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第8章:橋頭保攻防戦
第4話:|縦横無陣《ファランクス》
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ハジュン=ダイロクテンは跨っている馬をそのままに死役兵に体当たりさせる。その衝撃により、10人の死役兵が宙に吹き飛ばされるが、それにまったく動揺する気配を見せない敵の群れであった。ハジュン=ダイロクテンはチッ! と強く舌打ちし、崩れぬ敵兵に対して、ブンブンと右腕を振り回す。その手で握るオニマルクニツナを用いて、跨っている馬に向かって今まさに突き立てられようとする短槍を次々と斬り飛ばしていく。
ハジュン=ダイロクテンの予想を遥かに裏切り、この長方形の陣は強固で、さらには表面の皮がひとつひとつ重厚なバームクーヘンのようでもあった。この薄皮一枚すらも切り刻むのは難儀だと感じる彼であった。そして、彼に遅れること1分後に馬面と牛面をした戦士たちが現場に到着し、ハジュン=ダイロクテンに纏わりつく死役兵たちを両手で持つ金属製のぶっとい棍棒で滅多打ちにしていくのであった。
こういう斬り込み隊は決して足を止めずに、散々に敵陣深くへ潜りこんでいかなければならない。そうすることで、敵を混乱させることが主目的なのだ。だが、死役兵たちが自分の身を顧みずに、その手に持つ短槍を突いたり振り回したりすることで、否応なくハジュン=ダイロクテンが率いる1000の斬り込み隊は無理やりに足を止められることとなる。
そして、ハジュン=ダイロクテンの部隊が真正面から突っ込むことにより、怯んだ敵軍の横っ腹を切り裂くために、斜め横から敵陣へ突入したイヴァン=アレクサンドロヴァが率いる1000の斬り込み隊も、ハジュン=ダイロクテンと同様に足を止められることとなる。ドワーフ族が敷いている陣はいわゆる、縦横無陣であった。
この陣の特徴は縦横の最前列に立つ者が左手に盾を持ち、右手に短槍を持ち、キレイに整列することである。これにより、強固な砦を戦場に作り出すことができるのだ。そして、ドワーフ族が率いる死役兵の盾とは、死役兵その者であり、最前列に並ぶ死役兵を倒したところで、後ろに続く死役兵が代わりの盾となることで機能しているのだ。
この兵の並びとしては単純な陣でありながらも、死役兵を用いるのであれば、これ以上に効果を発揮しないであろうと思える縦横無陣である。これを抜き、さらに奥地へと突き進むのは、魔族の代弁者であるハジュン=ダイロクテン、そして亜人族の長であるイヴァン=アレクサンドロヴァがそれぞれに率いている精鋭1000の斬り込み隊だとしても、至難の業であった。
彼らは明らかに足を止められているというのに、数の暴力で包囲殲滅させられなかったのは、死役兵が単純な命令しか実行できないという特性を持っていることに起因していた。いくら相手の勢いを殺し切っているというのに、決して縦横無陣の構えを解こうとしなかったのだ、ドワーフ族の死役兵たちは。
今の状況をあるものに例えるならば、焼きたての食パン一斤があるとして、その食パン一斤の表面を蟻2匹が真正面と横から喰らいついていると言ったほうが分かりやすいかもしれない。その食パン一斤は少しづつ少しづつ、前進を続けており、蟻2匹は自分たちの蟻の巣を潰されないように必死にその食パン一斤を喰らいつくそうとしていたのである。
「こりゃダメですねっ! いくら相手を斬り伏せようが、その穴をどんどん防がれてしまいますっ! あと10分ほど戦って、それでも先へ進めないようなら下がるしかありませんっ!」
ハジュン=ダイロクテンは精鋭部隊1000をもってしても、この縦横無陣の前進を止めることは不可能だと察していた。しかしながら、それでも喰らい続けることだけは忘れずに、斬り込み隊の先頭に立ち続け、オニマルクニツナを振るい続けたのだ。そして、ついに疲れ果てた彼の愛馬が完全にその場で足を止めてしまう。ハジュン=ダイロクテンがいくら手綱を引き、その愛馬の腹を蹴ろうが二本のねじれ角を持つ愛馬はその場から動くことを拒否してしまうこととなる。
