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第1章:エーリカの野望

第6話:5倍差

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 初陣を完勝で飾ったエーリカたちは意気揚々と次の賊徒の団を急襲する。ホバート王国のツールガの港町から上陸した200人余りの賊徒は南下を続け、1週間も経たずに数十キュロミャートル圏内にある町や集落を襲いに襲った。だが、その賊徒の団は三日も経たずに半壊してしまうことになる。

 さすがに三日以上も他の賊徒の団と連絡が取れなくなったことで、うちの団に異常事態が起きていることに気づく頭領のコタロー=モンキーであった。

「ウキキ。匂う、策に嵌められている匂いがプンプンと匂う」

「かしらぁ。どうするんですかい? 二日に1度は必ず報告をしてくるようにと各団のまとめ役には厳命しているはずなのに、まったく知らせがやってこないですぜ?」

「ウキキ。オニタ。おめーの調べでは南東方面にホバート王国は対した衛兵団を置いてなかったはずだったよな?」

「へぇ。あっしはホバート王国出身ですから、賊徒となって暴れるならホバート王国の南の方だと進言しやしたぜ。そして、その通り、あっしらは暴れ放題出来ていたわけですぜ」

 半猿半人ハーフ・ダ・ウキーのコタロー=モンキーは骨付き肉を食いちぎりながら、自分の補佐であるオニタ=モンドの弁明を聞く。クッチャクッチャと生焼け肉を歯で噛み握りながら、それを麦酒ビールによって喉奥へと押下する。そうした後、コタロー=モンキーは椅子代わりの丸太から立ち上がり、急いで他の賊徒の団との合流するようにと部下たちに指示を出す。

 だが、コタロー=モンキーの動きは遅かった。各団が居るであろうはずの場所に伝令を飛ばしたのだが、壊滅していないのは1グループのみであり、コタロー=モンキーの顔は猿よりも赤く染まりあがってしまう。

「どういうことだウキィィィ! 各団には40人を配属させていたのだウキィィィ! そのほぼ全てが所在不明とはいったいぜんたいどういうことなんだウキィィィ!」

「おかしらぁ。状況はひっ迫していますぜ。生き残ったグループとは明日の昼には合流できやすが、これは前倒ししたほうが良さそうですぜ」

「オニタに言われなくともわかっているんだウキィィィ! おい、てめえら、昼飯はお預けだっ! さっさと動くぞ!」

 コタロー=モンキーは腹いせ代わりに部下たちの尻を次々と蹴飛ばす。部下たちは何をするんですかい! と文句たらたらに腰をあげる。ここの賊徒は元はとある兵団の一員であったが、アデレード王国で終わることを知らぬ合戦の日々に辟易していた。このまま死ぬまで薄給で戦わせられるなら、いっそ賊徒となって好き放題生きたいと願うようになる。

 そんな士気が落ちまくったとある兵団はホバート王国の国主が急逝したことを小耳に挟んだ。国主が急逝すれば、必ずその国はほころびを見せる。その混乱に乗じるようにコタロー=モンキーの口車に乗せられた元兵団の一員たちは、ホバート王国へと侵入したのである。

 好き放題やってきたコタロー=モンキー率いる賊徒は、このまま南下を続け、集めた金銀財宝を用いて、ホバート王国の南端で根城を築こうとしていた。しかし、その野望は2週間も経たぬ内にとある小娘ごときによってくじかれることになる。

 コタロー=モンキー率いる40人の賊徒はまだ壊滅してない賊徒のグループと合流する。これでコタロー=モンキーが率いる賊徒は80人余りに膨れ上がった。そして、合流先の賊徒をまとめていたジゴロー=パーセンと元々の自分の補佐であるオニタ=モンドに20人ずつ任せ、自分は直属として40人を率いた。

