上 下
34 / 72
第4章:真の|神力《ちから》

第3話:奮闘するコッシロー

しおりを挟む
 スルトが放った重すぎる一撃はクレーター内に新たな小さいクレーターを生み出すことになる。巻き上げれた土砂に乗って、ベル=ラプソティたちは大空を舞うことになる。コッシロー=ネヅは急いでベル=ラプソティとカナリア=ソナタを空中で拾い、その広い背中に乗せる。

「とんでもない一撃ねっ! 意識を天界に飛ばされるかと思ったくらいよっ!」

「あぅあぅ。軽く失禁してしまったのですゥ」

「ふたりとも怪我は無いでッチュウか!? 痛むところがあるなら、飛ぶ速度を調整するでッチュウよ!?」

「大丈夫ですゥ。ベル様と魔術障壁マジック・バリアのおかげで直撃は避けれましたのですゥ」

 頭上から大きすぎる炎の大剣クレイモアが振り下ろされてきた時、カナリア=ソナタは恐怖で身体が動かなくなってしまっていた。しかし、彼女のすぐ側に居たベル=ラプソティがカナリア=ソナタを両腕で抱きしめ、さらにその場で跳躍してみせた。それにより、運動音痴のカナリア=ソナタでも、スルトが振るってきた一撃をまともに喰らわずに済んだのである。

「アリスは……無事みたいね。ってか、あのカプセル、固すぎない!? 見た目では土砂を被った程度に見えるんだけど!?」

 アリス=ロンドが中で眠っているベッド式カプセル型エネルギー補給器の下半分が土砂で埋もれていたが、その表面には傷ひとつついていなさそうに見えるベル=ラプソティであった。ガラス張りであるために、あっさりと割れ砕けるという危惧を抱いていたが、それよりもカナリア=ソナタのほうが危険であったために、ベル=ラプソティはカナリア=ソナタの身の安全を最優先にした。

「さすがは大気圏を突き抜けて、直径30キュロミャートルのクレーターを作っただけはある星皇様からのプレゼントなのですゥ。はっきり言って、ドン引きなんですゥ!」

「チュッチュッチュ。もしかしたら、スルトの本気の一撃でもへっちゃらかもしれないでッチュウね、アレ……」

 大空へと退避を終えたベル=ラプソティたちが、その大空の上からアリス=ロンドの様子を伺っていた。遠目から見て、アリス=ロンドが眼を覚ました気配も無く、アリス=ロンドに何の危害も及んでいなさそうであった。それゆえにベル=ラプソティたちは、ひょっとして、あのカプセルを盾に使ったほうが良いのではないかという疑念すら心に浮かんでくる。

そして、それに似た感情をスルトも抱いていた。自分に攻撃を仕掛けてきた天使と天界の騎乗獣に向かって、炎の大剣クレイモアを叩きつけたのだが、その余波でガラス張りのカプセルもついでに割れ砕けるだろうとタカを括っていたのである。だが、スルトの眼から見ても、カプセルとその中にいる天使も無傷であった。それゆえにスルトは、今、蝿のように上空へと逃げた天使どもよりも、地上にあるカプセルの中で眠る天使の方を先にどうにかしなければならぬのではないのか? と思ってしまう。

 しかし、そう思ってはいても、それを実行させてもらうほど、大空へと逃げた天使たちは甘くは無かった。天界の騎乗獣が口から冷たいブレスを吐き、それと同時にその背に乗る天使が光槍を投げつけてくる。

「フンッ! カプセルも気になるが、こちらを先に相手にすべきダッ! そんなそよ風で、われが纏う炎を吹き飛ばせると思うナヨッ!」

 炎の巨人であるスルトは、自分の身に纏う炎をブレスで吹き飛ばされることを嫌う。そよ風と一笑してみたは良いが、そのブレスには神力ちからが込められており、炎を吹き飛ばし、自分の生の肌を空気へ露出させてくる。スルトの肌は赤黒い溶岩そのもののようであり、その肉体から直接、炎を噴き出していた。

