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第12章:ヒトが覇王を超える時

第7話:死地からの帰還

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 4種族連合は覇王との戦いの余波をモロに喰らった砦で一夜を過ごす他無かった。砦の機能はほぼ完全にマヒし、雨露をギリギリ防げる程度である。しかし、それでもここまでの激戦の傷を癒す場所は必要とのことで、ここからさらに東にある小砦で休まずに、ここで一旦、足を止める。

 しかしながら、ニンゲン族の首魁とその軍師は、この決定をやめておけば良いと思ってしまう。皆、戦いに疲れ切っている様子だったので、軽く夕食を済ませて、あとの片付けは明日に持ち込むことにしたのだが、太陽が水平線の彼方に沈むや否や、半壊した砦のあちこちで、嬌声が巻き起こったのだ。

「いやその……。お前たち、ひとめをはばかることを知らぬのか……?」

 獣のように交わり合う4種族に対して、ニンゲン族の首魁があきれ果てていたのだが、それ以上は何を言わずに、軍師を伴って、砦の外へ出る。しかし、砦の外でも砦内と同じように平原に嬌声がコダマしてしまっていた。夏の虫の泣き声のほうがよっぽど静かに聞こえるほどに兵士たちは互いに互いを求めあった結果でもあった。

 生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされたヒトがぎりぎりで生を勝ち取るようなことになれば、その反動でおちんこさんがそそり立ち、卑肉からは愛液が留めなく溢れ出してしまうのは当然の帰結である。しかし、ここで不憫だったのは、ニンゲン族の首魁には特定の相手がいなかったことであろう。そもそも、軍にはなよっとした可愛い男の娘など存在しないといっても過言では無い。どの兵士も男女問わずに鍛えられた身体の持ち主ばかりである。

 そして、ニンゲン族の首魁であるタムラ=サカノウエもヒトである。勝利に酔いしれると同時に、彼のおちんこさんも天を衝くばかりに屹立していた。しかし、彼好みの男の娘が居ないために、そのおちんこさんの使い道が無いといった状況であった。

「カンベー=クロダ。戦場に男の娘を招けるように軍法を改善してくれないか?」

「それは断固拒否させてもらうのでごわす。城で小姓を囲むことは百歩譲って、許しているのでごわす。タムラ様は我欲に耐え忍ぶことで、その采配の才能を発揮できる御仁だと、評価しているゆえに」

 タムラ=サカノウエはあからさまに嫌そうな顔で、自分の軍師を睨んでみせる。しかしながら、カンベー=クロダはカッカッカ! と軽快に笑った後、自分の友人の知り合いのこれまた知り合いに器量良い男の娘が居ることを自分のあるじに告げる。それを聞いた瞬間、タムラ=サカノウエの顔は喜々となり、その男の娘はどのような感じなのかと根掘り葉掘り、聞き出そうとする。カンベー=クロダはこの日ばかりは舌の滑りが良く、タムラ=サカノウエの期待をおおいに膨らませたのだった。



 明けて、テンショウ21年6月8日 午前7時となる。兵士たちのほとんどは寝不足から眼の下に真っ黒なクマを作っていた。もちろん、ハジュン=ダイロクテンとアンジェラ=キシャルもそうであり、意外なことに、イヴァン=アレクサンドロヴァとマリーヤ=ポルヤノフも非常に眠たげな表情であった。

「昨夜はお楽しみでござった……か?」

「お、おう……。うちの嫁が雰囲気に飲み込まれたのか、なかなか寝させてくれなくてですな?」

 タムラ=サカノウエが珍しく男女の夜のむつみあいについて言及してきたので、戸惑いながらも、イヴァン=アレクサンドロヴァは素直にそうだと答える他無かった。こういった話をすると、嫁のマリーヤ=ポルヤノフにビンタかタイキックを喰らうのが予定調和なのだが、マリーヤ=ポルヤノフはズズズと湯呑茶碗に注がれているヤマダイ茶をすすり、男たちの会話に入ってこようとさえしなかったのである。

 それはアンジェラ=キシャルも同様であった。ハジュン=ダイロクテンと少し距離を取った位置で座り、どちらかと言うと、マリーヤ=ポルヤノフの方に近い位置で座っていたのである。イヴァン=アレクサンドロヴァはどうしたのかとアニキに口を用いずに所作を用いて、聞いてみるが、ハジュン=ダイロクテンはフルフルと首を左右に振り、自分もわからないという所作で返してみせる。

「ふぅ……。握り飯に味噌ミッソスープ。締めにヤマダイ茶とは、これまた格別な朝なのじゃ」

「ワタクシもマリーヤさんの言いに完全に同意ですわ。でも少し、ヤマダイ茶を飲み過ぎたかしら?」

「ほう、奇遇じゃのう。それでは二人で化粧室にでも行くまいか?」

 マリーヤ=ポルヤノフとアンジェラ=キシャルがそう言うと、少しばかり失礼いたしますと言い、席を外してしまう。残された男連中は何が何やらまったくわからない表情となってしまう。しかし、彼らは知るよしもなかった。彼女らが化粧室に出向き、そこで昨夜の旦那はすごかったのじゃっ! とか、あんなに激しくされるなら、いっそのこと、もっといくさが続いてくれてもよろしくてよ! と言い合っていることなど。

「男という生き物はいくさも遊びも全力なゆえか、勝利を収めた後は、玉袋がはちきれんばかりとなってしまうとは、書物で読んだことはあるが、眉唾モノとばかり思っておったものじゃ……」

「うちのハジュンさんなんか、通常の4倍近くに膨れ上がっていましてよ? 昨晩だけでは搾り取りきれていないので、今夜も楽しみでしょうがありませんことよ?」

 女同士のアッチ方面の話は男に聞かせれば、ドン引きしてしまうほどにえげつないとよく言われているが、亜人族の宰相であるマリーヤ=ポルヤノフとエルフ族の女王でるアンジェラ=キシャルも今は市井しせいの女性と同じである。旦那のサイズの話だけで済むわけがなく、おちんこさんの角度ならまだ甘いほうで、一回出すまでの時間や、復活するまでの時間まで、事細かく情報交換しているのだ。

 情報交換を終えたマリーヤ=ポルヤノフとアンジェラ=キシャルは、皆の前に戻ってくる頃には淑女然とした顔つきと態度であったが、ナニを話し合っていたとさえ、想像もつかない男連中は、すっきりしたか? という間抜けも良いことを聞いてしまうのであった。

 それから2時間ほどが過ぎると、半壊した砦に覇王がどうなったかの報告が伝令からもたされることとなる。伝令はコロウ関の約半分が崩壊し、そこら中が紫色の血で染まっていたという報告をタムラ=サカノウエたちにする。その情報から、覇王はもし生きていたとしても、生半可な傷で済んでいないだろうという結論に至る。

 とにもかくにも、この最終防衛ラインにおける勝利が確定したことは事実であり、その事実をありのままに受けることとなる。タムラ=サカノウエは改めて、砦に残る皆に勝鬨かちどきを上げよと命ずる。兵士たちは安堵の表情を浮かべて、互いに肩を抱き合い、勝利を掴んだのだと実感するに至る。皆はやっと心から、雄叫びを上げることが出来たでのあった……。
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