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第12章:ヒトが覇王を超える時

第4話:希望と絶望の果て

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 エルフ族の女王は亜人族のおさとその嫁、ニンゲン族の首魁とその軍師の手助けにより、難を逃れることに成功する。三日月状のエネルギーは宝剣・絶対王者の剣エクスカリバーの刀身に弾かれて、宙を舞い、ついには後方にある砦へと直撃する。砦は大きな破砕音を奏で、半壊状態へとなってしまう。それほどまでにエルフ族の女王が放った一撃は相当なモノであることを皆は想像してしまうのだが、それを軽々と投げ返してきた覇王の方によっぽど恐怖を感じてしまう。

 さらにはエルフ族の女王が手に持っていた宝剣・絶対王者の剣エクスカリバーの刀身は半ばから折れて、その先はどこかに飛んで行ってしまっていた。エルフ族の女王たちは『希望』を『絶望』に塗り替えられてしまい腰砕けとなる。ヘナヘナとその場でへたりこんでしまう。

 だが、そんな彼女たちを厳しく律する言葉を口にする男がいた。

「絶望は希望の対義語ではありません。『諦観』こそが、希望を殺すのです」

 その男とは魔族の代弁者であった。彼はエルフ族の女王の右腕を掴み、強引に彼女を立たせる。そして、両手を使い、彼女が再び宝剣・絶対王者の剣エクスカリバーを力強く握るようにと、彼女の手の甲を掴む。エルフ族の女王は困惑しきっていた。自分の身に宿る魔力の全てを込めたというのに、まだ足りないと言わんとしている魔族の代弁者に対して、涙の量を増やしてしまう。だが、涙を流しつづける彼女に対して、魔族の代弁者は首を左右に振り、彼女を否定する。

「アンジェラくん。貴女は間違っています」

「ワタクシは間違っているのですか?」

「はい。貴女は覇王くんに対して、憎しみの心で対峙しようとしています。それではダメなのです。『愛』が全てなんです」

 この時、この場において、愛を説く魔族の代弁者であった。しかし、アンジェラ=キシャルにとって、覇王の存在自体が自分が愛するすべてを傷つけようとしているのだ。そんな存在に対して、憎しみを抱いたとしても、愛を感じることは出来ない。だからこそ、彼女は無理だと魔族の代弁者に返答する。

「愛は全てを超えます。ヒトが覇王に抗うすべは『愛』しかないのです!」

「ワタクシは皆を傷つける覇王を許せないのです! なのに、貴方はあの覇王を愛せよと命じます。ワタクシにはそれが理解できませんわっ!」

「理解しようとしている内は、それは『愛』ではありません。理解するのではなく、感じるのですよ。そして、感じることが出来るようになれば、あとは反応するだけです。貴女は先生とまぐわっている最中にその行為を理解しようとしていましたか??」

 エルフ族の女王は、この命の瀬戸際において、魔族の代弁者との密会を頭の中で思い起こされる。そして、自然と卑肉から愛液が溢れ出し、彼女の下着を濡らしてしまう。さらに魔族の代弁者は彼女の右手を自分の股間に押し付けて、自分の愚息があらん限りに『生』を主張していることを教える。

「わかりますか? 先生は貴女の手を掴んでいるだけで、不覚にもこうなってしまうのです。これは先生が頭の中でごちゃごちゃ何かを考えているわけではありません。貴女がただただ愛しくて、こうなっているんですっ!」

 魔族の代弁者は彼女の右手を股間からまたもや宝剣・絶対王者の剣エクスカリバーの柄へと移動させる。そして、真剣な眼差しのまま、彼女にコクリと頷いてみせる。エルフ族の女王は彼にコクリと頷き返し、真っ直ぐに覇王へと視線を移動させる。そして、一度、まぶたを閉じた後、ゆっくりと碧玉サファイア色の双眸を見開いてみせる。

 彼女のその眼には憎しみによってドス黒く燃えていた焔は消えていた。全てを愛する大地の母の如くの光を宿していた。そんな彼女に感応するように宝剣・絶対王者の剣エクスカリバーが哭いたのだ。

 半ばから折れてしまったはずの宝剣・絶対王者の剣エクスカリバーが七色の光を発しながら、その刀身を復元していく。魔族の代弁者とエルフ族の女王が放つ愛のオーラを受け取り、産まれたての赤ん坊のようにすくすくと成長していく。絶対王者の剣エクスカリバーは、この世に生まれ出れたことへの感謝を二人に告げるように哭いたのであった。

「ワタクシは貴方と結ばれたことを、今、この時ほど神に感謝したいと思ったことはありません」

「先生もそうです。さあ、覇王くんにこの喜びをぶつけましょう……」

 魔族の代弁者とエルフ族の女王は、二人による初めての共同作業の如くに、生まれ変わった宝剣・絶対王者の剣エクスカリバーを振り上げてみせる。二人は覇王をウエディングケーキに見立てていた。そして、そのウエディングケーキに向かって、二人の手を携えた宝剣・絶対王者の剣エクスカリバーを振るってみせる。

 宝剣・絶対王者の剣エクスカリバーは七色に光る三日月状のエネルギー波をその刀身から放つ。縦に放たれたそのエネルギー波は真っ直ぐに覇王に向かって飛んでいく。覇王はその『愛』を受け取ってたまるかと抗いを見せる。

「天上天下、唯我独覇王!! われを恐怖せよっ!!」

 覇王は右のこぶしを思いっ切り握りしめて、そのこぶし神力ちからの全てを込める。覇王の右こぶしと七色に光る三日月状のエネルギー刃がぶつかり合い、互いにしのぎを削る。覇王は鬼のような形相となり、二人が放った『愛』を全否定する。これを受け入れてしまえば、自分の存在全てを否定されると思ったからだ。

 覇王は右こぶしだけでは足りぬと思い、左手も握り込み、左こぶしも七色の光へと叩きこむ。その甲斐あって、覇王は魔族の代弁者とエルフ族の女王が放ったエネルギー波を粉砕せしめてみせる。ゼエゼエハアハアと肩で息をする覇王は鬼の形相のままに二人を睨みつける。そして、自分が勝ったとばかりに雄叫びをあげてみせる。

 だが、魔族の代弁者とエルフ族の女王の心に『絶望』は訪れなかった。それもそうだ。『愛は無限のエネルギー』だからだ。愛は尽きることを知らない。愛は次々と生まれ出るのだ。ヒトは愛を確かめ合い、愛するヒトとの間で子を産み育ててきた。だからこそ、ヒトは歴史を刻んでくることが出来たのだ。ひとりでは決して出来ないのだ、歴史を積み重ねることは。

司祭プリーストが愛しあう二人に送った言葉がある。

真実の愛は全ての苦難を乗り越えるアルティマ・アモーレ

 そして、教会に集まる皆は誓いのキスをする二人を祝福した後、彼女たちにさらにこの言葉を送った。

キミたちの行く先に幸福が訪れん事をハッピー・ニュー・ロード

 二人の道には、思い描く幸せよりもはるかに多くの困難が待ち受けているだろう。それは棘の道であることは古今東西、変わりない。しかし、それでも彼女たちは手を取り合い、互いを助けて、天寿を全うするのだ……。
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