139 / 202
第14章:首都攻防戦
第7話:闘士の矜持
しおりを挟む
クリスティーナ=ベックマンとアリス=アンジェラは互いに徒手空拳で戦い合う。クリスティーナ=ベックマンが右の拳を真っ直ぐに、アリス=アンジェラの整った顔へとぶち込もうとすると、アリス=アンジェラは左の拳で、クリスティーナ=ベックマンの右の拳の骨を粉砕する。
右手が使い物にならなくなったクリスティーナ=ベックマンは左の拳を下から上へとかち上げていく。だが、アリス=アンジェラは首級を縦に振り下げ、頭の骨の中で一番硬いと言われる額で、クリスティーナ=ベックマンの左のアッパーを迎撃する。
これでクリスティーナ=ベックマンの両手の骨は砕け散り、手の甲を突き破って骨が突き出すことになる。だが、痛みを押して、掌底でアリス=アンジェラの顎を左右から打ち抜こうとする。これが決まりさえすれば、一発逆転の奇策となる。天使といえども、顎を強打されれば、その衝撃は脳を貫通し、一時的ではあるが戦闘不能になってしまう。
しかしながら、アリス=アンジェラは肘を用いて、クリスティーナ=ベックマンの両手首の骨すらも砕いてしまうのであった、こうなっては、クリスティーナ=ベックマンは掌底も打てなくなってしまう。それでも、クリスティーナ=ベックマンは抗うことを止めなかった。彼女には拳聖:キョーコ=モトカードの意志を継いでいるという誇りがあった。
悪魔と天使の戦争に巻き込まれても、生き延びる力。それこそが、キョーコ=モトカードが地上界の人々に遺したいモノであった。だが、如何せん。キョーコ=モトカードは伝説の半虎半人であった。クリスティーナ=ベックマンは中興の祖となりえる『不世出の天才』であったことは間違いない。だが、もし、クリスティーナ=ベックマンがキョーコ=モトカードが別で遺していた緋緋色金製の武具に身を包んでいたのであれば、結果は間違いなく違っていたであろう……。
両手、両手首、両肘、両膝、両太もも、両すねの骨という骨を粉砕されたクリスティーナ=ベックマンに戦う呪力は既に残されてはいなかった。そんなクリスティーナ=ベックマンは、この状態にもっていった眼前のアリス=アンジェラに質問を開始する。
「あんた、強いね。どこの誰にその拳法を習ったんだい?」
「地上界に戦闘術のイロハを伝授したと呼ばれる四大天使:ウリエル様を師として、崇めていマス」
「なるほどなあ。もし、あたいがウリエル様を師匠にしていたら、あんたを倒すことは出来たのかな?」
「それはわかりかねるとしか言いようがありまセン。伝説に謳われる拳聖:キョーコ=モトカード様が興したモトカード流拳法には、さすがに徒手空拳においては、足元に及ばないと、ウリエル様がおっしゃっていましたので」
クリスティーナ=ベックマンはカハッ! と心底、気持ちよく笑う他無かった。四大天使:ウリエル様は拳法だけが専門ではない。剣術、槍術、弓術など、ありとあらゆる武術の伝達者であることは間違いない存在だ。しかし、あくまでも源流であり、その後に技術発展させた人物のほうが遥かに質の高い技術を持っていることは確かなる事実である。
ならば、クリスティーナ=ベックマンに足りなかったモノはいったい何なのか? それは、いくら地上界に住む亜人の中で、最強の硬度を誇る半龍半人であったとしても、創造主:Y.O.N.Nが手塩に育てたアリス=アンジェラ個人に打ち勝つことは出来なかった。ただそれだけが真実なのである。
「けっ……。試合に負けて、勝負で勝ったとはまさにこのことかよっ! まあ、良い。モトカード流拳法が最強なのは、変わらねえ。あたいが弱かっただけだっ。さあ、煮るなり、焼くなり、好きにしろってんだっ!」
「誇り高き武人に生き恥を晒せとは言いまセン。貴女の魂を天界へと送り届けると約束いたしまショウ」
「どうせなら、地獄が良いなっ! あたいは殺し過ぎた。今更、天界で受け入れらるとは思えねぇっ!」
「クリスティーナ=ベックマン。貴女を罪人と称する者が天界に居るかもしれませんが、貴女との勝負で、貴女が卑怯な振る舞いをしなかったと、ボクが天界裁判で弁明させてもらいマス」
「おう、勝手にしろ。あたいはその天界裁判で悪態の限りを尽くしてやるけどなっ!!」
