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第1章:堕天
第1話:大王の血肉
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――神聖マケドナルド帝国歴4年 11月3日 インディーズ帝国:国境において――
アドラー=ポイゾンとアルバトロス=ダイラーの両将軍が本陣の異変に気付いたのは、レオン=アレクサンダーが絶命してから5分後のことであった。さざ波のような音が両将軍の耳に届いたと思ったのもつかの間、津波が迫ってくるような音が鼓膜を振動させ、さらには胸にざわつきを覚えさせる。
「誰かが嘆き悲しんでいる!? しかし、これは泣き声というよりかは、ただの騒音ぞっ!」
アドラー=ポイゾンは金属製のクローズ型フルフェイスの兜の内側まで響き渡る音に苦しみもがくことになり、戦闘馬車の上で立っていられなくなる。戦闘馬車を引く4頭の馬はそれぞれに口から紅い泡を吹き、さらにはグリンッ! と瞳孔を上へと向ける。しかし、遥か後方から響き渡ってくる津波のような音量を持つ泣き声に耐えきれなくなったのか、馬たちの眼孔から眼球が飛び出すことになる。さらには馬たちは絶命し、その場で崩れ落ちることになる。
戦闘馬車から放り投げられたアドラー=ポイゾンは全身をしこたま乾いた地面に打ち付けられる。アドラー=ポイゾンはよろめきながらも、津波のように押し寄せる音が発せられる場所へと視線を向ける。
するとだ。黒色で統一されている自分の兵士たちが段々と真っ白な色へと染まっていくではないか。そしてひときわ津波のような音がうねりを見せたかと思った矢先に、自分の後方にいる兵士たち全てが黒色から真っ白に染まり上がる。膝立ち状態となっていたアドラー=ポイゾンは音の波に逆らうためにも両腕を自分の顔の前に持っていく。しかし、ガードしたつもりであったのに、黒い籠手に包まれていたはずの自分の両腕が真っ白に染まり上がる。
茫然となってしまったアドラー=ポイゾンが次に視線を移したのは自分の両足であった。黒い脚絆に包まれていた両足もまた両腕と同じように白く染まり上がっている。その時点でアドラー=ポイゾンは両腕と両足の感覚を失くしていた。しかし、アドラー=ポイゾンの心が絶望に包まれる前に、彼の視界が真っ白に染まる。それとほぼ同時期に彼の脳みその中も白色で染まり上がっており、アドラー=ポイゾンは何も考えることが出来ない塩の柱と化す……。
神聖マケドナルド帝国の双璧と称されたアドラー=ポイゾンが『塩の柱』と化した時、彼と同じく双璧と称されたアルバトロス=ダイラーはどうしていたかと問われれば、答えは明白であろう。
アルバトロス=ダイラーはアドラー=ポイゾンとは違い、背中から襲ってきた衝撃波に気づく間も無く『潮の柱』と化していた。アルバトロス=ダイラーは勇壮にも戦闘馬車の上で軍配代わりの銀製の長剣を前へと突き出している恰好のままで白い塩の塊と変わってしまっていた。
神聖マケドナルド帝国の双璧を『塩の柱』と化した後もアンドレイ=ラプソティは泣き叫び続けた。アンドレイ=ラプソティの嘆き悲しむ声はレオン=アレクサンダーの肉体や血液とも言える100万の軍勢を次々と『塩の柱』へと変換していく。
インディーズ王国の兵士たちは眼前に広がる紅と黒の鎧を着こんだ大量の兵士たちが白く染まり上がっていくことに恐怖を感じると同時に歓喜に打ち震えることになる。戦線は崩壊し、散り散りに逃げることしか出来なくなっていたインディーズ王国の30万の兵士たちは、レオン=アレクサンダーが率いる兵士たちに天罰が降ったと思ったのである。
「ああ、創造主:Y.O.N.N様! 我らが主よっ! ついにレオン=アレクサンダーめに天罰を喰らわしたのですねっ! 我らはあの恐怖の大王がもたらす死から逃れることが出来たのだっ! 勝鬨を上げろっ!」
インディーズ王国の軍隊から見て、前方十数キュロミャートルに渡って展開していた100万もの神聖マケドナルド帝国の軍勢のことごとくが『塩の柱』へと変換された。インディーズ王国の軍隊は100万もの塩の彫像を見せつけれることになるが、自分たちの心には恐怖が微塵も訪れることはなかった。
それもそうだろう。創造主:Y.O.N.N様が勝利者として選んだのは、我らがインディーズ王国所属の勇敢な戦士たちであると、一切の疑いを持たなかったからだ。それゆえに、インディーズ王国の軍隊は散り散りになりながらも、前へと歩を進め、塩の彫像と化した神聖マケドナルド帝国の兵士たちに凶刃を振り下ろし、その白い彫像を次々と破壊していく。
