なげな雰囲気へと移っていく。いつでも相手をしてやってもよいというキョーコの不遜な態度に、コッシロー=ネヅはチュッチュッチュと不敵なな笑みで対処し始める。
「脳みそまで筋肉で出来ているのが、ありありとわかるのでッチュウ。エーリカちゃん、こいつをぶっ飛ばして、身の程を教えてやるでッチュウ! 痛いでッチュウ!!」
「あんたは黙ってなさい。拳王:キョーコ=モトカード様、うちのコッシロー=ネヅが生意気を言ってしまって、ごめんなさい」
エーリカが医務室のベッドから立ち上がり、生意気三昧のコッシロー=ネヅの頭をコツンと右の手刀で叩くのであった。コッシロー=ネヅは涙目になりながら、クロウリーの左肩から右肩へと移動してしまう。その様子を見ていたキョーコはすっかり毒気を抜かされたのか、ガーハハッ! と大笑いし、身体から溢れ出させていた鬼迫を引っ込めるのであった。
「エーリカ嬢ちゃん。さっき、おめえさんは面白いことを言っておったのう。4人の武王を打倒してみせると。だが、エーリカ嬢ちゃんとそこの生意気な精霊様の口ぶりからは打倒だけが目的とは思えないねぇ?」
「うん、じゃなくて、はい……。あたしが目指すのは【一国の主】です。でも、この王都にやってきてからというもの、私兵300でどうにかなることではないと気づかされました。だから、あなたに負けた後、うちの軍師に相談していたんです。拳王様を『血濡れの女王』に誘えないかと……。気を悪くさせたらごめんなさいっ!」
エーリカはキョーコに向かって頭を下げる。キョーコはボリボリと右手で後頭部を掻く。そして、視線をチラリとアイス=キノレの方に向ける。アイスはキョーコと目が合うと、うんうんと頷いてみせる。
「あーーー。そういうことかい。うちには不思議でならんことがひとつあった。武術大会に出てくる奴らの中で、傭兵団や私兵を引き連れた商人たちの首魁と思わしき者がいないというのに、とあるひとつの団だけは主自身が出場しておったな」
「はい。王都、いえ、ホバート王国内ですら無名に近しい『血濡れの女王』の団ですから、武術大会で目を引いた者を直接ヘッドハンティングしてやろうと思ってました」
エーリカがそもそも木刀1本で武術大会に出場していたのは、立派な理由があってこそだ。血が燃え滾りやすいエーリカの性格からして、真剣を用いれば、相手に必要以上の傷を負わせてしまうことになる。ヘッドハンティングも兼ねていたエーリカが木刀1本で武術大会に出場したのは、言わば必然とも言えたのである。
「エーリカ嬢ちゃん。本来のあんたの得物を見せてはくれんか?」
キョーコは医務室のベッドを椅子代わりにして、そこにどっしりと尻を乗せる。そして、左手を前に差し出し、エーリカが戦場で振るっているのであろう得物を見せてもらおうとする。エーリカはコクリとキョーコに頷くと、アレを持ってきてほしいと、エーリカよりも一回り歳を食っている男に頼む。その男は飄々とした雰囲気を醸し出しており、ひと目でエーリカ嬢ちゃんの尻にしかれている男だな、こいつはと印象づけさせたのである、キョーコに。
その男が一旦、医務室から退出し、数分後には刀を一振り持って、戻ってくる。鞘に納められている状態の刀なのに、キョーコは思わず、医務室にある椅子代わりのベッドから尻を放してしまいそうになる。飄々とした男がさも気にした風も無く、雰囲気だけで名刀、いやそれ以上の存在だとわかる刀をポンとキョーコの左手の上に軽い感じで乗せてきたのだ。
(なんなんだ? こいつは。年端も行かぬエーリカ嬢ちゃんの尻に敷かれている風のくせに、そうかと思えば大器を感じさせる行動をしてみせる……。いや、待て。それよりもこの刀のほうに注視せねばなっ!)
