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第19章:自由意志

第6話:再評価

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 アリス=アンジェラがレオン=アレクサンダーの首級くびを刎ねたことで、アンドレイ=ラプソティによって塩の柱へと変換されることに抵抗できなくなったレオン=アレクサンダーであった。胸に空いた大穴を中心として、レオン=アレクサンダーはまたしても、アンドレイ=ラプソティによって浄化されようとしていた。アンドレイ=ラプソティはその変わり果てていくレオン=アレクサンダーに耐えきれなくなり、幻覚の中に逃げ込んだのである。

 しかし、それを決して許さぬ存在が居た。その人物はアリス=アンジェラである。アリス=アンジェラはもがき苦しみ、さらには逃避してしまっていたアンドレイ=ラプソティを、こっちの世界に無理やりに呼び戻したのである。

「ボクのお尻をマジマジと見ないでほしいのデス! ミサさんという大切な女性が居るでしょうガッ!」

「えっ!?」

 アンドレイ=ラプソティはどこまでが現実で、どこまでが逃避のために逃げ込んだ幻覚か、わからなくなっていた。アリス=アンジェラの激昂ぶりから言って、彼女のお尻に穴が開くくらいにマジマジと見ていたのは間違いないだろう。だが、いったい、どのような状況だったのかを説明してくれるような心優しい人物は、この場には居なさそうであった。

「こちらを見られてもなぁ?」

「こちらを見られましてモネエ?」

 さすがは七大悪魔たちである。状況説明しないほうが、よっぽど面白いことになると思ってか、しらばっくれるのみである。アリス=アンジェラは未だ顔を真っ赤にしながら、アンドレイ=ラプソティを殴り飛ばしそうな勢いである。

 唯一、今のアンドレイ=ラプソティにとって、心が安心感で包まれることと言えば、ミサ=ミケーンは最悪な状況から抜け出し、かなり状態が良くなったのか、スヤスヤと気持ち良さそうな寝息を立てている。アンドレイ=ラプソティは怒り顔のアリス=アンジェラには悪いが、今はミサ=ミケーンの寝顔に癒されたいと思うのであった。

 しかしながら、アンドレイ=ラプソティは無理やりに現実に引き戻される。襟元を掴んでいるアリス=アンジェラが何を思ったのか、アンドレイ=ラプソティの額から生える2本の角の内の1本を鷲掴みにして、無理やり、へし折ろうとしてきたのだ。

「痛い痛い痛い」

「むむっ……。これを折ってしまえば、アンドレイ様の堕天移行状態は止まると思ったのですが、なかなかに頑丈なのデス!」

「クハハッ! その角は骨と同質よ。アリス=アンジェラ。貴様の神力ちから如きでは!?」

「あっ。折れたのデス。さあ、これでアンドレイ様の堕天移行状態は収まるはずなのデス!」

 さすがの悪魔皇:サタンも、アリス=アンジェラの取った行動に驚きの表情となってしまう。あの角は折れるわけがないのだ。竜皇の竜鱗よりも硬いのである。七大悪魔の額から生える角は。しかしながら、アリス=アンジェラはそれを為してしまったのだ。どれほどのバカ神力ちからを発揮すれば、そのようなことが出来るのか、到底、理解が出来ない悪魔皇:サタンだったのだ。

 悪魔皇:サタンはアリス=アンジェラの評価を改め直す。自らの呪力ちからと、3万人の女性たちの膣を用いて、魔人:レオン=アレクサンダーを創り出したが、所詮、一度、命を失っている存在だ。創造主:Y.O.N.Nの愛娘であるアリス=アンジェラと良い勝負はするであろうが、決して、勝てぬと、最初から予想済みである。だが、堕天移行状態と言えども、アンドレイ=ラプソティは空いている七大悪魔の座に座る男なのだ。その生えたばかりかもしれない角をへし折ることなど、アリス=アンジェラでは不可能だと思っていたのだ。

「アリス=アンジェラ。お前も、アンドレイ=ラプソティのように堕天するつもりは無いか?」

「固辞させてもらいマス。ボクは『自由意志』を手に入れましたが、創造主:Y.O.N.N様とたもとを分かつつもりはありまセン。アリスはアリスの意志で、これから天使生を満喫させてもらうのデス。誰かに言われたからと言って、ハイそうですかと受け入れる気はありまセン!」

「誠に殊勝な言い分よ。ならばこそ、無理やりに堕天させてやりたくなるわっ!」

 悪魔皇:サタンは剛毅なこの小娘を痛く気に入ることになる。角を1本折られたところで、今更、アンドレイ=ラプソティの堕天移行状態が止まるわけでは無い。ここでの用はほぼ済んだと言っても過言では無い。だが、魔界に帰るのであれば、手土産のひとつでも欲しくなってしまうところが、悪魔的な七大悪魔である。

「予定には無いが、この小娘を堕天させてやりたくなったぞ」

「それはどうかと思いマスワ。この小娘に手を出さないことは、ベリアルのためでもアルト。見逃してやったほうが良いと、ルシフェルも言っておりましたモノ」

「ならば、こうしよう。アリス=アンジェラ。われに傷ひとつでもつけてみろ。そうすれば、今回は堕天させずに見逃してやろうではないかっ!!」

 悪魔皇:サタンはそう言うと、玉座から立ち上がる。悪魔宰相:ベルゼブブはやれやれといった雰囲気を醸し出している。どうせ、傲慢の権現様の考えとしては、自分に傷をつけるほどの神力ちからなぞ、この小娘に無いと断じているのだろうと。そして、傲慢がゆえに、そのままの結果であれば、自分はこの小娘から興味が薄らいでしまうのであろうと。

 結局のところ、アリス=アンジェラに対しての興味心は多少は昂ったが、今の時点で無理やりアリス=アンジェラを堕天させる気はそれほど無かったのである。どっちに転ぼうが、どうとでもなる選択肢をアリス=アンジェラに叩きつけている時点で、それがありありと感じ取れる悪魔宰相:ベルゼブブであった。

「あまり、イジメないでやってくだサイナ。ベリアルが真っ赤な顔で、ここに怒鳴りこんできますワヨ」

「あいつが悪魔将軍に勝つとでも?」

 まさに傲慢の一言を言い放つ悪魔皇であった。悪魔宰相はヤレヤレ……といった雰囲気を醸し出す。そして、次の瞬間には、伏魔殿パンデモニウムの肉の壁を破砕して、内側に飛び込んでくる人物が2人居たのであった。

「ぜえぜえはあはあ……。いつまでも坊や扱いしてんじゃねえよっ! 我輩もやる時はやるんだよっ!」

「ははは……。悪魔将軍の座は、貴方に譲ったほうが良いかもしれませんね」

「そんなもんいらねえよっ! 手を抜かれているのをわかっていながら、悪魔将軍の座なんぞ、譲ってもらった日にゃ、我輩は魔界中の笑い者にされるわっ!!」

 玉座の間に乱入してきたのは悪魔将軍:ルシフェルと、怠惰の権現様であるベリアルであった。どちらも勇壮な悪魔羽がボロボロになっており、お互いに激しい傷つけあいをしていたことは一目瞭然であった。勝者は一応、ベリアルっぽいのだが、そのベリアルは嬉しくもなんともないといった表情であった。

 ベリアルは呼吸を整えつつも、倒したばかりの悪魔将軍:ルシフェルをゲシゲシと踏みまくる。そうされながらも、ルシフェルは痛い痛い、年上には優しくしてくださいよとほざくものだから、余計に踏みつけたくなってしまうベリアルだった……。
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