 そして、いつでもかかってくるならかかってこいと、最大限に警戒しつつ野営地を拡充し始める。

 その様子を背の高い木に登り、視察している人物が居た。エーリカが率いる若者組に所属する狩人のロビン=ウィルであった。彼は狩人なだけはあり、ひとよりも遠目が利く。拡充されていく野営地をつぶさに観察し、どこをどう攻めるのが良いのか、狩人なりの戦術を考える。

「ダメね。奇襲は散々使ってきた以上、相手もそれを読んでいると見ていいと思う。ロビンの考えにもうひとひねり必要だわ」

 森の中に潜んでいたエーリカたち若者組はロビン=ウィルが得た情報から、採るべき戦術を模索していた。賊徒が集合し、80人余りに膨れ上がった。若者組は今までの戦いで戦える者が20人から16人へと減っていた。いくら快勝を続けようが、けが人はどうしても出てくる。たった20人で延べ120人の賊徒たちを退治してきたというのに、こちら側の離脱者はたった4人である。

 だが、大きな視点で見れば、20人中4人欠けるということは戦力が2割減となってしまっている。向こうが5分の2まで数を減らしているからといって、戦力差は2倍から5倍へと膨れ上がってしまったのだ。

「ここらが潮時かもしれぬなぁ。エーリカ、賊徒の数は減らしたんじゃ。足止めとしては立派に戦ったじゃろ?」

「アイス師匠。それは確かにその通りです。でも、ここでホバート王国の正規軍に手柄を持っていかれるのは釈然としないわっ!」

 アイス=キノレは弟子のエーリカがとてつもなく強欲だと思ってしまう。たった20人で120人の賊徒を退治したとなれば、オダーニの村周辺では英雄と呼ばれてもおかしくない働きだ。だが、それで満足するようなエーリカではないこともアイス=キノレは承知していた。

 エーリカの野望は【一国のあるじ】である。辺境の村:オダーニの周辺で英雄ともてはやされることではないのだ。しかしながら、この5倍の戦力差を覆すには、まだ策が足りないと言ったところである。

「火攻め、水攻め……。いいえ、ダメだわ。水攻めはそもそも準備なんてしてないし、火攻めをすれば、ここら一帯が火の海になっちゃって、賊徒よりも悪名で名が通っちゃうし」

 エーリカたち若者組が賊徒を追い払う行動に出てから、早2週間が経とうとしていた。5月8日から動きはじめ、そろそろ6月入りを迎えようとしてた。梅雨も明けかけ、火攻めは効果をおおいに発揮するだろう。だが、その火が山林にまで及べば、すくすくと育つ作物に大ダメージを与えることは必然であった。

「くっ。こちらがあと20人。いえ、10人いれば、どうにか出来そうなんだけど」

「無い袖を振ってもしょうがないんだべさ」

「エーリカらしくないでござるよ。これから先、エーリカは兵が足りぬことを理由に、退いてはいけないいくさで退くでござるか?」

「しかり。兵が足らぬなら、代わりに知恵を振り絞る。知恵が足りぬなら勇気を振り絞る。そうではないか?」

「ミンミン。ブルース。アベル。あんたたちも言うようになったわねっ! でも、勇気を振り絞るのは今は無しよ。こんなところであんたたちに大怪我してもらったら、あたしの野望が成し遂げられなくなっちゃうもん!」

 ミンミン=ダベサ、ブルース=イーリン、アベルカーナ=モッチンはエーリカにとって頼もしい存在に変わっていた。男という生き物は女と比べると非常に単純だ。賊徒相手と言えども、勝利を積み重ねることで、それは確固たる自信となり、ミンミン、ブルース、アベルを短期間でおおいに成長させたのだ。

「まだ15歳にもなってない小僧どもが大人の階段を順調に登っているようじゃな。では、ここはわたしゃがおぬしらの代わりに大人の知恵を授けてやろうて」

「さすがはアイス師匠ねっ。で、どんな策を隠し持っているの!?」
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