上 下
16 / 72
第2章:命の価値

第5話:眼から光線

しおりを挟む
 ニンゲンの人格が3歳を過ぎた頃に豹変することは稀である。これは『性格』の話ではないと断りを入れておこう、どちらも3歳になる頃には、固まるモノではある。しかしながら、性格はそのヒトの努力でいくばくかは改善できるモノだ。

 しかし『人格』となると、努力でどうにか出来るモノではない。そして、人格が変わるとなれば、精神に多大な負荷がかかる経験をした時に起きる。それこそ、近親者の死や、自分自身が死にかけるといったような経験が必要になる。そして、その経験と他の要因が絡み合うことで『人格が歪む』ということが起きる。

 カナリア=ソナタはその話を前提として、クォール=コンチェルト第1王子は先ほどのハイヨル混沌軍団の襲撃により、とんでもない精神への負荷を喰らってしまい、さらにアリス=ロンドという可愛い男の娘のおちんこさんを見てしまったことが決定打となり、男の娘への愛情が一気に膨らんでしまったと予想づけたのである。

「なるほどね。アリスが罪作りな男の娘だったってことで、まとめて良いのかしら?」

「まあ、当たらずも遠からずですゥ。アリス様レベルの見目麗しい方におちんこさんが付いてたら、誰でもそれ相応にショックを受けるのですゥ」

「ボクは抗議させてもらいマス。ボクのおちんこさんもお尻の穴も、いえ、それこそ、身体の穴という穴は、星皇様とベル様のためのものデス」

 アリス=ロンドの抗議を受けて、まあまあ落ち着いて? と宥めるベル=ラプソティとカナリア=ソナタであった。しかしながら、未だに聖地の西側にある森林で大火災が起き、その大火災のせいでキノコ雲が空高く積み上がっている現状、アリス=ロンドは皆にとって危険な存在では無いと説得するのは難しい。

 そこで、人格と性的指向が歪んでしまったがゆえに、アリス=ロンドにぞっこんとなってしまったクォール=コンチェルト第1王子が味方であることは、1周回って喜ばしい事態でもあった。

「俺はアリス殿のためなら、何でも出来るっ! これだけは断言させてもらうぞっ!」

 頭から木製の樽へとぶっこまれている状況だというのに、クォール=コンチェルト第1王子は、アリス=ロンドに向かって、求愛の台詞を吐き続けていた。

「って、言ってることだし、ここはクォール様を利用……じゃなくて、クォール様にアリス=ロンドは危険人物じゃないって説得してもらいましょ?」

「それはあたしもそう考えていますけどォ。アリス様の気持ちはどうなんですゥ?」

 一応、本人の意志を確認するところまではベル=ラプソティだけでなく、カナリア=ソナタもマシな部類のニンゲンであった。四の五の言わずに従わせるよりかは、相手の意見を聞くだけ聞いて、尊重するといった体を取るだけでも、その人物の印象はガラリと変わるものである。

 アリス=ロンドはう~~~んと唸った後、がっくりと肩を落とし、折衷案を示す。

「ボクの肌に直接触れてきたら、眼から光線ビームで問答無用で焼却シマス。ベル様の立場を考えた上で、このラインがボクからの条件デス」

「うん、わかった。コッシローに頼んでおくわ。アリスに直接、触れようとしたら、噛み砕いて、その辺に埋めて良いって伝えておくわね」

「コッシローさんは、あたしたちと違って、戦闘中以外は誰にでも優しい方なので、甘噛みで済ませると思いますけどねェ」

 3人娘の意見がまとまり、木製の樽に押し込めておいたクォール=コンチェルト第1王子を解放する。彼はアリス=ロンドにお近づきしたい雰囲気を醸しだしていたが、カナリア=ソナタがふたりの間に割って入り、物理的に距離を開けさせる。こういう仕事はカナリア=ソナタの出番であり、ベル=ラプソティに悪い虫がつかないようにと、いつでも注意を払ってきた経緯がある。

