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第1章:堕天
第4話:悪魔の囁き
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アリス=アンジェラの誤算はこの場に居るのがアンドレイ=ラプソティとアリス=アンジェラの2人のみだと思い込んでいたことだ。しかし、実際のところ、そうではなかったのだ。アンドレイ=ラプソティ自身が身に着けている天界の住人が生まれながらにして持っている数々の耐性を苦々しく思う人物たちが居たのである。
「そろそろ頃合いだと思うが、ルシフェルはどう思う?」
「サタンよ。アンドレイ=ラプソティ自体はどうにでもなりましょう。だが、あの片翼の天使の存在は少々厄介かと」
「ルシフェル殿は心配性ですコト。アンドレイ=ラプソティが堕天移行状態に達すれば、あの片翼の天使ごと、それに飲み込んでくれマスワ」
アンドレイ=ラプソティとアリス=アンジェラから離れること10キュロミャートル地点の小高い丘の上で彼らの戦いを見守る人物たちはそう言い合う。サタンと呼ばれる男はニンゲンとは思えないほどの高身長であり、両脇に立つ男女に機が来たのではないかと問う。しかし、『ルシフェル』とサタンに呼ばれた男は訝し気な表情でアリス=アンジェラを凝視し、あの者が計画の邪魔になる可能性があると主張した。しかしながら、そのルシフェルの言葉を否定した女性は紫色の舌でべロリとふくよかな唇を舐める。
「ベルゼブブ殿。アンドレイ=ラプソティの堕天は天界と魔界との均衡を打ち破るために欠かせませぬ。不安要素を残したまま、実行に移していいことではないはず」
「ウフフ……。貴方の心配はわかりますが、天界の十三司徒が堕天状態へと移行するのですわよ。周囲100キュロミャートルを巻き込むほどの大規模になるのは間違いないのデスワ」
ルシフェルは万が一の場合を考慮して、サタンを止めようとした。しかし、魔界の宰相と称されるベルゼブブは自分とは意見が違っていた。いくら魔界の悪魔将軍といえども無下に魔界の宰相の言葉を否定しづらくなる。結局のところ、悪魔皇であるサタンが発した鶴の一声がアンドレイ=ラプソティの運命を決定づけることになる。
悪魔皇ことサタンは突然、ルシフェルとベルゼブブの前から消えてしまう。ルシフェルは自分の額に人差し指の先端をあてがい、やれやれと頭を左右に軽く振ってみせる。そして、自分の言いを採用されたベルゼブブは満足気な表情で豊満な胸を両腕で下から抱えこみながら、ルシフェルに向かって胸を張ってみせる。
悪魔皇ことサタンが次に姿を現したのは、片膝をつき、肩で呼吸を繰り返すアンドレイ=ラプソティの傍らであった。アンドレイ=ラプソティは朱と黒色を基調とした服を身に纏う大男が自分の真横に突然現れたことで、面食らうことになるが、その大男と眼が合うや否や、アンドレイ=ラプソティの表情は緊張状態からトロンと呆けた表情へと変わってしまう。
「もっと感情を前面に出すのだ。お前が抱いているモノは何だ? お前の大事な者を殺したあいつが憎くは無いのか?」
「憎い……。とてつもなく憎い」
「ああ、そうだ。お前は憎んでいいのだ。天使とか悪魔とかそういうことはどうでもいいのだ。ただただ、愛する者を殺したかの存在と、その存在を操る創造主:Y.O.N.Nの心臓にその憎しみの刃を突き立てろ……」
「私はレオン=アレクサンダーを愛していた……」
「レオン=アレクサンダーのことはこちらに任せろ。さあ、お前は存分に呪力を発揮するが良い」
サタンの投げかける言葉はまさに『悪魔の囁き』であった。暴力的なサイズのおっぱいは、ほっぺたが落ちてしまうほどに甘い果実だと思わせる。しかし、真に甘いのは心の枷を解き放つ悪魔の誘惑である。天界の住人たちが何故、生まれながらにして『魅了』への耐性を身につけているのかと問われれば、暴力的なサイズのおっぱい以上に魅惑的な『悪魔の囁き』を防ぐためのモノである。
いくら、アリス=アンジェラがアンドレイ=ラプソティの『魅了』に対する耐性を下げに下げたからといって、ここまで簡単にアンドレイ=ラプソティが悪魔皇の言葉を受け入れることは普通なら無かったと言えよう。しかし、度重なるアンドレイ=ラプソティの感情の大きな起伏が悪魔皇の付け入る隙となってしまったのだ。