これが、クリスティーナ=ベックマンの地上界での生における最後の言葉でもあった。アリス=アンジェラは真冬の冷気で冷たく、さらには固くなっている地面の上で大の字を描き、寝転がっているクリスティーナ=ベックマンの顔面に、光り輝く右手をそっと置く。そして、その右手の光がおおいに輝きを増していき、クリスティーナ=ベックマンの体内にしがみついていた魂魄を天界へと送り届けるのであった。
そうした後、紅い竜眼から光が消えてしまったクリスティーナ=ベックマンの顔面を右手でサッと撫でて、彼女の表情を戦闘状態から、安眠状態へと無理やりに移行させるのであった。アリス=アンジェラは膝立ち状態から立ち上がり、こちらに近づいてくる両手を上にあげて、降参ポーズを取っているヨーコ=タマモに視線を向ける。
「わらわの相方であるクリスティーナ=ベックマンは、強かったかえ?」
「はい。とてつもなく強かったデス。アリスがこの戦乙女・天使装束で武装していなければ、全身の骨という骨を砕かれていたのは、ボクの方で間違いなかったでショウ」
「こいつは頑なにバカでな。こいつが師の師と仰ぐキョーコ=モトカードを越えると言って、徒手空拳であることを辞めもしなかったのじゃ」
「なるほどなのデス。武闘家なのにセスタス系の装備をしてないのは、そういう理由だったのデスネ」
アリス=アンジェラの言う通り、拳を自分の腕力で破壊してしまわないように、普通の武闘家ならば、拳を保護し、同時に補強する手甲を装着していることが当たり前であった。だが、先ほどまで死闘を繰り広げたクリスティーナ=ベックマンは文字通り、徒手空拳であったのだ。誇りのために戦う闘士であることは間違いないが、武闘家としては間違いであったような気がしてならないアリス=アンジェラであった。
「クリスティーナ=ベックマンさんの命を奪ってしまう結果になってしまったことはお詫びしマス。仇を取りたいのであれば、全力で抗わせてもらいマス」
「カッカッカ! クリスティーナ=ベックマンは、個人的武勇では、わらわの3倍以上の実力者よ。その彼女が倒された相手に、どう立ち向かえと言うのじゃ? 無駄死にこそ、クリスは望んでおらぬよ」
「そう……デスカ。では、闇討ちでも奇襲でも、いつでも行ってくだサイ。そうすれば、少しは対等の仇討にまで持っていけると思いますノデ」
アリス=アンジェラのこの台詞に、苦笑する他無いヨーコ=タマモであった……。
右手が使い物にならなくなったクリスティーナ=ベックマンは左の拳を下から上へとかち上げていく。だが、アリス=アンジェラは首級を縦に振り下げ、頭の骨の中で一番硬いと言われる額で、クリスティーナ=ベックマンの左のアッパーを迎撃する。
これでクリスティーナ=ベックマンの両手の骨は砕け散り、手の甲を突き破って骨が突き出すことになる。だが、痛みを押して、掌底でアリス=アンジェラの顎を左右から打ち抜こうとする。これが決まりさえすれば、一発逆転の奇策となる。天使といえども、顎を強打されれば、その衝撃は脳を貫通し、一時的ではあるが戦闘不能になってしまう。
しかしながら、アリス=アンジェラは肘を用いて、クリスティーナ=ベックマンの両手首の骨すらも砕いてしまうのであった、こうなっては、クリスティーナ=ベックマンは掌底も打てなくなってしまう。それでも、クリスティーナ=ベックマンは抗うことを止めなかった。彼女には拳聖:キョーコ=モトカードの意志を継いでいるという誇りがあった。
悪魔と天使の戦争に巻き込まれても、生き延びる力。それこそが、キョーコ=モトカードが地上界の人々に遺したいモノであった。だが、如何せん。キョーコ=モトカードは伝説の半虎半人であった。クリスティーナ=ベックマンは中興の祖となりえる『不世出の天才』であったことは間違いない。だが、もし、クリスティーナ=ベックマンがキョーコ=モトカードが別で遺していた緋緋色金製の武具に身を包んでいたのであれば、結果は間違いなく違っていたであろう……。
両手、両手首、両肘、両膝、両太もも、両すねの骨という骨を粉砕されたクリスティーナ=ベックマンに戦う呪力は既に残されてはいなかった。そんなクリスティーナ=ベックマンは、この状態にもっていった眼前のアリス=アンジェラに質問を開始する。
「あんた、強いね。どこの誰にその拳法を習ったんだい?」
「地上界に戦闘術のイロハを伝授したと呼ばれる四大天使:ウリエル様を師として、崇めていマス」
