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第3章:王都:キヤマクラ
第6話:抗い
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エーリカはハァハァ……と息も絶え絶えでありながら、自分の足元に転がっていた木刀を拾い上げ、両手でその柄をしっかりと握り込む。すると、左手の強欲の聖痕から光が伝播していく。木刀はすっかり光に包み込まれる。エーリカはヒュゥヒュゥ! と呼吸を整える。投げられた衝撃であばらの骨が何本か折れている。だが、今はその痛みに構っていられる余裕など、まったくもって無かった。
獰猛な虎がこちらの命を噛み千切る準備を整え終えていたのだ。エーリカから見て、キョーコの身体は実際の大きさの3倍以上のサイズに感じられていた。それほどまでにキョーコは圧倒的な気迫を身体の外へと発していたのである。まさに拳王ここにありといった風貌を醸し出していたのだ。
試合が始まるまでの酩酊状態なぞ、いつの間にかすっ飛んでいたキョーコである。ただただ、眼の前の美味しそうな餌をどう踊り食いしてやろうかという獰猛な食欲に支配されていた。口の隙間からダラダラと留めなくヨダレが垂れ流れていた。しかし、キョーコはそれを手で拭おうとはしなかった。
キョーコとエーリカの睨み合いが十数秒ほど続く。円形闘技場に集まる観衆たちはキョーコたちの戦いから眼を背けることなど出来ぬくらいに釘付けになっていた。誰しもが予感していたのだ。次に動きを見せた時が、2人の決着がつく時だと。観衆たちは喉が渇いて仕方が無かった。生唾をゴクリと喉奥に押下する音が試合場に居る2人の耳に届いてしまうのではなかろうかというくらいに、周囲には静寂が訪れた。
「セーゲン流改めモトカード流拳法が祖。キョーコ=モトカードが放つ。モトカード流・一之太刀『ロケット・パンチ』」
静けさに包まれた円形闘技場全体の空気が震えあがることになる。キョーコが放つ技の名前を告げるや、空気の壁を突き破り、真っ直ぐ過ぎる正拳突きをエーリカに向かって、ぶっ放したのである。空気の壁を一枚突き破るごとに爆音が鳴り響き、さらには爆風が生み出される。それほどのまでの真っ直ぐ過ぎる正拳突きがエーリカの身体を突き破ろうとしていた。
「セーゲン流改めキノレ流剣術……。ツバメ返しッッッ!!」
エーリカは光り輝く木刀を左から右へと振り払う。その一撃目でキョーコが放った空気の壁を突き破るロケット・パンチの威力を半減させてみせる。だが、一撃では足らぬことをエーリカは気づいていた。だからこその返しによる上段から下方への二撃目をキョーコの右の拳に叩きこんだのだ。
確かにエーリカが放った『ツバメ返し』はキョーコの放ったロケット・パンチの威力のほとんどを削ぎ落としてみせた。だが、キョーコはエーリカの額近くまで、握り込んだ右手を近づける。
「ふんっ。あたしの力及ばずね。でも、近い将来、拳王を越えてみせるわっ!」
それがエーリカが意識を失う直前に言い放った言葉であった。キョーコはクフゥゥゥ! という堪らぬ嬌声をあげたあと、エーリカの額に向かって、エーリカの魂が天上界へとすっ飛んでいきそうなほどの威力のデコピンをぶちかました。その時、エーリカの後頭部から脳漿が飛び出さなかったのは、エーリカの額に撒かれていた長はちまき付きの額当てのおかげだったのだろう。
エーリカが身に着けていた額当ては、エーリカの師匠であるアイス=キノレお手製であった。デコピンをかました側のキョーコがフゥフゥ! と右手の中指に息を勢いよく吹きかけていた。
「ほんに悪ふざけがすぎるなぁ。どうせ、この仕込みもアイス=キノレ、おめえがやったんだろぉ?」
「クアッハッ! おぬしのことだから、エーリカ嬢ちゃんのことを気に入ってくれると信じておったわい。おぬしは気に入った相手は後々に残しておくタイプだったからな。その辺りが昔から変わっていなくって安心したわい」
アイス=キノレがエーリカのために作った長はちまき付きの額当ての金属部分はオリハルコン製であった。さすがの拳王もオリハルコン製の武具を素手でカチ割ることは出来なかった。出来ても凹ませるくらいが限界である。しかも、キョーコはエーリカを殺さぬようにと手加減したのだ。放ったデコピンによる衝撃の半分以上は、キョーコの右手の中指に跳ね返っていたのだ。
「さて、積もる話は医務室じゃったな。先にエーリカを医務室に運んでおくゆえに、おぬしは後で顔を見せるがよいわ」
