【R18】赤髪の覇王（股間のツインヘッドドラゴンも）大暴れ ～暗躍の魔王がヤリたい放題～

第12章：ヒトが覇王を超える時

第2話：ドラゴン復活

　４種族の代表者たちがその身に宿る魔力を結集させて創り出した結界はちょうど十度目となる覇王のスタンプ攻撃を喰らう。それにより、結界の表面に縦横無尽に亀裂が走り、ついにその結界は崩壊寸前にまで追い込まれることとなる。

　覇王はほくそ笑み、次の一撃をもってして、その結界内にいる者たち全てを押しつぶしてしまおうと考えた。覇王は両足を揃えて宙高く跳躍し、トドメの一撃を両足で決めようとしたのだ。全長１５ミャートルに達する覇王がその場で足を揃えて跳躍するだけで、その周辺の空気が彼に持っていかれてしまい、急激な上昇気流が発生することとなる。

　その上昇気流により、砦の周辺で戦いの趨勢を見守っていた兵士たちの内、１０００名ほどが巻き込まれて、天へと飛ばされていく。多くの兵士たちは恐怖に心を支配されてしまい、その場で尻餅をついてしまう。だが、そんな臆病な兵士たちをよそに、１０００人ほどの勇敢な者たちが彼らを突き飛ばし、群れの中を脱して、自分たちの主あるじたちの下へと駆けつける。

「おらおらおらっ！　亜人族七本槍ここに有りってのを見せつけてやるんだぜっ！」

「ふんっ。フクシマ＝マサーリィ。お前だけに良い恰好はさせぬぞっ！」

　へたり込む兵士４万の中から飛び出した兵士１０００の先頭を走るのは、亜人族七本槍に任じられたフクシマ＝マサーリィとカトゥ＝キョマーサの二人であった。彼らは覇王がもたらす恐怖に抗い続けた１０００人であった。機会をじっくりと伺い、いつでも覇王と魔族の代弁者の戦いに割って入ろうと心を燃やし続けていた。しかしながら、現実は非常に残酷だ。いくら心を燃やそうが、身体はついに動かなかったのだ。

　だが、そんな彼らの背中を押したのが、同じく、今の今まで足を一歩も踏み出せなかった亜人族七本槍であった。フクシマ＝マサーリィとカトゥ＝キョマーサはお互いの左頬に右の拳こぶしをめり込ませて、臆病風をどこかに吹き飛ばしたのだ。彼らは左頬に紫色の大きなアザを作ることになるが、それで足が動くようになれば、儲けものである。二人は強引な方法で互いを鼓舞し、自分たちの主あるじを護る行動へと出る。

　そして、その１０００人が各国の代表者たちの下へと集うや否や、両手をめいっぱいに開き、両腕を天へと突きつける。そして、その両手の先から自分の身に宿る魔力の全てを放出する。全体に亀裂が走っていた結界は兵士１０００人分の魔力を受けることにより、厚みを１０倍に増す。そして、上空から落ちてくる覇王に対して、『否定』の意思を示してみせる。

　しかしながら、兵士１０００人が創り出した『否定』は、覇王のたった一撃により砕け散ることとなる。各国の代表者たちを致命の一撃から救うことはなんとか出来たモノの、覇王と結界がぶつかりあったことで生じた衝撃波により、その兵士１０００人全員が彼方遠くへと吹き飛ばされることとなる。

「フクシマ、カトゥ！！　覇王めっ、俺の可愛い部下になんてことしやがるっ！！」

　亜人族の長おさであるイヴァン＝アレクサンドロヴァが全てを呪い殺さんとばかりの目力めぢからで、覇王を睨みつけてみせる。しかし、覇王は足元をうろちょろとしている蟻程度としか、彼を認識しておらず、ふんっ！　と鼻を鳴らすのみであった。

「我われに意見を通したいのであれば、その力を見せてみろ。我われと並び立つほどの力があれば、進言を受け入れてやろうっ！」

　覇王は腰に両手をあてつつ、胸を張り、ガハハッ！　と笑ってみせる。体長１５ミャートルに達するこの覇王に対抗できる存在など、それこそエンシェント・ドラゴンのみであることを覇王は知っていた。しかも、エンシェント・ドラゴン１体のみでは相手にならぬほどの神力ちからを有しているという自負を持っている覇王である。足元でわあわあ喚く男の言葉なぞ、耳に入れる価値も無いと断言したのだ。

「さあ、いい加減、死ぬが良いッ！　貴様らが居なくなった世界において、我われが『覇者』として君臨してやろうッ！」

「それは如何なもんやでぇ？　わいがそれに待ったをかけさせてもらうんやでぇ！！」

　覇王に待ったをかけた存在が居た。それは魔族の四天王の内、一匹で三席をも占めているヨンであった。彼は三つある断面をひとつに凝縮し、そこからひとつだけ首級くびを内から外へと伸ばしてみせるのであった。一本一本は比較的に細い首級くびであったが、ひとつに集まることで、ドラゴンらしい太さをもつ一本の首級くびを造り上げた。

「わいはヨンやでっ！　トモエくん、お待たせしたなっ！？　真打のわいがこの場をなんとかしてやるんやで！？」

「ちょっと、ヨン、遅いのよォ！　ぼくが注ぎ込んだ魔力の１０倍分の働きを見せなさいよォ！！」

　トモエ＝アポローネはようやく復活を遂げたヨンに文句を言ってみせる。三本の首級くびを覇王に跳ね飛ばされた後、ヨンの身体はトウ関に運ばれていた。その地でトモエ＝アポローネがヨンに魔力を注ぎ込み、ヨンを復活させようとしていた。しかしながら、ヨンの意識はなかなかに回復せずに、この地まで飛んでくる際に、トモエ＝アポローネはヨンを死役兵化させるしかなかった。

　トモエ＝アポローネは戦乙女ヴァルキリーであり、同時に死役者ネクロマンサーである。戦乙女ヴァルキリーはそもそもとして、死者の魂をヴァルハラの地へと運ぶ使命を帯びている。しかし、志半ばで死んでしまった戦士たちは未練を残したまま、魂をヴァルハラに運ばれることを拒否する。それを利用し、トモエ＝アポローネはまだ現世に留まりたい魂と肉体を戦場に駆り立てる死役者ネクロマンサーとしても活躍をしていた。

　当然、三頭龍（トライヘッド・ドラゴン）のヨンは死を拒否していた。そんな彼の身体に魔力を注ぎ込むことで、魂が肉体から離れていかないように維持してきたのだ、トモエ＝アポローネは。その甲斐もあって、ヨンは死を免れるばかりでなく、普通の？　一本首のドラゴンとして蘇ったのだ。しかしながら、ヒトであれば、いくらトモエ＝アポローネだったとしても、復活までは出来なかったであろう。生命力に溢れるドラゴンだからこそ、ヨンは黄泉返りを果たしたのだ。

　一本首としてのヨンは全長６ミャートルほどしかなかったが、それでも果敢に全長１５ミャートルの覇王に挑みかかる。口を大きく開き、覇王の突起物だらけの右太ももに噛みついてみせる。強靭な顎が覇王の太ももにある突起物のいくつかをかみ砕いてみせる。

　覇王は自分に絡みついてくるヨンを嫌がり、右足を大きく振りかぶり、ブンッ！　と前方へと振り回してみせる。だが、ヨンはそうされながらも決して喰らいついた覇王の太ももを離そうとはしなかった……。