「なるほどなあ。もし、あたいがウリエル様を師匠にしていたら、あんたを倒すことは出来たのかな?」
「それはわかりかねるとしか言いようがありまセン。伝説に謳われる拳聖:キョーコ=モトカード様が興したモトカード流拳法には、さすがに徒手空拳においては、足元に及ばないと、ウリエル様がおっしゃっていましたので」
クリスティーナ=ベックマンはカハッ! と心底、気持ちよく笑う他無かった。四大天使:ウリエル様は拳法だけが専門ではない。剣術、槍術、弓術など、ありとあらゆる武術の伝達者であることは間違いない存在だ。しかし、あくまでも源流であり、その後に技術発展させた人物のほうが遥かに質の高い技術を持っていることは確かなる事実である。
ならば、クリスティーナ=ベックマンに足りなかったモノはいったい何なのか? それは、いくら地上界に住む亜人の中で、最強の硬度を誇る半龍半人であったとしても、創造主:Y.O.N.Nが手塩に育てたアリス=アンジェラ個人に打ち勝つことは出来なかった。ただそれだけが真実なのである。
「けっ……。試合に負けて、勝負で勝ったとはまさにこのことかよっ! まあ、良い。モトカード流拳法が最強なのは、変わらねえ。あたいが弱かっただけだっ。さあ、煮るなり、焼くなり、好きにしろってんだっ!」
「誇り高き武人に生き恥を晒せとは言いまセン。貴女の魂を天界へと送り届けると約束いたしまショウ」
「どうせなら、地獄が良いなっ! あたいは殺し過ぎた。今更、天界で受け入れらるとは思えねぇっ!」
「クリスティーナ=ベックマン。貴女を罪人と称する者が天界に居るかもしれませんが、貴女との勝負で、貴女が卑怯な振る舞いをしなかったと、ボクが天界裁判で弁明させてもらいマス」
「おう、勝手にしろ。あたいはその天界裁判で悪態の限りを尽くしてやるけどなっ!!」
これが、クリスティーナ=ベックマンの地上界での生における最後の言葉でもあった。アリス=アンジェラは真冬の冷気で冷たく、さらには固くなっている地面の上で大の字を描き、寝転がっているクリスティーナ=ベックマンの顔面に、光り輝く右手をそっと置く。そして、その右手の光がおおいに輝きを増していき、クリスティーナ=ベックマンの体内にしがみついていた魂魄を天界へと送り届けるのであった。
そうした後、紅い竜眼から光が消えてしまったクリスティーナ=ベックマンの顔面を右手でサッと撫でて、彼女の表情を戦闘状態から、安眠状態へと無理やりに移行させるのであった。アリス=アンジェラは膝立ち状態から立ち上がり、こちらに近づいてくる両手を上にあげて、降参ポーズを取っているヨーコ=タマモに視線を向ける。
「わらわの相方であるクリスティーナ=ベックマンは、強かったかえ?」
「はい。とてつもなく強かったデス。アリスがこの戦乙女・天使装束で武装していなければ、全身の骨という骨を砕かれていたのは、ボクの方で間違いなかったでショウ」
「こいつは頑なにバカでな。こいつが師の師と仰ぐキョーコ=モトカードを越えると言って、徒手空拳であることを辞めもしなかったのじゃ」
「なるほどなのデス。武闘家なのにセスタス系の装備をしてないのは、そういう理由だったのデスネ」
アリス=アンジェラの言う通り、拳を自分の腕力で破壊してしまわないように、普通の武闘家ならば、拳を保護し、同時に補強する手甲を装着していることが当たり前であった。だが、先ほどまで死闘を繰り広げたクリスティーナ=ベックマンは文字通り、徒手空拳であったのだ。誇りのために戦う闘士であることは間違いないが、武闘家としては間違いであったような気がしてならないアリス=アンジェラであった。
「クリスティーナ=ベックマンさんの命を奪ってしまう結果になってしまったことはお詫びしマス。仇を取りたいのであれば、全力で抗わせてもらいマス」
「カッカッカ! クリスティーナ=ベックマンは、個人的武勇では、わらわの3倍以上の実力者よ。その彼女が倒された相手に、どう立ち向かえと言うのじゃ? 無駄死にこそ、クリスは望んでおらぬよ」
「そう……デスカ。では、闇討ちでも奇襲でも、いつでも行ってくだサイ。そうすれば、少しは対等の仇討にまで持っていけると思いますノデ」
アリス=アンジェラのこの台詞に、苦笑する他無いヨーコ=タマモであった……。
0
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる