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第4章:真の|神力《ちから》

第10話:創造主からの御言葉

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「まあ、実際に話をするよりも、見てもらったほうが早いのだが。そうだ、それが良い。ベル殿、アリス殿。どうか教皇様を見ても不思議がらないようにな」

 クォール=コンチェルト第1王子はそう言うが、言われたほうはたまったものじゃない。ベル=ラプソティは眉間にシワを寄せることになるし、アリス=ロンドは不思議そうな顔で首級くびを傾げることになる。クォール=コンチェルト第1王子はそんな仕草をする彼女たちを見て、明らかに失言をしてしまったと、ボリボリと自分の後頭部を右手でボリボリと掻くことになる。

 クォール=コンチェルトはベル=ラプソティたちを連れて、一団の真ん中付近まで案内する。するとそこには人だかりが出来ており、クォール=コンチェルトはそのヒトの壁を割っていく。

「ベル殿。この教皇様の様子を見て、どう思われるか?」

「どう思うも何も。創造主:Y.O.N.N様に対しての礼を尽くしているようにしか見えませんわ」

 ベル=ラプソティの眼から見て、教皇様は膝を降り、その膝を地面につけていた。その姿勢から何度も前へと身体を折り曲げ、その度に額を地面に擦り付けていた。しかしながら、それを長時間おこなっているようであり、教皇の額から血が流れてしまっている。

 この教皇のやっている所作は『五身投体』とも呼ばれ、自分より身分の高い者に対する最上礼でもあった。教皇よりも身分が高い存在と言えば、地上界にソレは存在せず、天界に居る星皇、もしくは主であらせられる創造主:Y.O.N.Nのみである。

 そのことから、ベル=ラプソティはまたもや星皇であるアンタレス=アンジェロが何か教皇様に言付けでもおこなったのであろうと考えてしまう。星皇や創造主:Y.O.N.Nの言葉を預かる権限を持っているのは教皇と一部の人物のみである。多少、例外事項はあるが、基本的に星皇と創造主:Y.O.N.Nが直接的に地上界へメッセージを預かる、要は『預言』を与えられる人物はごく少数に限られている。

「それにしても、随分、丁重に礼をおこなっていらっしゃるわ。何か重要なメッセージでもあいつが送ってきたのかしら?」

「ボクたちを通さずに、教皇様にメッセージを送られるってことは、何かしら、地上界に流布しなければならないような重大なメッセージなのでショウカ?」

 ベル=ラプソティとアリス=ロンドは互いの顔を見つめ合いながら、どちらかに星皇様からメッセージが送られてきたのかどうかの確認をする。しかし、どちらとも、星皇様からは何も連絡が来てないことを告げ合う。

 2人が2人とも、首級くびを傾げていると、ようやく教皇は『五身投体』を止めて、立ち上がる。そして、両腕を大きく上に振り上げ、皆に神託を授かり、それを皆に発表すると宣言する。

「教皇:ヨン=ジューロが宣言するぞ。今日この日から三日も経たずに悪魔王のひとりが、地上界にやってくるそうだ。しかし、我らには聖女おとめであるベル=ラプソティ殿。そして、その守護者であるアリス=ロンド殿がおるっ! 我らはこの2人を護ることに全力をあげるのだっ!」

 一団は教皇様の言葉を受けて、明らかに動揺を見せることになる。ざわめく一団は、それはいったいぜんたい、どういうことなのだと、教皇様に尋ねることになる。だが、教皇は首級くびを左右に振り、さらにこう告げる。

「我らはベル=ラプソティ殿に護られるのではないのじゃ。我らこそがベル=ラプソティ殿たちを護らねばならぬ。逆なのだよ。我らの命を盾にして、ベル=ラプソティ殿たちをお救いしなければならぬのだっ!」

 教皇様の補足を受けて、聖地の元住人たちのざわめきはさらに大きくなってしまう。自分たちがハイヨル混沌軍団に襲われている時、ベル=ラプソティ様は自分たちを護ってくれる働きを見せてくれた。しかし、教皇様の言いを信じるならば、自分たちは命を投げうって、ベル=ラプソティ様を護らなければならなくなる。

「そん……なの無理だっ! 何故、この一団で一番に神力ちからを持っている方を護れるというのだっ!」

「ああっ! 創造主:Y.O.N.N様っ! 嘘だと言ってくださいっ! 我らこそ、護られるべき、か弱き存在なのですっ!」

 聖地の元住人たちのざわめきは悲鳴交りとなり、段々と収拾がつかない混乱の渦へと堕ちていくことになる。それもそうだろう。この一団を今まで護ってくれていたのは、グリーンフォレスト国の一軍と、ベル=ラプソティ様とアリス=ロンド様なのだ。教皇様の御言葉をそのまま信じれば、グリーンフォレスト国の1軍が真っ先に護らなければならない対象は、ベル=ラプソティ様たちに変わってしまう。

 着の身着のままで聖地を発ち、ここまでなんとか生き延びてきた。それは両者のおかげであることは間違いない。そして、その御恩を自分たちの命をもってして、お返しする番がやってきたことも間違いない。

 だが、教皇様の言いをそのまま鵜呑みに出来るほど、心に余裕など、あの地獄と化した聖地の生き残りのひとたちには残っていなかった。皆、泣き崩れたり、怒号を発したりなどして、混乱は容易に収まるようには見えなかった。

 そんな皆を置いて、教皇は近くに居るベル=ラプソティとアリス=ロンドを視認すると、彼女らに近づいていき、彼女たちの左手を取り、それぞれの手の甲に軽く接吻せっぷんをする。

「ベル=ラプソティ殿、アリス=ロンド殿。創造主:Y.O.N.N様からお聞きしましたぞ。そなたたちこそが、ハイヨル混沌とその軍団を地上界から駆逐してくれると」

「そ、そう言われましても。ねえ、アリス。あいつじゃなくて、創造主:Y.O.N.N様から預言されたみたいだけど……」

「おかしいのデス。創造主:Y.O.N.N様はそんな言付けを出来る状態ではないはずデス」

 ベル=ラプソティたちは互いの認識を確認しあうことになる。それもそうだろう。創造主:Y.O.N.N様は今は天界の岩戸の奥へと隠れられているのだ。ハイヨル混沌との決着をつけるためにも、その身に宿る神力ちからを高めている真っ最中である。その天界の岩戸内と外界は完全にシャットアウトされており、星皇でも創造主:Y.O.N.Nと会話をおこなうことは出来ないのだ。

「いいや。あの御声は確かに創造主:Y.O.N.N様であった。マロは何度も創造主:Y.O.N.N様の御声を聞かさせていただいておる。そんなマロが間違いを起こすはずが無いっ!」

 教皇はそうはっきりと断言する。しかし、断言された側のベル=ラプソティたちは彼とは対照的に渋い顔になってしまう。一団に混乱をもたらした教皇はもう一度、ベル=ラプソティたちの左手を取り、その左手の甲に接吻せっぷんをするのであった。

「何も心配する必要は無いのだ。皆も直に、ベル殿が聖女おとめであることを知ることになる。悪魔王のひとりがやってくる三日後に、皆は知ることになるのだっ!」

 教皇の両目は血走っており、さらには歓喜の涙を流す。そして、ベル=ラプソティたちの左手をしっかり握ったまま、その場で膝から崩れ落ちることになる……。
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