ハジュン=ダイロクテンはこれではいけないと思い、愛馬から降りる。そして、愛馬の尻を右足のブーツの底で蹴りを入れる。ここで愛馬に死なれては困るとばかりに、愛馬だけでも先に戦場から離脱させようとしたのだ。彼の愛馬はブルル……と小さく呻いた後、後ろ髪を引かれる感じで戦場から離脱する。それを横目で見ながらも、ハジュン=ダイロクテンは玉のような汗を額から噴き出しながら、オニマルクニツナを振るい続けたのであった。
一方、縦横無陣の斜め横から突撃を繰り返していたイヴァン=アレクサンドロヴァの部隊にも疲労の色が濃くなってきていた。彼もまた、馬上で斧槍を振るっていたが、このままでは愛馬がつぶれてしまうと感じる。そしてその愛馬から降りて、旋棍に持ち替える。そして超接近戦へと移行して、部下とともに戦い続けていたのだが、それも終わりを迎えようとしていた。
「ハアハアハアッ! くっそ! こいつら、全然崩れやしねえぞっ!!」
イヴァン=アレクサンドロヴァは肺にめいいっぱい酸素を取り込み、両手に持つ旋棍を散々に死役兵に叩き込み続けた。だが、それでも縦横無陣に穴を開けることには至らずに、疲労だけが身体へ蓄積していくばかりである。肺の中の酸素が二酸化炭素へと変換され、それを思いっ切り吐き出し、新たな酸素で肺を満たす。それを1000回ほど繰り返そうが、最前列に空いた死役兵の穴をすぐさま次の死役兵で埋めてしまうのである。
イヴァン=アレクサンドロヴァに付き従ったのは腕力に特化した半虎半人と半熊半人の混成部隊であった。彼らもまた骨のみで構成された死役兵を打ち砕くのに適した両手で持ち上げなければ振るうこともできない大きさの戦槌を振るい続けたのである。
その様はまるで固い岩盤をツルハシ一本で掘り進むかの如くであった。そして、そのような鉱山と違うところは、掘った穴が次の瞬間には埋まってしまっていることである。これほどの徒労感を味わったことなど、イヴァン=アレクサンドロヴァたちには無かった。
どの国でもそうなのだが、収容所に収監されている犯罪者が、自分で犯した罪を償うために鉱山などで労役を任ぜられる場合がある。そして、そういった仕事が無い時の囚人たちは、地面に穴を掘って、自らの手でその穴を埋めるという作業をする時もある。イヴァン=アレクサンドロヴァは自分たちがやっていることはまさにそれに近い気がしてならないと思えてしょうがないのであった……。
ハジュン=ダイロクテンの予想を遥かに裏切り、この長方形の陣は強固で、さらには表面の皮がひとつひとつ重厚なバームクーヘンのようでもあった。この薄皮一枚すらも切り刻むのは難儀だと感じる彼であった。そして、彼に遅れること1分後に馬面と牛面をした戦士たちが現場に到着し、ハジュン=ダイロクテンに纏わりつく死役兵たちを両手で持つ金属製のぶっとい棍棒で滅多打ちにしていくのであった。
こういう斬り込み隊は決して足を止めずに、散々に敵陣深くへ潜りこんでいかなければならない。そうすることで、敵を混乱させることが主目的なのだ。だが、死役兵たちが自分の身を顧みずに、その手に持つ短槍を突いたり振り回したりすることで、否応なくハジュン=ダイロクテンが率いる1000の斬り込み隊は無理やりに足を止められることとなる。
そして、ハジュン=ダイロクテンの部隊が真正面から突っ込むことにより、怯んだ敵軍の横っ腹を切り裂くために、斜め横から敵陣へ突入したイヴァン=アレクサンドロヴァが率いる1000の斬り込み隊も、ハジュン=ダイロクテンと同様に足を止められることとなる。ドワーフ族が敷いている陣はいわゆる、縦横無陣であった。
この陣の特徴は縦横の最前列に立つ者が左手に盾を持ち、右手に短槍を持ち、キレイに整列することである。これにより、強固な砦を戦場に作り出すことができるのだ。そして、ドワーフ族が率いる死役兵の盾とは、死役兵その者であり、最前列に並ぶ死役兵を倒したところで、後ろに続く死役兵が代わりの盾となることで機能しているのだ。
