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第11章:覇王と代弁者と女王

第7話:光の槍

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 覇王と魔族の代弁者は互いに化かし合いを繰り返す。覇王は容易には魔族の代弁者との距離を詰めずに、大剣クレイモア戦斧バトル・アクスから発せられる雷光と暴風を掛け合わせ続けた。四方八方に飛び散った雷光は続けざまに魔族の代弁者の身を打ち付けてやろうと収束していく。それを魔族の代弁者は舞うように回避しつづける。

(先ほどまでとは違って、直接的に雷光を弾こうとしない? しかし、それならば、こちらも雷光の本数を増やすまでよッ!!)

 覇王はそう考えると同時に大剣クレイモアから発する雷光をさらに3倍以上に増やす。今や天と地を穿つ雷光は1000本を超える数となり、その全てが生きている蛇のように身をくねりながら魔族の代弁者の周りを取り囲む。しかしながら、魔族の代弁者はいくら自分を囲む黄金こがね色の蛇が増えようとも、対処方法を変えることは無かった。

 自分に向かってくる黄金こがね色の蛇一匹一匹を身をひねることで回避する。決して、魔族の代弁者はソレ自体をどうこうしようとはしなかった。しかし、足の踏み場もないほどに自分の周囲を黄金こがね色の蛇が集まり出したことで、魔族の代弁者は舞うのをやめてしまう。

 一見、観念したかのように見える仕草であったが、覇王は油断することなく、天と地を穿つ黄金こがね色の蛇を増やしていく。今や、辺りは轟音と眼も眩むような光に包まれていき、魔族の代弁者の身はその黄金こがね色の蛇に飲み込まれる寸前にまで達していた。しかしながら、覇王はそれでも油断はまったくしなかった。あの男が黙って雷光にその身を引き千切られるとはどうしても思えなかったからだ。

 覇王は念には念を入れて、大剣クレイモアを上から下へと振り下ろし、そこからぶっとい雷光の束を鞭でも振るうかのように放つ。そのぶっとい雷光の鞭が魔族の代弁者を取り囲む黄金こがね色の蛇を押しのけて、彼の頭上へと振り下ろされる。

「この一撃を待っていました……」

 魔族の代弁者は振り下ろされてくる光の鞭を右の腕先を横にして受け止める。彼の右腕をすっぽりと覆う闇色のオーラに向かって、雷光の鞭が吸い込まれていく。覇王は驚愕の色をその顔に浮かべるが、時すでに遅し。大剣クレイモアから放たれたエネルギーは魔族の代弁者の右の腕先に取り込まれてしまう。そして、魔族の代弁者が次に取った行動は、闇色のオーラを纏った右腕を左から右へと振り払うことであった。

 魔族の代弁者が右腕を横薙ぎに払うと同時に、その闇色のオーラの内側から外側へと光の束を発する。魔族の代弁者はその光の束をもってして、自分の周囲を取り囲んでいた1000匹の黄金こがね色の蛇たちの半分ほどを一掃してしまったのだ。

 光の束と言うには語弊がある。ソレは長さ5ミャートルほどある光の槍であった。そして、その光の槍の穂先は1ミャートルほどあり、魔族の代弁者はその光の槍の柄を両手で掴み、未だ自分の周囲を警戒しながら踊りくねる黄金こがね色の蛇たちを退治しようと動く。黄金こがね色の蛇たちは簡単にはやられはせんぞとばかりに、身を大きくくねらせながら、魔族の代弁者にその身自体を叩きつけに行く。

 魔族の代弁者は迫りくる黄金こがね色の蛇群に対して、自分の頭上で光の槍を風車のように回してみせる。その風車は地から天へと舞い上がる風を創造し、それにより、彼へと突っ込む機会を伺っていた黄金こがね色の蛇群も吸い込まれるように、彼の下へと引き寄せられる。

 魔族の代弁者が槍を風車のように回すことで、大きな竜巻を産み出していた。しかしながら、ソレは覇王が戦斧バトル・アクスから生み出すモノとはまったくもって違っていた。まず、その竜巻の色が覇王が産み出したモノと違って、黄金こがね色であった。もちろんこれは、魔族の代弁者の周りを取り囲んでいた黄金こがね色の蛇を竜巻が飲み込んでしまったからである。

 しかしそうではあるものの、その竜巻は柔らかな印象を覇王に与えたのである。覇王が生み出す暴風は狂暴で冷たく、その風に吹かれる者は畏怖を心に埋め込まれる。だが、魔族の代弁者が生み出す竜巻はまるで春を告げる風のようであり、心地の良いものであった。覇王はその風に吹かれることで、ささくれだっていた心が幾分か、穏やかになってしまう。

 その気持ちの移り変わりに気づいた覇王は頭を左右にブンブンと振り、邪念だとばかりにその心地よさを振り払う。そのような気持ちを抱かせる魔族の代弁者に対して、無理やりに心の底から怒りを沸き起こさせる。だが、その心とは裏腹に、魔族の代弁者が生み出すソレが肌を刺激することで、筋肉を弛緩させていく。

 いくら覇王が心の中を緊張感で保とうが、筋肉は彼の心以上に正直であった。大剣クレイモアを握る右手の握力が眼に見えて落ちていく。そして、それと同時に戦斧バトル・アクスを握る左手からも力が抜けていく。この現象に覇王はとまどうばかりであった。

「面妖なッ! 貴様、いったいぜんたい何をしたッ!」

 覇王は骨格を覆う筋肉に全力で魔族の代弁者に抗えと指令を出す。脳内から神経を通して、全身にくまなく、アレは敵だっ! と認識するように命令を下す。覇王の筋肉はビクッ! と跳ね上がり、今まで自分はどうしていたのだとばかりに、気持ちを確かにしようとする。

 しかし、覇王の身を包む筋肉が神力ちからを発揮する前に魔族の代弁者は動いた。ゆったりとしているようでありながらも、それは力強い動きであり、さらには舞うように身体を動かしつつ、光の槍の穂先を覇王に向ける。そして、その光の槍を覇王に向かってぶん投げたのであった。

 穂先1ミャートルを含めて、全長5ミャ―トルある光の槍は一直線に覇王の心臓めがけて飛んでいく。魔族の代弁者と覇王の距離は20ミャートルほどであった。しかしながら、その距離を瞬きする時間すら惜しいといったスピードで覇王に向かって、光の槍は距離を詰める。

 覇王の筋肉は弛緩していたために、その槍のスピードに追いつけない。だかこそ、覇王は筋肉で出来た鎧をまるでゴム風船のように柔らかいモノに変化させたのである。光の槍の穂先は覇王の胸に突き立つことになるが、厚手のゴムを貫ききることは出来なかったのだ。覇王はこの世に蘇ってから、初めての冷や汗を背中全面に流すこととなる。

 一瞬でも判断を間違っていれば、魔族の代弁者が投げた光の槍により、自分の心臓は貫かれていたに違いない。光の槍の穂先が数センチュミャートルほど左胸のやや下部分に突き刺さっている。覇王は自分の判断の正しさを心底、褒め称えたくなってしまう……。
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