 スルトは炎の衣を纏っており、言うならば、天界の騎乗獣が吐くブレスでその衣を剥ぎ取られそうになることで、軽い羞恥心を覚えたのである。肉体的なダメージこそ、受けないが、心に軽くダメージを受けざるをえないスルトである。そうしてきた相手を叩き落とすために、スルトは左腕を大きく振りかぶり、炎の戦斧バトル・アクスを振り回す。

 すんでのところでコッシロー=ネヅはスルトの攻撃を躱す。しかし、戦斧バトル・アクスが纏う炎が遅れてやってくる。コッシロー=ネヅは厄介だと思わざるをえない。こういう大振りな攻撃に対しては、最小の動きで躱し、カウンター攻撃を仕掛けるのが戦いの基本であるが、遅れてやってくる熱風と焔の塊のせいで、コッシロー=ネヅは思いの他、回避のための移動量を大きく取らざるをえなくなる。

 コッシロー=ネヅの動きが大きくなるということは、その背中に乗っているベル=ラプソティたちにも影響を与えていた。カナリア=ソナタはコッシロー=ネヅの背中から振り落とされないようにと、ベル=ラプソティの背中側から、彼女の身体に両腕でしがみつくことになる。そして、そうされたベル=ラプソティは思いっ切り神力ちからを込めて、スルトに向けて光槍を投げつけることが出来なくなってしまう。

「もうっ! こちらの被害を気にしすぎているから、こっちもまともな攻撃が出来ないじゃないのっ!」

「そんなことを言われてもでッチュウ! 肉を斬らせて骨を断つと言いたいのはわかるでッチュウけど、肉を斬らせる前に、骨まで溶かされるかもなのでッチュウ!!」

 スルトが両手にひとつづつ持っている炎の大剣クレイモアと炎の戦斧バトル・アクスは、コッシロー=ネヅのからし色の眼から見て、まるで溶岩の塊をそのまま叩きつけてきているかのように見えたのである。そんな危険すぎるシロモノをギリギリで躱すだけで済むならまだしも、その後で遅れてやってくる熱風と炎だけでも、ベル=ラプソティたちが大火傷を負ってしまうイメージがつきまとう。

 武器そのものの実体と炎の残影がコッシロー=ネヅの判断を惑わせる。コッシロー=ネヅは大空を4本足で蹴飛ばしながら、背中に乗せているベル=ラプソティに対しても気遣いをせねばならぬ状況へと追いやられ、肉体的にも精神的にも疲労を蓄積させていく。

「あたしがコッシローさんをサポートするのですゥ! 怖がってばかりでは、ベル様の軍師失格なのですゥ!」

「その言葉を待っていたでッチュウ! カナリアの眼力でスルトの攻撃パターンを読んでくれでッチュウ!」

 カナリア=ソナタは運動音痴ではあるが、目力めぢからと分析力はめっぽう強い。鋭い視線を赤縁あかぶち眼鏡のレンズ越しに飛ばし、スルトの攻撃パターンを脳内で計算する。そして、はじき出した計算結果をコッシロー=ネヅに伝えることで、コッシロー=ネヅの回避行動は眼に見えて、良いモノとなる。

 スルトは天界の騎乗獣の動きが格段に良くなっていくことに愉悦を覚える。これほどまでに動けるなら、もっとこちらも攻撃速度を上げていっても良いだろうと判断する。そして、どこまでこの天界の騎乗獣が動けるのかを確かめようと、両手に持つふたつの武器を次々と交差させていく……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【R18】異世界なら彼女の母親とラブラブでもいいよね!

SoftCareer
ファンタジー
幼なじみの彼女の母親と二人っきりで、期せずして異世界に飛ばされてしまった主人公が、 帰還の方法を模索しながら、その母親や異世界の人達との絆を深めていくというストーリーです。 性的描写のガイドラインに抵触してカクヨムから、R-18のミッドナイトノベルズに引っ越して、 お陰様で好評をいただきましたので、こちらにもお世話になれればとやって参りました。 (こちらとミッドナイトノベルズでの同時掲載です)

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...