この兵の並びとしては単純な陣でありながらも、死役兵を用いるのであれば、これ以上に効果を発揮しないであろうと思える縦横無陣である。これを抜き、さらに奥地へと突き進むのは、魔族の代弁者であるハジュン=ダイロクテン、そして亜人族の長であるイヴァン=アレクサンドロヴァがそれぞれに率いている精鋭1000の斬り込み隊だとしても、至難の業であった。
彼らは明らかに足を止められているというのに、数の暴力で包囲殲滅させられなかったのは、死役兵が単純な命令しか実行できないという特性を持っていることに起因していた。いくら相手の勢いを殺し切っているというのに、決して縦横無陣の構えを解こうとしなかったのだ、ドワーフ族の死役兵たちは。
今の状況をあるものに例えるならば、焼きたての食パン一斤があるとして、その食パン一斤の表面を蟻2匹が真正面と横から喰らいついていると言ったほうが分かりやすいかもしれない。その食パン一斤は少しづつ少しづつ、前進を続けており、蟻2匹は自分たちの蟻の巣を潰されないように必死にその食パン一斤を喰らいつくそうとしていたのである。
「こりゃダメですねっ! いくら相手を斬り伏せようが、その穴をどんどん防がれてしまいますっ! あと10分ほど戦って、それでも先へ進めないようなら下がるしかありませんっ!」
ハジュン=ダイロクテンは精鋭部隊1000をもってしても、この縦横無陣の前進を止めることは不可能だと察していた。しかしながら、それでも喰らい続けることだけは忘れずに、斬り込み隊の先頭に立ち続け、オニマルクニツナを振るい続けたのだ。そして、ついに疲れ果てた彼の愛馬が完全にその場で足を止めてしまう。ハジュン=ダイロクテンがいくら手綱を引き、その愛馬の腹を蹴ろうが二本のねじれ角を持つ愛馬はその場から動くことを拒否してしまうこととなる。
ハジュン=ダイロクテンはこれではいけないと思い、愛馬から降りる。そして、愛馬の尻を右足のブーツの底で蹴りを入れる。ここで愛馬に死なれては困るとばかりに、愛馬だけでも先に戦場から離脱させようとしたのだ。彼の愛馬はブルル……と小さく呻いた後、後ろ髪を引かれる感じで戦場から離脱する。それを横目で見ながらも、ハジュン=ダイロクテンは玉のような汗を額から噴き出しながら、オニマルクニツナを振るい続けたのであった。
一方、縦横無陣の斜め横から突撃を繰り返していたイヴァン=アレクサンドロヴァの部隊にも疲労の色が濃くなってきていた。彼もまた、馬上で斧槍を振るっていたが、このままでは愛馬がつぶれてしまうと感じる。そしてその愛馬から降りて、旋棍に持ち替える。そして超接近戦へと移行して、部下とともに戦い続けていたのだが、それも終わりを迎えようとしていた。
「ハアハアハアッ! くっそ! こいつら、全然崩れやしねえぞっ!!」
イヴァン=アレクサンドロヴァは肺にめいいっぱい酸素を取り込み、両手に持つ旋棍を散々に死役兵に叩き込み続けた。だが、それでも縦横無陣に穴を開けることには至らずに、疲労だけが身体へ蓄積していくばかりである。肺の中の酸素が二酸化炭素へと変換され、それを思いっ切り吐き出し、新たな酸素で肺を満たす。それを1000回ほど繰り返そうが、最前列に空いた死役兵の穴をすぐさま次の死役兵で埋めてしまうのである。
イヴァン=アレクサンドロヴァに付き従ったのは腕力に特化した半虎半人と半熊半人の混成部隊であった。彼らもまた骨のみで構成された死役兵を打ち砕くのに適した両手で持ち上げなければ振るうこともできない大きさの戦槌を振るい続けたのである。
その様はまるで固い岩盤をツルハシ一本で掘り進むかの如くであった。そして、そのような鉱山と違うところは、掘った穴が次の瞬間には埋まってしまっていることである。これほどの徒労感を味わったことなど、イヴァン=アレクサンドロヴァたちには無かった。
どの国でもそうなのだが、収容所に収監されている犯罪者が、自分で犯した罪を償うために鉱山などで労役を任ぜられる場合がある。そして、そういった仕事が無い時の囚人たちは、地面に穴を掘って、自らの手でその穴を埋めるという作業をする時もある。イヴァン=アレクサンドロヴァは自分たちがやっていることはまさにそれに近い気がしてならないと思えてしょうがないのであった……。
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