アイス=キノレはキョーコ=モトカードにそう言った後、背中に背負ったエーリカを医務室へと運んでいく。キョーコはボリボリと右手で後頭部を掻く他無かった。
「ちと、竜力を出し過ぎたかな。さて、気付けでもしておくかい」
キョーコはそう言うと、気絶してしまった観衆たちを叩き起こすべく、石畳をズドン! と右足で踏みしめる。すると、円形闘技場全体に衝撃が走り、気絶していた観衆たちは飛び跳ねるように起き上がるのであった。その後、試合場に残されているのがキョーコのみであり、そのキョーコが右腕を振り上げているので、勝者はキョーコの方だと気づく観衆たちであった。キョーコに向かって惜しみない賞賛の声と拍手が送られる。
「ふむっ。剣王に負けた憂さ晴らしに参加した武術大会だったが、少しは気が晴れた。さーて、アイスの弟子は、うちの弟子と同義だ。うちもエーリカ嬢ちゃんをおもちゃにしてやろうかねぇ~~~」
拳王こと、キョーコ=モトカードはクックックッと底意地悪そうな笑みを零しつつ、試合場を後にする。エーリカが放った二連撃により、右手が段々と腫れあがってきていたというのに、そんな痛みなど、どこ吹く風の如くにキョーコは医務室へとノッシノッシ歩いて向かっていく。そんな彼女が医務室のドアを右足で蹴っ飛ばし、中へと入っていく。
「おう。エーリカ嬢ちゃん。うちのことは覚えているかい?」
「うっわ! 何しにきたのよっ! 敗者の顔をわざわざ見にくるところが悪趣味よねっ!」
「クァッハッハッ! そんなに嫌がられると、お姉さん、嬉しくなっちまうだぁ」
「うっざ! 本当にむかつく! 近い将来って言ったけど、今すぐにでも叩き伏せてやりたいっ!」
「エーリカ殿。気持ちはわかりますが、安静にしておけと医者に言われているでしょう。いくら、アイス殿お手製のオリハルコン製の額当てで頭が護られていたとしても、拳王の一撃には変わりありません」
「うぅ……、悔しいし、恥ずかしいっ! 旗揚げ時にテクロ大陸本土で我が物顔をしている武王たちを全員ぶっ倒してみせるって言わなきゃよかった!!」
若気の至りゆえとはよく言ったものだ。テクロ大陸において4人の偉大なる魔法使いが1番有名である。その次に有名な者の名をあげろと言われれば、決まって4人の武王の名が挙がる。その4人の武王のひとりが、この医務室に存在していた。彼女は現拳王であり、アイス=キノレと同じ師を仰いでいた関係を持っていた。
「セーゲン様からセーゲン流を受け継いだうちが、何の運命のいたずらか知らんが、妹弟子が育てたエーリカ嬢ちゃんと対戦するとはねぇ。これも創造主:Y.O.N.N様のイキな計らいってやつかい?」
獰猛な虎がこちらの命を噛み千切る準備を整え終えていたのだ。エーリカから見て、キョーコの身体は実際の大きさの3倍以上のサイズに感じられていた。それほどまでにキョーコは圧倒的な気迫を身体の外へと発していたのである。まさに拳王ここにありといった風貌を醸し出していたのだ。
試合が始まるまでの酩酊状態なぞ、いつの間にかすっ飛んでいたキョーコである。ただただ、眼の前の美味しそうな餌をどう踊り食いしてやろうかという獰猛な食欲に支配されていた。口の隙間からダラダラと留めなくヨダレが垂れ流れていた。しかし、キョーコはそれを手で拭おうとはしなかった。
キョーコとエーリカの睨み合いが十数秒ほど続く。円形闘技場に集まる観衆たちはキョーコたちの戦いから眼を背けることなど出来ぬくらいに釘付けになっていた。誰しもが予感していたのだ。次に動きを見せた時が、2人の決着がつく時だと。観衆たちは喉が渇いて仕方が無かった。生唾をゴクリと喉奥に押下する音が試合場に居る2人の耳に届いてしまうのではなかろうかというくらいに、周囲には静寂が訪れた。
「セーゲン流改めモトカード流拳法が祖。キョーコ=モトカードが放つ。モトカード流・一之太刀『ロケット・パンチ』」
静けさに包まれた円形闘技場全体の空気が震えあがることになる。キョーコが放つ技の名前を告げるや、空気の壁を突き破り、真っ直ぐ過ぎる正拳突きをエーリカに向かって、ぶっ放したのである。空気の壁を一枚突き破るごとに爆音が鳴り響き、さらには爆風が生み出される。それほどのまでの真っ直ぐ過ぎる正拳突きがエーリカの身体を突き破ろうとしていた。
「セーゲン流改めキノレ流剣術……。ツバメ返しッッッ!!」
エーリカは光り輝く木刀を左から右へと振り払う。その一撃目でキョーコが放った空気の壁を突き破るロケット・パンチの威力を半減させてみせる。だが、一撃では足らぬことをエーリカは気づいていた。だからこその返しによる上段から下方への二撃目をキョーコの右の拳に叩きこんだのだ。