キョーコは刀を持ってきた男を一旦、意識の外へと追いやり、手渡された鞘に納められた刀を鞘越しにマジマジと見る。まるで絶世の美女がいやらしい下着を殿方のその手で脱がしてほしいとせがんでいるように見えて仕方が無かった。
キョーコはまるで童貞男のようにおそるおそる左手は鞘に添え、右手で力を入れ過ぎないように柄を握る。そして、いざ抜刀してみた瞬間、その刀身の美しさに、うっとりとした顔つきになってしまう。キョーコは美しく走る刀文を見ただけで、高名な刀鍛冶が打ったモノだと気づく。
刀文は言わば、刀の刃に入れる装飾だ。この形によって、その刀鍛冶の流派がわかるとも言える。しかしがら、その刀文にはオリジナルな装飾が施されている部分があった。この刀文に近しい大太刀を持つ男をキョーコは苦々しいほど知っている。しかし、こちらの刀にはまるでトレードマークのように太陽紋が浮かび上がっていた。
エーリカとの勝負で、すっかり酒が抜けきったキョーコは手持ちぶたさであった。医務室で酒をかっ喰らうのは少々、気が引けるキョーコである。そんな彼女が辺りを見回し、何か話の肴になるモノがないかと探し始める。そして、彼女の目に移ったのは、これまた小生意気そうな顔をしている白いネズミの精霊であった。
その白いネズミの精霊は優男の左肩の上にチョコンと乗っている。じっくりねっとりとその白いネズミの精霊を品定めするかのようにキョーコはまじまじと見つめる。
「チュッチュッチュ。姿を隠していたつもりなのに、ボクの存在に気づいているのでッチュウ。さすがは拳王なのでッチュウ」
キョーコに存在を気づかれたその白いネズミの精霊は存在を露わにしていく。急にずっしりと左肩に重みを感じた大魔導士:クロウリー=ムーンライトは、よしよしとその白いネズミの精霊を宥めるのであった。
「煮ても焼いても食えないコッシロー=ネヅくんです。可愛げのなさでは、うちの団随一ですよ」
「ふんっ。うちに気取られぬように身をひそめることが出来る隠形術の持ち主かい。しかし、挑戦的な視線を飛ばしてきたら、嫌が応にも気づいて当然だろ?」
「チュッチュッチュ。そちらが品定めを行っていたように、ボクも拳王を品定めしていたのでッチュウ。おい、エーリカちゃん。こいつはお前以上のじゃじゃ馬だッチュウ。口先で扱いきれる相手だとゆめゆめ思わぬことでッチュウ」
キョーコはコッシロー=ネヅがなかなかに興味深いことを言っていると思ってしまう。その口ぶりからして、エーリカたちが自分を利用しようとしていることがわかる。だが、どのように利用する気であるのかと、興味が湧いてくる。
「ほぅ……? うちを扱う? まさか、拳王を従えるつもりなのかい?」
拳王:キョーコ=モトカードは身体から不気味な気迫をゆったりと放ち始める。医務室の中の空気がキョーコによって、危なげな雰囲気へと移っていく。いつでも相手をしてやってもよいというキョーコの不遜な態度に、コッシロー=ネヅはチュッチュッチュと不敵なな笑みで対処し始める。
「脳みそまで筋肉で出来ているのが、ありありとわかるのでッチュウ。エーリカちゃん、こいつをぶっ飛ばして、身の程を教えてやるでッチュウ! 痛いでッチュウ!!」
「あんたは黙ってなさい。拳王:キョーコ=モトカード様、うちのコッシロー=ネヅが生意気を言ってしまって、ごめんなさい」
エーリカが医務室のベッドから立ち上がり、生意気三昧のコッシロー=ネヅの頭をコツンと右の手刀で叩くのであった。コッシロー=ネヅは涙目になりながら、クロウリーの左肩から右肩へと移動してしまう。その様子を見ていたキョーコはすっかり毒気を抜かされたのか、ガーハハッ! と大笑いし、身体から溢れ出させていた鬼迫を引っ込めるのであった。