彼らは疑いを一切持たなかった。さざ波のように音が鼓膜へと到達してきても、それは創造主:Y.O.N.N様が自分たちに語り掛けてくれるお褒めの御言葉のように感じたのである。それゆえに、インディーズ王国の兵士たちはその手に持つ凶刃で白い彫像を打ち壊し、両手で白い彫像を押し倒し、あげくの果てには白い彫像を蹴り飛ばした。
勢いづいたインディーズ王国の兵士たちは神聖マケドナルド帝国の100万の兵と共に、この地にやってきているはずのレオン=アレクサンダーの生死を確認しようとした。英雄と称されるような漢に当てはまる歴史的事実がある。
それは『英雄、色を好む』では無い。『最後まで立っていた者が英雄』なのだ。それゆえに英雄はしぶとい。だからこそ、生死を確認せねばならないのだ、インディーズ王国の軍隊は。塩の柱のことごとくを破壊したインディーズ王国の軍隊であったが、その中にはレオン=アレクサンダーと思われるモノは無かった。段々と焦燥していくインディーズ王国の兵士たちは一分一秒でも早く、レオン=アレクサンダーの所在を突き止めねばならなかった。
そして、兵士のひとりが神聖マケドナルド帝国の陣内に深々と足を踏み込む。
「な、なんだ!? 片翼の天使と6枚羽の天使!?」
雑兵とも言っても良いその男が元はそこに神聖マケドナルド帝国の本陣があったと思われる場所へと辿りついたは良いが、そこは他の場所と同様に白い彫像を眼にすることになる。だが、その中においても首級が無い状態で白い大地を紅く染め上げている死体が地面に転がっていた。その雑兵はごくりっ! と唾を喉奥に押下することになる。
その首級無しの死体が着こんでいる黄金色の全身鎧から察するに、神聖マケドナルド帝国の重鎮だと思えたのである。ピクリとも動かない片翼の天使と6枚羽の天使を余所に雑兵はこの立派な鎧を身に着けた人物が何者なのかと確かめようとする。
しかし、その雑兵が地面に紅い池を作っている死体に手をつけたその瞬間であった。
「アリス=アンジェラ……。私は貴女を許せま……せんっ!」
6枚羽の天使は大事そうに首級を両腕で抱えたまま、その場で立ち上がる。そして、背中の6枚羽から光の鱗粉を大量にまき散らす。風圧を感じた雑兵は6枚羽の天使を注視せねばならなくなるが、その場から逃げ出す前にその雑兵は足元から這い上がってきた大量の蝗に侵食されるが如くに黒く染まり上がることになる……。
アドラー=ポイゾンとアルバトロス=ダイラーの両将軍が本陣の異変に気付いたのは、レオン=アレクサンダーが絶命してから5分後のことであった。さざ波のような音が両将軍の耳に届いたと思ったのもつかの間、津波が迫ってくるような音が鼓膜を振動させ、さらには胸にざわつきを覚えさせる。
「誰かが嘆き悲しんでいる!? しかし、これは泣き声というよりかは、ただの騒音ぞっ!」
アドラー=ポイゾンは金属製のクローズ型フルフェイスの兜の内側まで響き渡る音に苦しみもがくことになり、戦闘馬車の上で立っていられなくなる。戦闘馬車を引く4頭の馬はそれぞれに口から紅い泡を吹き、さらにはグリンッ! と瞳孔を上へと向ける。しかし、遥か後方から響き渡ってくる津波のような音量を持つ泣き声に耐えきれなくなったのか、馬たちの眼孔から眼球が飛び出すことになる。さらには馬たちは絶命し、その場で崩れ落ちることになる。
戦闘馬車から放り投げられたアドラー=ポイゾンは全身をしこたま乾いた地面に打ち付けられる。アドラー=ポイゾンはよろめきながらも、津波のように押し寄せる音が発せられる場所へと視線を向ける。
するとだ。黒色で統一されている自分の兵士たちが段々と真っ白な色へと染まっていくではないか。そしてひときわ津波のような音がうねりを見せたかと思った矢先に、自分の後方にいる兵士たち全てが黒色から真っ白に染まり上がる。膝立ち状態となっていたアドラー=ポイゾンは音の波に逆らうためにも両腕を自分の顔の前に持っていく。しかし、ガードしたつもりであったのに、黒い籠手に包まれていたはずの自分の両腕が真っ白に染まり上がる。
茫然となってしまったアドラー=ポイゾンが次に視線を移したのは自分の両足であった。黒い脚絆に包まれていた両足もまた両腕と同じように白く染まり上がっている。その時点でアドラー=ポイゾンは両腕と両足の感覚を失くしていた。しかし、アドラー=ポイゾンの心が絶望に包まれる前に、彼の視界が真っ白に染まる。それとほぼ同時期に彼の脳みその中も白色で染まり上がっており、アドラー=ポイゾンは何も考えることが出来ない塩の柱と化す……。