確かにエーリカが放った『ツバメ返し』はキョーコの放ったロケット・パンチの威力のほとんどを削ぎ落としてみせた。だが、キョーコはエーリカの額近くまで、握り込んだ右手を近づける。
「ふんっ。あたしの力及ばずね。でも、近い将来、拳王を越えてみせるわっ!」
それがエーリカが意識を失う直前に言い放った言葉であった。キョーコはクフゥゥゥ! という堪らぬ嬌声をあげたあと、エーリカの額に向かって、エーリカの魂が天上界へとすっ飛んでいきそうなほどの威力のデコピンをぶちかました。その時、エーリカの後頭部から脳漿が飛び出さなかったのは、エーリカの額に撒かれていた長はちまき付きの額当てのおかげだったのだろう。
エーリカが身に着けていた額当ては、エーリカの師匠であるアイス=キノレお手製であった。デコピンをかました側のキョーコがフゥフゥ! と右手の中指に息を勢いよく吹きかけていた。
「ほんに悪ふざけがすぎるなぁ。どうせ、この仕込みもアイス=キノレ、おめえがやったんだろぉ?」
「クアッハッ! おぬしのことだから、エーリカ嬢ちゃんのことを気に入ってくれると信じておったわい。おぬしは気に入った相手は後々に残しておくタイプだったからな。その辺りが昔から変わっていなくって安心したわい」
アイス=キノレがエーリカのために作った長はちまき付きの額当ての金属部分はオリハルコン製であった。さすがの拳王もオリハルコン製の武具を素手でカチ割ることは出来なかった。出来ても凹ませるくらいが限界である。しかも、キョーコはエーリカを殺さぬようにと手加減したのだ。放ったデコピンによる衝撃の半分以上は、キョーコの右手の中指に跳ね返っていたのだ。
「さて、積もる話は医務室じゃったな。先にエーリカを医務室に運んでおくゆえに、おぬしは後で顔を見せるがよいわ」
アイス=キノレはキョーコ=モトカードにそう言った後、背中に背負ったエーリカを医務室へと運んでいく。キョーコはボリボリと右手で後頭部を掻く他無かった。
「ちと、竜力を出し過ぎたかな。さて、気付けでもしておくかい」
キョーコはそう言うと、気絶してしまった観衆たちを叩き起こすべく、石畳をズドン! と右足で踏みしめる。すると、円形闘技場全体に衝撃が走り、気絶していた観衆たちは飛び跳ねるように起き上がるのであった。その後、試合場に残されているのがキョーコのみであり、そのキョーコが右腕を振り上げているので、勝者はキョーコの方だと気づく観衆たちであった。キョーコに向かって惜しみない賞賛の声と拍手が送られる。
「ふむっ。剣王に負けた憂さ晴らしに参加した武術大会だったが、少しは気が晴れた。さーて、アイスの弟子は、うちの弟子と同義だ。うちもエーリカ嬢ちゃんをおもちゃにしてやろうかねぇ~~~」
拳王こと、キョーコ=モトカードはクックックッと底意地悪そうな笑みを零しつつ、試合場を後にする。エーリカが放った二連撃により、右手が段々と腫れあがってきていたというのに、そんな痛みなど、どこ吹く風の如くにキョーコは医務室へとノッシノッシ歩いて向かっていく。そんな彼女が医務室のドアを右足で蹴っ飛ばし、中へと入っていく。
「おう。エーリカ嬢ちゃん。うちのことは覚えているかい?」
「うっわ! 何しにきたのよっ! 敗者の顔をわざわざ見にくるところが悪趣味よねっ!」
「クァッハッハッ! そんなに嫌がられると、お姉さん、嬉しくなっちまうだぁ」
「うっざ! 本当にむかつく! 近い将来って言ったけど、今すぐにでも叩き伏せてやりたいっ!」
「エーリカ殿。気持ちはわかりますが、安静にしておけと医者に言われているでしょう。いくら、アイス殿お手製のオリハルコン製の額当てで頭が護られていたとしても、拳王の一撃には変わりありません」
「うぅ……、悔しいし、恥ずかしいっ! 旗揚げ時にテクロ大陸本土で我が物顔をしている武王たちを全員ぶっ倒してみせるって言わなきゃよかった!!」
若気の至りゆえとはよく言ったものだ。テクロ大陸において4人の偉大なる魔法使いが1番有名である。その次に有名な者の名をあげろと言われれば、決まって4人の武王の名が挙がる。その4人の武王のひとりが、この医務室に存在していた。彼女は現拳王であり、アイス=キノレと同じ師を仰いでいた関係を持っていた。
「セーゲン様からセーゲン流を受け継いだうちが、何の運命のいたずらか知らんが、妹弟子が育てたエーリカ嬢ちゃんと対戦するとはねぇ。これも創造主:Y.O.N.N様のイキな計らいってやつかい?」
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