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第2章:社会勉強

第6話:商業都市

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「あの……。ここが商業都市? さびれ過ぎてるんだけど??」

「はい。このアドンの町はかつてはこの国が栄華を誇った時代に一大商業都市として栄えた町でした。今では都市と呼べぬほどに衰えて古びた町にまで衰退してしまいましたが」

「イニシエの伝承では覇王と呼ばれたハジュン大王がここに巨大な都市を造ったと言われてますわね。でも、ハジュン大王が部下に謀反を起こされ、その戦火がこのアドンの町にまで及んだとか」

「その通りです。さすがはセツラ殿。エーリカ殿は歴史の授業は寝てばかりだったんでしょ?」

「う、うるさいわねっ! セツラお姉ちゃんは歴女レベルだもん。セツラお姉ちゃんに比べられたら、誰でもそんな風に評価されちゃうわよっ!」

 辺境の村であるオダーニでも12歳以下の子供たちが読み書きや算数を学ぶための寺子屋スクールが存在する。ホバート王国が他の国よりも最も優れていることは、誰かに頼まれたわけでもないのに、国民に読み書きと算数を推奨していることである。テクロ大陸本土に比べれば、この基礎教育と言える部分を貧富の差無く、おこなっていることである。

 もちろん、ホバート王国がテクロ大陸本土と比べて、比較的に平和に近しい状態が長く続いていることも関係している。テクロ大陸本土は200年にも渡る戦国時代の真っ只中だ。どうしても、そういったことに構っていられる状況では無かったのだ。エーリカたちはこの点において、非常に幸運だったと言っても良い。

 そして、読み書きが出来るということは、空いた時間に読書が出来るということになる。セツラ=キュウジョウは家が神社であり、さらには村長の娘であるがゆえに、古い文献がごろごろと家の蔵に収まっている。さらにはセツラは歴史に対して、畏敬の念を抱いているだけでなく、歴史に対する知識欲も旺盛であった。

「セツラお姉ちゃんは算数は苦手だけど、本の虫だったもんね。そんなセツラお姉ちゃんを外に引っ張り出すのには、苦労を強いられたものよ」

「読書にふけっているわたくしを外に引っ張り出すのは如何なものかと思いますが……。でも、エーリカさんはエーリカさんで、恋愛モノと英傑物語は好きだったでしょ?」

「そこは否定しないわ。あたしも女の子だもん。素敵な恋話や英傑物語は読んでて、心がドキドキワクワクしちゃうから。でも、セツラお姉ちゃんみたいに歴史関係の特に年代表で心がドキドキしちゃうのは変態かな? って思っちゃう」

 エーリカの言に苦笑せざるをえないセツラであった。歴史を学ぶにあたって、二通りの歴史へのアクセス方法がある。ひとりの英傑が活躍する時代を深く掘り下げる方法がひとつ。もうひとつは【通史】として、時代の変遷を追っていく方法がある。どちらの学び方にも利点があるのだが、歴史とは大きな視点で学ぶ【通史】の大切さを知っていなければ、結局のところ、歴史における大きな流れと変換点に気づきことが出来なくなってしまう。

 数多の英傑が集う時代を集中して学ぶことはそれはそれで面白い。だが、時代の節目には必ず、覇王と呼ばれる人物が登場し、その覇王が天下を統一し、人心だけでなく、制度も進化させるのだ。そうやって、ヒトは日々、進歩していくのだ。

 だが、そのヒトの進歩に置いていかれた町のひとつとして、アドンの町が存在した。かつてはテクロ大陸本土のどこの商業都市よりも盛んに商いが行われていた土地であった。だが、今のアドンの町にはそうなっていたという面影すらも残されていなかった。

「さて、そろそろ、お気づきでしょうか? ここに巨大な商業都市が生まれるきっかけとなったものがあるのか? それともないのか?」

「ホバート王国一番に大きいビワノレイクっていう湖に面しているから、水運自体は問題無さそう。でも、問題はアドンの町と交流しようにも大きな街が無いって点ね。セツラお姉ちゃんは何か知ってる?」

「実際のところは逆なんです。アドンの町全体が一夜にして火に包まれたたために、アドンの町を頼りに発展していた町も寂れていってしまいましたわ。そして、今はホバート王国の台所と呼ばれるザカタイが存在するのが大きいと要ったところですわ。でも、ザカタイがホバート王国の台所と呼ばれるようになったのはアドンの町に起きた一件からさらに数百年後ですの」

 セツラの高説は続いていた。それを耳に入れながら、エーリカは他に何かあったのでは無いのかと、あたりをキョロキョロと見渡すのであった。そして、ふと、ダーショージの寺門町のことを思い出す。

「あれ? ふと思ったんだけど、商業都市って、寺門町同様にお金が集まるところよね? アドンの町って、おかしなことだらけじゃないの??」

「ほほう。気づきましたか。ここは大層、見晴らしが良すぎるのですよ。こんな低地の場所からでも、ビワノレイクが見渡せるほどに」

 大魔導士:クロウリー=ムーンライトはニコニコとした顔つきで、エーリカが良いところに疑問を持ってくれたものだと感心するのであった。そして、エーリカの視線を誘導するように、右手を左から右へと移動させていく。

「エーリカ殿がお気づきのように、このアドンの町、いや、この周辺には防御に適した川や山がありません。ですが、この地には確かに一大商業都市が存在したのです。まさに人工的に作り出した商業都市なのです」

「すごいわね……。それは覇王の都市に攻め入る愚か者などいないという自負から来ていたの?」

「いえ、違います。覇王:ハジュンのすごいところは逆転の発想をしたことです。大きな湖が面しているということは、水だけは豊富にあったんですよ。彼は商業都市をザカタイのように水の都にすると同時に、水堀をそのまま石壁代わりにしたのです」

「へぇぇぇぇぇぇっっっ!! さすがは覇王ねっ! 考え方のスケールがまるで常人と違いすぎるわっ!!」

 アドンの町から西に100キュロミャートル行くと、ホバート王国の台所と呼ばれる港湾都市:ザカタイがある。ザカタイの周辺には網目のように走る大小の川が100本近く流れていた。それゆえに水運が盛んであり、さらにはその大小の川が天然の要害を形成していたのだ。

 だが、覇王:ハジュンのすごいところは、人工的にそれを作り出したところだろう。今のアドンの町にはそんな風景など見ることができないが、かつて栄華を誇った商業都市のイメージがエーリカとセツラの脳裏にありありと映し出される。

「陸の商業都市なのに水の都かぁ。あたしも国を興したら、そんな陸の水の都を作ってみたいなぁ」

「まあ、どれだけ費用がかかってるんだよって話だわ。覇王:ハジュンはよっぽど金儲けが得意だったんだろうな。なあ、クロウリー。俺が思うに覇王:ハジュンはいろんなところで、商業都市を造ってたんじゃねえのか?」

「おや? タケル殿にしては珍しく着眼点が良いですね。覇王:ハジュンは城造りや街造りが大好きで、本拠地を移動させるごとに新しい城や街を造りまくってました。そして、その集大成がアドンの商業都市なんですよ」

大魔導士:クロウリー=ムーンライトの高説に一同は、へぇぇぇぇ! と感心するばかりであった。だが、その中でもひとり、エーリカだけは少しだけ感想が違っていた。

(覇王:ハジュンでも、それだけたくさんの街造りを行えば、その中に成功や失敗があったはずだわ。クロウリー様はあたしのために、成功だけでなく、失敗も学んでほしいってことであってるのかな??)
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