上 下
24 / 72
第3章:星皇の重い愛

第3話:コカトリス

しおりを挟む
 だが、コカトリスは足を止めただけであった。頭には鶏のようなトサカがあるくせに、まるで牛のようにブモーブモー! と口から怒りの雄叫びと緑色の毒をまき散らし始める。その毒の量が多すぎて、コカトリスの身体全体を覆い尽くすほどであった。

「いっそ、自分の毒で石化してくれないかしら!?」

「自分のおしっこを飲んだら死ぬくらいに、可能性は低いのデス。どちらかと言うと、より元気になるんじゃないんデスカ?」

「そんな冷静なツッコミは要らないわよっ! てか、あんた、飲んでるわけ!?」

「もちろんデス。星皇様がいつでも美味しい美味しいと言ってくれるように、ボク自身で味見をおこなってイマス。星皇様に失礼なモノを出せないデショウ?」

 疑問形で答えられるこっちのほうが返答に困るわよっ! とツッコミを入れざるをえないベル=ラプソティであった。しかしながら、アリス=ロンドのボケかツッコミか判断しづらい発言に構っている時間的猶予はベル=ラプソティに無かった。戦乙女ヴァルキリー・天使装束はアリス=ロンドが着こんでいる超一級天使装束よりかは性能が劣るが、それでも瞬時に石化してしまうわないほどには、防御面はたいしたモノを持っている。

 しかし、瞬時でないだけであり、確実にコカトリスの吐く緑色の毒で、自分の動きを鈍らされることは自明の理だ。暴れ回る大型魔物モンスターを眼の前にして、動きを鈍らされることは、すなわち、命に係わる事態に容易に陥ることと同義であった。それゆえに、ベル=ラプソティは躊躇した。出足が鈍り、コカトリスへ接近することが出来ない。

 そんなベル=ラプソティを差し置いて、コカトリスに肉薄したのが他でもないアリス=ロンドであった。緑色の毒で身体を纏っているコカトリス相手に一切の躊躇なく、アリス=ロンドは肉薄し、ドラゴンすらも真っ二つに出来そうな巨大な光刃を上から下へと振り下ろす。

 しかし、アリス=ロンドが両手で持つ巨大すぎる光刃が奏でた音は肉を切り裂く音では無く、巨大な岩をハンマーで叩いた時の音であった。しかも、アリス=ロンドが両手に持っている巨大すぎる光刃のあちこちが瞬く間に石化し、さらには縦横無尽にヒビが走ることになる。

 だが、光刃がそのような状態になっても、アリス=ロンドは斜め上から光刃を振り下ろす。しかし、いくら光刃でブッ叩こうが、岩を殴る音しか聞こえてこず、ついにはアリス=ロンドが握る光刃は大小さまざまな石片となり、粉々に砕け散る。

「アリス、下がりなさいよっ! あんたが下がらないと、わたくしが攻撃できなくてよっ!?」

 ベル=ラプソティは次の光槍を創り出し、コカトリスの腹を食い破らんと投げの体勢に入っていた。しかし、アリス=ロンドがコカトリスと肉薄しすぎているために、右手に持つ光槍を投げ放つことが出来ない。

「ボクの存在意義はベル様を護ることデス。そして、ボクはまだ戦えマス」

 アリス=ロンドの身を包んでいる超一級天使装束は蒼と白を基調とした色をしていたが、コカトリスの吐く緑の毒を受けることによって、見る見る内に灰色へと変貌していった。ベル=ラプソティはいくらなんでも超一級天使装束がそんな勢いで彩りを失くしていくのは不自然だと思わざるをえなかった。

「あんたっ! まさかっ! 天使装束の神力ちからが枯渇したんでしょっ!」

「それは秘密デス。ストライクダガー・エンジェルモード発動デス!」

 アリス=ロンドはそう叫ぶや否や、スカート部分に手を当てて、そこから銀筒を取り出す。逆手の状態で光刃が創り出され、アリス=ロンドは手の中でその光の短剣ダガーをクルリと回す。上手うわてに持ち変えた光の短剣ダガーをアリス=ロンドは硬質化しているコカトリスの表皮に突き刺す。ギャリギャリギャリ! という岩を金属鋸で削るような音が辺りへと響き渡る。

「取りマシタ。コカトリスは鶏だと思ってはいけナイ。牛だと思えデス」

 アリス=ロンドはコカトリスの解体を2本の光の短剣ダガーおこない始める。解体包丁のように大きくなった光の短剣ダガーを縦横無尽に振り回し、アリス=ロンドはコカトリスの腹から内蔵と血と肉を削ぎ落していく。アリス=ロンドが着こむ灰色の超一級天使装束はコカトリスが腹から噴き出す血で汚れに汚れる。