「エーリカ嬢ちゃん。さっき、おめえさんは面白いことを言っておったのう。4人の武王を打倒してみせると。だが、エーリカ嬢ちゃんとそこの生意気な精霊様の口ぶりからは打倒だけが目的とは思えないねぇ?」
「うん、じゃなくて、はい……。あたしが目指すのは【一国の主】です。でも、この王都にやってきてからというもの、私兵300でどうにかなることではないと気づかされました。だから、あなたに負けた後、うちの軍師に相談していたんです。拳王様を『血濡れの女王』に誘えないかと……。気を悪くさせたらごめんなさいっ!」
エーリカはキョーコに向かって頭を下げる。キョーコはボリボリと右手で後頭部を掻く。そして、視線をチラリとアイス=キノレの方に向ける。アイスはキョーコと目が合うと、うんうんと頷いてみせる。
「あーーー。そういうことかい。うちには不思議でならんことがひとつあった。武術大会に出てくる奴らの中で、傭兵団や私兵を引き連れた商人たちの首魁と思わしき者がいないというのに、とあるひとつの団だけは主自身が出場しておったな」
「はい。王都、いえ、ホバート王国内ですら無名に近しい『血濡れの女王』の団ですから、武術大会で目を引いた者を直接ヘッドハンティングしてやろうと思ってました」
エーリカがそもそも木刀1本で武術大会に出場していたのは、立派な理由があってこそだ。血が燃え滾りやすいエーリカの性格からして、真剣を用いれば、相手に必要以上の傷を負わせてしまうことになる。ヘッドハンティングも兼ねていたエーリカが木刀1本で武術大会に出場したのは、言わば必然とも言えたのである。
「エーリカ嬢ちゃん。本来のあんたの得物を見せてはくれんか?」
キョーコは医務室のベッドを椅子代わりにして、そこにどっしりと尻を乗せる。そして、左手を前に差し出し、エーリカが戦場で振るっているのであろう得物を見せてもらおうとする。エーリカはコクリとキョーコに頷くと、アレを持ってきてほしいと、エーリカよりも一回り歳を食っている男に頼む。その男は飄々とした雰囲気を醸し出しており、ひと目でエーリカ嬢ちゃんの尻にしかれている男だな、こいつはと印象づけさせたのである、キョーコに。
その男が一旦、医務室から退出し、数分後には刀を一振り持って、戻ってくる。鞘に納められている状態の刀なのに、キョーコは思わず、医務室にある椅子代わりのベッドから尻を放してしまいそうになる。飄々とした男がさも気にした風も無く、雰囲気だけで名刀、いやそれ以上の存在だとわかる刀をポンとキョーコの左手の上に軽い感じで乗せてきたのだ。
(なんなんだ? こいつは。年端も行かぬエーリカ嬢ちゃんの尻に敷かれている風のくせに、そうかと思えば大器を感じさせる行動をしてみせる……。いや、待て。それよりもこの刀のほうに注視せねばなっ!)
キョーコは刀を持ってきた男を一旦、意識の外へと追いやり、手渡された鞘に納められた刀を鞘越しにマジマジと見る。まるで絶世の美女がいやらしい下着を殿方のその手で脱がしてほしいとせがんでいるように見えて仕方が無かった。
キョーコはまるで童貞男のようにおそるおそる左手は鞘に添え、右手で力を入れ過ぎないように柄を握る。そして、いざ抜刀してみた瞬間、その刀身の美しさに、うっとりとした顔つきになってしまう。キョーコは美しく走る刀文を見ただけで、高名な刀鍛冶が打ったモノだと気づく。
刀文は言わば、刀の刃に入れる装飾だ。この形によって、その刀鍛冶の流派がわかるとも言える。しかしがら、その刀文にはオリジナルな装飾が施されている部分があった。この刀文に近しい大太刀を持つ男をキョーコは苦々しいほど知っている。しかし、こちらの刀にはまるでトレードマークのように太陽紋が浮かび上がっていた。
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