悪魔皇ことサタンはレオン=アレクサンダーの首級をアンドレイ=ラプソティから受け取ると、その場から消えてしまう。そして、再びルシフェルとベルゼブブの眼の前に現れると、その首級をポイッと興味無さげに下手で放り投げ、ルシフェルに渡してしまう。
「さあ、やることはやった。終末の獣計画の発動だっ! 存分に楽しませてもらおう、アンドレイ=ラプソティよっ!」
「ったく、サタン。貴方は行動が早すぎます。万が一の場合が起きた時は、どうせ自分がどうにかしないとならないんでしょ?」
「損な役回りですコト。いっそ、悪魔の宰相を兼務してはどうですの?」
ベルゼブブはクスクスと笑ってみせるが、ルシフェルは空いた右手でボリボリと頭を掻く他無かった。悪魔将軍という地位に就いているルシフェルであるが、実際のところ、悪魔皇のお目付け役と言ったほうが正しい表現であった。そして、悪魔の宰相であるベルゼブブこそが、悪魔皇のお目付け役であるはずなのに、その職務を放棄してしまっている。それこそ悪魔らしいと言えばそうなのであるが、やはりどちらにしても損な役回りを押し付けられてしまうルシフェルであった。
そんなルシフェルは左腕でレオン=アレクサンダーの首級を抱え込み、ひとつ嘆息した後、ことの成り行きを見守ることになる。悪魔皇がもたらした『混沌』がどう作用するのかをつぶさに観測するためにも、アンドレイ=ラプソティとアリス=アンジェラの第2ラウンドの観客となる。
悪魔皇の囁きは実にアンドレイ=ラプソティを揺さぶった。アンドレイ=ラプソティは神力ではなく、呪力をその身からあふれ出させ始めた。ドックン、ドックンと心臓と喉が鳴ってしまってしかたがない。心だけでなく身体の奥底から冷たくて、同時に熱すぎる感情が溢れ出してくる。
その感情をそのままに体外に吐き出してしまって良いのかと少しだけ逡巡してしまうアンドレイ=ラプソティであったが、天使の羽衣を身に纏い、紅い短剣を打ち払っているアリス=アンジェラを見ていると、そうして良いと思えてしょうがなくなってしまう。
ハアハア……と熱い吐息を大きく開いた口から吐き出し、左胸に右手を当ててドックンドックンと跳ねる心臓を外側から抑える所作をするアンドレイ=ラプソティであったが、眼の色はどんどんギラギラとしたものに変わっていく。アンドレイ=ラプソティは片膝をついた状態で頭を天へと向ける。空いた左手も天へ向けて突き伸ばし、まるで創造主:Y.O.N.Nの心臓を鷲掴みするかのように段々と左手を握りしめていく……。
「そろそろ頃合いだと思うが、ルシフェルはどう思う?」
「サタンよ。アンドレイ=ラプソティ自体はどうにでもなりましょう。だが、あの片翼の天使の存在は少々厄介かと」
「ルシフェル殿は心配性ですコト。アンドレイ=ラプソティが堕天移行状態に達すれば、あの片翼の天使ごと、それに飲み込んでくれマスワ」
アンドレイ=ラプソティとアリス=アンジェラから離れること10キュロミャートル地点の小高い丘の上で彼らの戦いを見守る人物たちはそう言い合う。サタンと呼ばれる男はニンゲンとは思えないほどの高身長であり、両脇に立つ男女に機が来たのではないかと問う。しかし、『ルシフェル』とサタンに呼ばれた男は訝し気な表情でアリス=アンジェラを凝視し、あの者が計画の邪魔になる可能性があると主張した。しかしながら、そのルシフェルの言葉を否定した女性は紫色の舌でべロリとふくよかな唇を舐める。
「ベルゼブブ殿。アンドレイ=ラプソティの堕天は天界と魔界との均衡を打ち破るために欠かせませぬ。不安要素を残したまま、実行に移していいことではないはず」
「ウフフ……。貴方の心配はわかりますが、天界の十三司徒が堕天状態へと移行するのですわよ。周囲100キュロミャートルを巻き込むほどの大規模になるのは間違いないのデスワ」
ルシフェルは万が一の場合を考慮して、サタンを止めようとした。しかし、魔界の宰相と称されるベルゼブブは自分とは意見が違っていた。いくら魔界の悪魔将軍といえども無下に魔界の宰相の言葉を否定しづらくなる。結局のところ、悪魔皇であるサタンが発した鶴の一声がアンドレイ=ラプソティの運命を決定づけることになる。
悪魔皇ことサタンは突然、ルシフェルとベルゼブブの前から消えてしまう。ルシフェルは自分の額に人差し指の先端をあてがい、やれやれと頭を左右に軽く振ってみせる。そして、自分の言いを採用されたベルゼブブは満足気な表情で豊満な胸を両腕で下から抱えこみながら、ルシフェルに向かって胸を張ってみせる。