 しかし、それでもアリス=ロンドのコカトリス解体作業の手は止まることはなかった。アリス=ロンドは右手をさらにコカトリスの体内へと押し込み、太い血管の束をぶつ切りにする。そして、左手を突っ込み、あるモノをコカトリスの体内から引き抜くことに成功する。

 それを引き抜かれたコカトリスは口から緑色の毒を吐くのではなく、魔物モンスターを象徴する紫色の血を吐き出すことになる。アリス=ロンドがコカトリスの体内から抜き出したのは、彼奴の心臓であった。いくら、ハラワタを引き裂かれようが、コカトリスは暴れることを疎かにしなかった。しかし、生命活動の源である心臓を失った今、コカトリスは横倒れになるしか他無かったのである。

「あんた、本当に馬鹿ねっ! わたくしがトドメを取ると言っているんだから、下がりなさいよっ!」

 コカトリスが横倒れになり絶命している眼の前で、地面に両膝をついた状態で動かなくなってしまっていたアリス=ロンドに走って近づくベル=ラプソティであった。魔物モンスターの群れはコカトリスの死体を迂回するように流れて行き、一団に自らぶつかっていこうとするモノたちは見受けられなかった。それを為したアリス=ロンドを褒めるべきなのか、無茶をするなと言っているのに、それを無視したことをさらに叱るべきなのかと、戸惑ってしまうベル=ラプソティである。

 それゆえに、ベル=ラプソティはアリス=ロンドを背中側から抱きしめるべきなのか、アリス=ロンドが被っているオープン型フルフェイス・ヘルメットの頂点部分へと拳を振り下ろすべきなのか、どちらを選ぶべきなのかと数秒ほど考え込むことになる。

 だが、アリス=ロンドはそんなベル=ラプソティの心情を察することもせずに、地面に両膝をついた状態で顔を大空へと向けるのであった。そして、こちらの顔を覗き込んでいるベル=ラプソティに向かって、こう一言、告げる。

「ベル様。ボクの計算では、ここまで被害が及ぶことは無いと思いますが、一応、背をかがめておいたほうが良さそうデス」

「え? 何を言っているの? 大空に何か見えるの?」

 ベル=ラプソティはアリス=ロンドが自分の顔の向こう側へと視線を向けているために、そちらに何かが見えるのだろうかと、アリス=ロンドの見つめる先へと、自分も顔を向ける。そして、大空から降ってくるモノが視界に入り、ベル=ラプソティは開いた口が塞がらなくなってしまう。

 アリス=ロンドとベル=ラプソティが見たモノとは、星皇がアリス=ロンドのためを思って、地上へと贈ってくれたプレゼントであった。それは煌々とした炎に包まれており、ベル=ラプソティたちがそれを視認してから、数分も経たずにベル=ラプソティたちの居る地点からかなり離れた場所へ堕ちる。もちろん、それが地表へと激突した際には、爆音と爆風、そして熱風がベル=ラプソティたちの下にまで届いたことは言わずもがなであった……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幼馴染みの2人は魔王と勇者〜2人に挟まれて寝た俺は2人の守護者となる〜

海月 結城
ファンタジー
ストーカーが幼馴染みをナイフで殺そうとした所を庇って死んだ俺は、気が付くと異世界に転生していた。だが、目の前に見えるのは生い茂った木々、そして、赤ん坊の鳴き声が3つ。 そんな俺たちが捨てられていたのが孤児院だった。子供は俺たち3人だけ。そんな俺たちが5歳になった時、2人の片目の中に変な紋章が浮かび上がった。1人は悪の化身魔王。もう1人はそれを打ち倒す勇者だった。だけど、2人はそんなことに興味ない。 しかし、世界は2人のことを放って置かない。勇者と魔王が復活した。まだ生まれたばかりと言う事でそれぞれの組織の思惑で2人を手駒にしようと2人に襲いかかる。 けれども俺は知っている。2人の力は強力だ。一度2人が喧嘩した事があったのだが、約半径3kmのクレーターが幾つも出来た事を。俺は、2人が戦わない様に2人を守護するのだ。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

【R18】異世界なら彼女の母親とラブラブでもいいよね!

SoftCareer
ファンタジー
幼なじみの彼女の母親と二人っきりで、期せずして異世界に飛ばされてしまった主人公が、 帰還の方法を模索しながら、その母親や異世界の人達との絆を深めていくというストーリーです。 性的描写のガイドラインに抵触してカクヨムから、R-18のミッドナイトノベルズに引っ越して、 お陰様で好評をいただきましたので、こちらにもお世話になれればとやって参りました。 (こちらとミッドナイトノベルズでの同時掲載です)

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...