【R18】聖女の思春期奇行列伝 ~創造主は痛みを快楽に変える変態を創り出す~

ももちく

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第14章:首都攻防戦

第7話:闘士の矜持

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 クリスティーナ=ベックマンとアリス=アンジェラは互いに徒手空拳で戦い合う。クリスティーナ=ベックマンが右のこぶしを真っ直ぐに、アリス=アンジェラの整った顔へとぶち込もうとすると、アリス=アンジェラは左のこぶしで、クリスティーナ=ベックマンの右のこぶしの骨を粉砕する。

 右手が使い物にならなくなったクリスティーナ=ベックマンは左のこぶしを下から上へとかち上げていく。だが、アリス=アンジェラは首級くびを縦に振り下げ、頭の骨の中で一番硬いと言われる額で、クリスティーナ=ベックマンの左のアッパーを迎撃する。

 これでクリスティーナ=ベックマンの両手の骨は砕け散り、手の甲を突き破って骨が突き出すことになる。だが、痛みを押して、掌底でアリス=アンジェラの顎を左右から打ち抜こうとする。これが決まりさえすれば、一発逆転の奇策となる。天使といえども、顎を強打されれば、その衝撃は脳を貫通し、一時的ではあるが戦闘不能になってしまう。

 しかしながら、アリス=アンジェラは肘を用いて、クリスティーナ=ベックマンの両手首の骨すらも砕いてしまうのであった、こうなっては、クリスティーナ=ベックマンは掌底も打てなくなってしまう。それでも、クリスティーナ=ベックマンは抗うことを止めなかった。彼女には拳聖:キョーコ=モトカードの意志を継いでいるという誇りがあった。

 悪魔と天使の戦争に巻き込まれても、生き延びる力。それこそが、キョーコ=モトカードが地上界の人々に遺したいモノであった。だが、如何せん。キョーコ=モトカードは伝説の半虎半人ハーフ・ダ・タイガであった。クリスティーナ=ベックマンは中興の祖となりえる『不世出の天才』であったことは間違いない。だが、もし、クリスティーナ=ベックマンがキョーコ=モトカードが別で遺していた緋緋色金製の武具に身を包んでいたのであれば、結果は間違いなく違っていたであろう……。

 両手、両手首、両肘、両膝、両太もも、両すねの骨という骨を粉砕されたクリスティーナ=ベックマンに戦う呪力ちからは既に残されてはいなかった。そんなクリスティーナ=ベックマンは、この状態にもっていった眼前のアリス=アンジェラに質問を開始する。

「あんた、強いね。どこの誰にその拳法を習ったんだい?」

「地上界に戦闘術のイロハを伝授したと呼ばれる四大天使:ウリエル様を師として、崇めていマス」

「なるほどなあ。もし、あたいがウリエル様を師匠にしていたら、あんたを倒すことは出来たのかな?」

「それはわかりかねるとしか言いようがありまセン。伝説に謳われる拳聖:キョーコ=モトカード様が興したモトカード流拳法には、さすがに徒手空拳においては、足元に及ばないと、ウリエル様がおっしゃっていましたので」

 クリスティーナ=ベックマンはカハッ! と心底、気持ちよく笑う他無かった。四大天使:ウリエル様は拳法だけが専門ではない。剣術、槍術、弓術など、ありとあらゆる武術の伝達者であることは間違いない存在だ。しかし、あくまでも源流であり、その後に技術発展させた人物のほうが遥かに質の高い技術を持っていることは確かなる事実である。

 ならば、クリスティーナ=ベックマンに足りなかったモノはいったい何なのか? それは、いくら地上界に住む亜人の中で、最強の硬度を誇る半龍半人ハーフ・ダ・ドラゴンであったとしても、創造主:Y.O.N.Nが手塩に育てたアリス=アンジェラ個人に打ち勝つことは出来なかった。ただそれだけが真実なのである。

「けっ……。試合に負けて、勝負で勝ったとはまさにこのことかよっ! まあ、良い。モトカード流拳法が最強なのは、変わらねえ。あたいが弱かっただけだっ。さあ、煮るなり、焼くなり、好きにしろってんだっ!」

「誇り高き武人に生き恥を晒せとは言いまセン。貴女の魂を天界へと送り届けると約束いたしまショウ」

「どうせなら、地獄が良いなっ! あたいは殺し過ぎた。今更、天界で受け入れらるとは思えねぇっ!」

「クリスティーナ=ベックマン。貴女を罪人と称する者が天界に居るかもしれませんが、貴女との勝負で、貴女が卑怯な振る舞いをしなかったと、ボクが天界裁判で弁明させてもらいマス」

「おう、勝手にしろ。あたいはその天界裁判で悪態の限りを尽くしてやるけどなっ!!」

 これが、クリスティーナ=ベックマンの地上界での生における最後の言葉でもあった。アリス=アンジェラは真冬の冷気で冷たく、さらには固くなっている地面の上で大の字を描き、寝転がっているクリスティーナ=ベックマンの顔面に、光り輝く右手をそっと置く。そして、その右手の光がおおいに輝きを増していき、クリスティーナ=ベックマンの体内にしがみついていた魂魄を天界へと送り届けるのであった。

 そうした後、紅い竜眼から光が消えてしまったクリスティーナ=ベックマンの顔面を右手でサッと撫でて、彼女の表情を戦闘状態から、安眠状態へと無理やりに移行させるのであった。アリス=アンジェラは膝立ち状態から立ち上がり、こちらに近づいてくる両手を上にあげて、降参ポーズを取っているヨーコ=タマモに視線を向ける。

「わらわの相方であるクリスティーナ=ベックマンは、強かったかえ?」

「はい。とてつもなく強かったデス。アリスがこの戦乙女ヴァルキリー・天使装束で武装していなければ、全身の骨という骨を砕かれていたのは、ボクの方で間違いなかったでショウ」

「こいつは頑なにバカでな。こいつが師の師と仰ぐキョーコ=モトカードを越えると言って、徒手空拳であることを辞めもしなかったのじゃ」

「なるほどなのデス。武闘家なのにセスタス系の装備をしてないのは、そういう理由だったのデスネ」

 アリス=アンジェラの言う通り、こぶしを自分の腕力で破壊してしまわないように、普通の武闘家ならば、こぶしを保護し、同時に補強する手甲ナックル・カバーを装着していることが当たり前であった。だが、先ほどまで死闘を繰り広げたクリスティーナ=ベックマンは文字通り、徒手空拳であったのだ。誇りのために戦う闘士であることは間違いないが、武闘家としては間違いであったような気がしてならないアリス=アンジェラであった。

「クリスティーナ=ベックマンさんの命を奪ってしまう結果になってしまったことはお詫びしマス。仇を取りたいのであれば、全力で抗わせてもらいマス」

「カッカッカ! クリスティーナ=ベックマンは、個人的武勇では、わらわの3倍以上の実力者よ。その彼女が倒された相手に、どう立ち向かえと言うのじゃ? 無駄死にこそ、クリスは望んでおらぬよ」

「そう……デスカ。では、闇討ちでも奇襲でも、いつでもおこなってくだサイ。そうすれば、少しは対等の仇討にまで持っていけると思いますノデ」

 アリス=アンジェラのこの台詞に、苦笑する他無いヨーコ=タマモであった……。
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