悪魔皇ことサタンが次に姿を現したのは、片膝をつき、肩で呼吸を繰り返すアンドレイ=ラプソティの傍らであった。アンドレイ=ラプソティは朱と黒色を基調とした服を身に纏う大男が自分の真横に突然現れたことで、面食らうことになるが、その大男と眼が合うや否や、アンドレイ=ラプソティの表情は緊張状態からトロンと呆けた表情へと変わってしまう。
「もっと感情を前面に出すのだ。お前が抱いているモノは何だ? お前の大事な者を殺したあいつが憎くは無いのか?」
「憎い……。とてつもなく憎い」
「ああ、そうだ。お前は憎んでいいのだ。天使とか悪魔とかそういうことはどうでもいいのだ。ただただ、愛する者を殺したかの存在と、その存在を操る創造主:Y.O.N.Nの心臓にその憎しみの刃を突き立てろ……」
「私はレオン=アレクサンダーを愛していた……」
「レオン=アレクサンダーのことはこちらに任せろ。さあ、お前は存分に呪力を発揮するが良い」
サタンの投げかける言葉はまさに『悪魔の囁き』であった。暴力的なサイズのおっぱいは、ほっぺたが落ちてしまうほどに甘い果実だと思わせる。しかし、真に甘いのは心の枷を解き放つ悪魔の誘惑である。天界の住人たちが何故、生まれながらにして『魅了』への耐性を身につけているのかと問われれば、暴力的なサイズのおっぱい以上に魅惑的な『悪魔の囁き』を防ぐためのモノである。
いくら、アリス=アンジェラがアンドレイ=ラプソティの『魅了』に対する耐性を下げに下げたからといって、ここまで簡単にアンドレイ=ラプソティが悪魔皇の言葉を受け入れることは普通なら無かったと言えよう。しかし、度重なるアンドレイ=ラプソティの感情の大きな起伏が悪魔皇の付け入る隙となってしまったのだ。
悪魔皇ことサタンはレオン=アレクサンダーの首級をアンドレイ=ラプソティから受け取ると、その場から消えてしまう。そして、再びルシフェルとベルゼブブの眼の前に現れると、その首級をポイッと興味無さげに下手で放り投げ、ルシフェルに渡してしまう。
「さあ、やることはやった。終末の獣計画の発動だっ! 存分に楽しませてもらおう、アンドレイ=ラプソティよっ!」
「ったく、サタン。貴方は行動が早すぎます。万が一の場合が起きた時は、どうせ自分がどうにかしないとならないんでしょ?」
「損な役回りですコト。いっそ、悪魔の宰相を兼務してはどうですの?」
ベルゼブブはクスクスと笑ってみせるが、ルシフェルは空いた右手でボリボリと頭を掻く他無かった。悪魔将軍という地位に就いているルシフェルであるが、実際のところ、悪魔皇のお目付け役と言ったほうが正しい表現であった。そして、悪魔の宰相であるベルゼブブこそが、悪魔皇のお目付け役であるはずなのに、その職務を放棄してしまっている。それこそ悪魔らしいと言えばそうなのであるが、やはりどちらにしても損な役回りを押し付けられてしまうルシフェルであった。
そんなルシフェルは左腕でレオン=アレクサンダーの首級を抱え込み、ひとつ嘆息した後、ことの成り行きを見守ることになる。悪魔皇がもたらした『混沌』がどう作用するのかをつぶさに観測するためにも、アンドレイ=ラプソティとアリス=アンジェラの第2ラウンドの観客となる。
悪魔皇の囁きは実にアンドレイ=ラプソティを揺さぶった。アンドレイ=ラプソティは神力ではなく、呪力をその身からあふれ出させ始めた。ドックン、ドックンと心臓と喉が鳴ってしまってしかたがない。心だけでなく身体の奥底から冷たくて、同時に熱すぎる感情が溢れ出してくる。
その感情をそのままに体外に吐き出してしまって良いのかと少しだけ逡巡してしまうアンドレイ=ラプソティであったが、天使の羽衣を身に纏い、紅い短剣を打ち払っているアリス=アンジェラを見ていると、そうして良いと思えてしょうがなくなってしまう。
ハアハア……と熱い吐息を大きく開いた口から吐き出し、左胸に右手を当ててドックンドックンと跳ねる心臓を外側から抑える所作をするアンドレイ=ラプソティであったが、眼の色はどんどんギラギラとしたものに変わっていく。アンドレイ=ラプソティは片膝をついた状態で頭を天へと向ける。空いた左手も天へ向けて突き伸ばし、まるで創造主:Y.O.N.Nの心臓を鷲掴みするかのように段々と左手を握りしめていく……。
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