 それゆえに相手の気分を害さずに、丁重に下がってもらう心得を会得しているカナリア=ソナタである。口八丁手八丁でクォール=コンチェルト第1王子を操り、お釈迦様の手の上で踊る猿のようにクォール=コンチェルト第1王子は、アリス=ロンドの素晴らしさをグリーンフォレスト国から率いてきた1軍や、聖地の生き残りの者たちに熱心に説き始める。

「馬鹿となんとかは使いようってまさにこのことね。アリスが魔女裁判にかけられることはなさそうでホッとするわ」

「アリスは魔女ではありまセン。でも、星皇様には魔女のように私を狂わせてくれました……と言われることがありマス」

 ベル=ラプソティはその惚気に近い言葉にイラッ! とくるが、こめかみに指を当てて、怒りで沸騰した血が頭に昇らないように抑える。アリス=ロンドはともかく天然気質であり、いちいちまともにアリス=ロンドの言葉を拾っていては、疲労と相まって、アリス=ロンドをぶっ飛ばしたくなってしまう。命の恩人でもあるアリス=ロンドに対して、怒りをぶつけないようにしようとするベル=ラプソティであった。

 森林火災は未だに続いていたが、慌ただしかった周りも段々と落ち着きを取り戻し始めたのをきっかけとして、ベル=ラプソティは次の手を打つためにも、カナリア=ソナタ、コッシロー=ネヅ、アリス=ロンドを呼び集める。

「わたくしは軍権を取り上げられましたわ。それゆえ、わたくしたちは金魚ゴールデン・フィッシュの糞の如くに、黙って、凱旋王様の導きに従うしかありません」

「ということは、ボクが凱旋王様を闇討ちして、ベル様が軍権を取り戻すお手伝いをすれば良いのデスネ? 眼から光線ビームのエネルギーだけはしっかり残しておきマス」

「あのォ……。アリス様って、いちいち物騒な物言いをしますけどォ。もっと、穏便な方法をあたしが考えておくのですゥ」

「でも、アリス様の言うこともあながち間違っていない気がするのでッチュウ。闇討ちうんぬんは置いといて、さっきの戦いで凱旋王様は大怪我を負ってしまったのでッチュウ」

 コッシロー=ネヅの発言で、ベル=ラプソティとカナリア=ソナタは暗い顔になる。地獄の番人と番犬が出てきた時に、その1体である牛頭鬼ミノタウロスをたったひとりで抑えてくれていたのが凱旋王ことディート=コンチェルト国主であった。

 その息子であるクォール=コンチェルト第1王子はグリーンフォレスト国から率いてきた1軍で馬頭鬼オロバスを抑え込んでいてくれたがゆえに、クォール=コンチェルト第1王子が大怪我をすることは無かった。

 しかし、ディート=コンチェルト国主は自分と互角以上に渡り合える存在と久方ぶりに出会えたことに歓喜し、牛頭鬼ミノタウロスとの一騎打ちを延々と続けてしまったのである。最後は怒りに滾る牛頭鬼ミノタウロスの裏拳を喰らい、ディート=コンチェルト国主はぶっ飛ばされることになるが、半狼半人ハーフ・ダ・ウルフの身ひとつで、悪魔1体を抑え込んでくれていたことは、素直に賞賛に値する働きである。

そして、その代償として、ディート=コンチェルト国主は大怪我を負うことになったのだ……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【R18】異世界なら彼女の母親とラブラブでもいいよね!

SoftCareer
ファンタジー
幼なじみの彼女の母親と二人っきりで、期せずして異世界に飛ばされてしまった主人公が、 帰還の方法を模索しながら、その母親や異世界の人達との絆を深めていくというストーリーです。 性的描写のガイドラインに抵触してカクヨムから、R-18のミッドナイトノベルズに引っ越して、 お陰様で好評をいただきましたので、こちらにもお世話になれればとやって参りました。 (こちらとミッドナイトノベルズでの同時掲載です)

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...