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第4章:真の|神力《ちから》

第4話:連続の驚き

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「コッシローさん、右斜め上に45度ォ! 次は真下に急降下ですゥ!」

 天界の騎乗獣であるコッシロー=ネヅの動きはカナリア=ソナタのサポートで各段に良くなる。そして、相乗効果として、ベル=ラプソティもスルトに向かっての攻撃がしやすくなる。事前にコッシロー=ネヅの動きがわかるため、ベル=ラプソティの攻撃機会もグッと増える。

「グヌゥ……。攻防一体とはまさにこのコト。どうやら、本気を出さねばならぬようダッ!」
「何が本気よっ! 当の昔に本気を出しているんでしょ!?」

 スルトはピーチクパーチク、自分を挑発しつづけるクソ女天使にいら立ってしょうがない。かの者の攻撃は一撃もまともに自分の肌すらも傷つけていないというのに、言っていることだけは威勢が良すぎる。熱く焼けた3本目の腕で腹を内側から焼いてやろうか!? という暴言を吐きたくなってしまうスルトであった。

 しかし、スルトは地獄のとある炎で囲まれた王国の王様である。小娘ひとりに憤慨するほど、安いプライドを持っているわけではない。スルトはクソ女天使の挑発をフンッ! と鼻息で吹き飛ばす。

「炎斬10段を受けてミヨッ!」

 スルトは左手に持っていた炎の戦斧バトル・アクスを投げ捨て、右手に持っていた大剣クレイモアを両手で握り直す。それを上下左右斜めへと振り回し、天界の騎乗獣ごと、クソ女天使を焼き払ってしまおうとする。しかしながら、スルトはその10連撃を放ち終わった後、眼を丸くすることになる。

「見切っただけでなく、われに反撃を喰らわしてくるダトォ!?」

 ベル=ラプソティは10連撃が終わるのをひたすらじっと耐えてみせた。炎の大剣クレイモアが振り回されることで、副産物的に地から天へと駆け登る赤い竜巻がいくつも発生することになる。それにより、ベル=ラプソティたちは身体のあちこちに火傷を負うことになるが、それでも慌てることなく、じっくりと反撃の機会を探っていたのだ。

 スルトが繰り出した10連撃が終わった刹那、ベル=ラプソティは右腕を大きく振りかぶり、渾身の神力ちからを込めて、大剣クレイモアほどの大きさがある穂先付きの光槍をスルトの眉間に向かって、ぶん投げた。その一撃は今までベル=ラプソティが放ってきた攻撃の中でも特に重い一撃であり、まともにそれを喰らってしまったスルトは左手で眉間を抑えつつ、片膝をつく格好となる。

「はっ! やっぱりずっと本気を出してたんじゃないのっ! 先ほどまでの攻撃と、今の10連撃のどこに違いがあったっていうのかしら!?」

 もちろん、これはベル=ラプソティの強がりである。戦いの極意とはいかに相手に自分の弱さを見せないことだ。ベル=ラプソティは教科書通りにそれを実行してみせた。そして、ついに炎の巨人の生身へ通じる一撃を与える結果を得られたのである。

 スルトの眉間はバックリと開き、そこから火山口から溢れる溶岩のように赤黒い血を大量に流すことになる。そして、その熱い血はスルトの眼に流れ込み、ますますスルトの紅い眼は赤色を強めることになる。

「貴様ッ! われの身に傷をつけたことを後悔するが良イッ! 地獄の炎で腹の内側から焼いてヤルッ!」

「お生憎あいにくさまっ! わたくしの名は『貴様』じゃありませんわよっ! 『ベル=ラプソティ』。この名を覚えて、地獄にお帰りなさいっ!」

 売り言葉に買い言葉とはまさにこのことであった。スルトは安い挑発だと知りながらも、憤怒で心を溶岩のような色へと変貌させていく。眉間から溢れる血を左手で止めることを止めて、その左手で炎の戦斧バトル・アクスを握り込む。

「ファイアー……トマフォークゥゥゥ……ブゥゥメラァァァン!!」

 スルトは左手に持った戦斧バトル・アクスを身体の横側から前方へと投げつける。コッシローは回転しながら迫ってくる炎に包まれた戦斧バトル・アクスを横方向に緊急回避する。しかしながら、紅い竜巻を伴う炎の戦斧バトル・アクスは飛んで行ったきりで済まず、弧を描きながら、コッシロー=ネヅに纏わりつこうとする。

「これは厄介なのでッチュウ!」

「軌道が読みづらすぎますゥ!」

「ガーハハッ! まだまだ行くゾッ! ファイアー……トマフォークゥゥゥ……ブゥゥメラァァァン!!」

 スルトはあろうことか、自分の背中側にある紅い炎柱へ左手を突っ込み、その中から新しい炎の戦斧バトル・アクスを引き抜き出す。そして、2投目となる戦斧バトル・アクスを慌てふためいている天界の騎乗獣に向かって、ぶん投げる。

 ただでさえ、1投目に投げられた戦斧バトル・アクスに難儀している最中だというのに、ここでおかわりを持ってこられては、コッシロー=ネヅとカナリア=ソナタがタッグを組んだ状態でもお手上げ状態となる。2本の戦斧バトル・アクスが生み出す紅い2本の竜巻に飲み込まれてしまうベル=ラプソティたちであった……。

「クックック……。少しばかり熱くなってしまったワイ。あの程度の低位の天使に対して、つい、ちょっとばっかり本気を出してしまっタワ」

 スルトはピーチクパーチクうるさい天使たちが紅い竜巻に飲み込まれ、その中へと消えていくのを眼を細くしながら見届ける。そんな彼が次に視線を移した先にあるのが、カプセルの中で眠っている天使であった。

(不思議なものヨ。われと下位の天使の戦いに巻き込まれて、とっくの昔に破砕しているはずが、未だにその形を保ってオルゾ?)

 スルトは右手に持つ大きすぎる炎の大剣クレイモア下手したてに持ち直し、その切っ先でカプセルを中身ごと、砕いてしまおうとする。いくらなんでも薄気味悪すぎたのだ、そのカプセルだけでなく、そのカプセル内で眠る天使が。こいつを目覚めさせてはいけないと、心の奥底から危険を示すサインが発せられ、身体をジンジンと刺激する。

「グヌゥ……。何故、われはこんなものに畏怖を感じるノダ? こいつの命はわれが握っているというのにダ!」

 スルトは自分の心の奥底から生まれる不安感をごまかすために、怒気を孕んだ言葉を吐く。そして、下手したてに持った炎の大剣クレイモアの切っ先をカプセルへと向けて、それを真っ直ぐに突き落とす。

「なん……ダトォ!?」

 スルトは2重の意味で驚きを隠せない表情となる。まずひとつめは、いくらぞんざいに炎の大剣クレイモアをカプセルに突き立てたとしても、そのカプセルの表面にすら傷を入れれなかったこと。

ふたつめの驚きは、2本の戦斧バトル・アクスによって生み出された絡み合う紅い竜巻が吹き飛んだことである。スルトが空いている左手で顔の左側を思わずかばうことになる。だが、紅い竜巻を破裂させた張本人が狙ったのは、スルトの顔面の左側ではなく、右側であった……。
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