神聖マケドナルド帝国の双璧と称されたアドラー=ポイゾンが『塩の柱』と化した時、彼と同じく双璧と称されたアルバトロス=ダイラーはどうしていたかと問われれば、答えは明白であろう。
アルバトロス=ダイラーはアドラー=ポイゾンとは違い、背中から襲ってきた衝撃波に気づく間も無く『潮の柱』と化していた。アルバトロス=ダイラーは勇壮にも戦闘馬車の上で軍配代わりの銀製の長剣を前へと突き出している恰好のままで白い塩の塊と変わってしまっていた。
神聖マケドナルド帝国の双璧を『塩の柱』と化した後もアンドレイ=ラプソティは泣き叫び続けた。アンドレイ=ラプソティの嘆き悲しむ声はレオン=アレクサンダーの肉体や血液とも言える100万の軍勢を次々と『塩の柱』へと変換していく。
インディーズ王国の兵士たちは眼前に広がる紅と黒の鎧を着こんだ大量の兵士たちが白く染まり上がっていくことに恐怖を感じると同時に歓喜に打ち震えることになる。戦線は崩壊し、散り散りに逃げることしか出来なくなっていたインディーズ王国の30万の兵士たちは、レオン=アレクサンダーが率いる兵士たちに天罰が降ったと思ったのである。
「ああ、創造主:Y.O.N.N様! 我らが主よっ! ついにレオン=アレクサンダーめに天罰を喰らわしたのですねっ! 我らはあの恐怖の大王がもたらす死から逃れることが出来たのだっ! 勝鬨を上げろっ!」
インディーズ王国の軍隊から見て、前方十数キュロミャートルに渡って展開していた100万もの神聖マケドナルド帝国の軍勢のことごとくが『塩の柱』へと変換された。インディーズ王国の軍隊は100万もの塩の彫像を見せつけれることになるが、自分たちの心には恐怖が微塵も訪れることはなかった。
それもそうだろう。創造主:Y.O.N.N様が勝利者として選んだのは、我らがインディーズ王国所属の勇敢な戦士たちであると、一切の疑いを持たなかったからだ。それゆえに、インディーズ王国の軍隊は散り散りになりながらも、前へと歩を進め、塩の彫像と化した神聖マケドナルド帝国の兵士たちに凶刃を振り下ろし、その白い彫像を次々と破壊していく。
彼らは疑いを一切持たなかった。さざ波のように音が鼓膜へと到達してきても、それは創造主:Y.O.N.N様が自分たちに語り掛けてくれるお褒めの御言葉のように感じたのである。それゆえに、インディーズ王国の兵士たちはその手に持つ凶刃で白い彫像を打ち壊し、両手で白い彫像を押し倒し、あげくの果てには白い彫像を蹴り飛ばした。
勢いづいたインディーズ王国の兵士たちは神聖マケドナルド帝国の100万の兵と共に、この地にやってきているはずのレオン=アレクサンダーの生死を確認しようとした。英雄と称されるような漢に当てはまる歴史的事実がある。
それは『英雄、色を好む』では無い。『最後まで立っていた者が英雄』なのだ。それゆえに英雄はしぶとい。だからこそ、生死を確認せねばならないのだ、インディーズ王国の軍隊は。塩の柱のことごとくを破壊したインディーズ王国の軍隊であったが、その中にはレオン=アレクサンダーと思われるモノは無かった。段々と焦燥していくインディーズ王国の兵士たちは一分一秒でも早く、レオン=アレクサンダーの所在を突き止めねばならなかった。
そして、兵士のひとりが神聖マケドナルド帝国の陣内に深々と足を踏み込む。
「な、なんだ!? 片翼の天使と6枚羽の天使!?」
雑兵とも言っても良いその男が元はそこに神聖マケドナルド帝国の本陣があったと思われる場所へと辿りついたは良いが、そこは他の場所と同様に白い彫像を眼にすることになる。だが、その中においても首級が無い状態で白い大地を紅く染め上げている死体が地面に転がっていた。その雑兵はごくりっ! と唾を喉奥に押下することになる。
その首級無しの死体が着こんでいる黄金色の全身鎧から察するに、神聖マケドナルド帝国の重鎮だと思えたのである。ピクリとも動かない片翼の天使と6枚羽の天使を余所に雑兵はこの立派な鎧を身に着けた人物が何者なのかと確かめようとする。
しかし、その雑兵が地面に紅い池を作っている死体に手をつけたその瞬間であった。
「アリス=アンジェラ……。私は貴女を許せま……せんっ!」
6枚羽の天使は大事そうに首級を両腕で抱えたまま、その場で立ち上がる。そして、背中の6枚羽から光の鱗粉を大量にまき散らす。風圧を感じた雑兵は6枚羽の天使を注視せねばならなくなるが、その場から逃げ出す前にその雑兵は足元から這い上がってきた大量の蝗に侵食されるが如くに黒く染まり上がることになる……。
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