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第五章 幸せの刻限

50 愛の檻【5】♥

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(あれ……私、何、してたんだっけ……?)

 みゆきはふと、そんなことを思う。
 今自分がどこにいて、何をしているのか、今が何日なのかがわからない。
 それどこではなくて、自分が何者なのか、何歳なのかも定かではない。

 ただただ体がぬるりとしていて、病の高熱に浮かされているような気分だ、ということしかわからない。

(そうか、多分、熱を出していて、うとうとしていたのかな……)

 ぼんやりと納得しかけたとき、下腹部に重い快感がたたき付けられた。

「ぇあ……ッ……?」

 喉の奥から押し出された声は、嗄れかけている。
 叫びすぎて嗄れたのだ。かすかな喉の痛みが、強制的にみゆきの記憶を引き戻す。

(そうだった、私、貴明さんに囚われて……ずっと、抱かれていて)

「みゆき、起きたの?」

「は……い、ごめんなさ……」

「大丈夫だよ、少しくらい眠っていても」

 とっさに謝りかけると、また頭を撫でられた。
 優しくされると、ほっとする。
 心はゆるむけれど、体はなぜかほっとできない。

 自分は今、どうなっているんだろう……と瞬きをするうちに、体内から痺れるような感覚が突き上がってくる。

「ぅくっ……んん、んぅ…………っ」

 涸れはてた声が嬌声に変わり、みゆきは触れる指でしっとりとした敷布を掴んだ。
 引きずり出されて、いる。
 秘所から、貴明のものが、ずるずると抜かれていく。

(気を失っている間も、入っていたんだ……)

 そう思うと心が甘い絶望にどろりと堕ちた。

「あ、ぁぁっ、や……からだ……めくれる……っ」

 蕩けた場所をこそげられ、体が内側からひっくり返されてしまいそうな感覚。
 疲れた腹が緊張を取り戻し、みゆきはぶるぶると震えた。

 一度完全に快楽に支配されてしまった体は、あっという間に快楽の頂点を目指してふたたび上り始める。
 ぴくぴく動き続ける内部の媚び具合からして、ひょっとしたら倒れていた間も、抽挿は続いていたのかもしれない。

「従順で、いい体になっただけだよ……でも、やっぱり起きていたほうが、よく絞まるね」

 貴明はみゆきの花芽の裏を、執拗になぶった。
 花芽をいじられる鋭い感覚と、中で感じる重い感覚、その中間の感覚で、みゆきの快感がたたき起こされていく。

「ちゃんと、感じる?」

 みゆきが必死にうなずくと、貴明はみゆきの尻を押しつぶすようにして、奥の奥までくわえこませた。

「よかった。じゃあ、もう一度ね」

「ぁー……そこ……ぉ……」

 一番奥で貴明を感じると、快楽の段階ががくんと上がって涙がこぼれる。
 ちゅう、という口づけのような感覚が体の奥にあり、貴明は感じ入ったような声を出した。

「ああ……すごいな……もうこんなに、柔らかくなって。吸いついてくる……」

「ぁー……ぁ……ぁ……」

 みゆきはというと、快楽のぬるま湯に頭まで浸かってしまったような気分だ。
 もう、ここから抜ける方法がわからない。

 自分はこのまま、ここで溶けて行ってしまうのかもしれないと思った。
 体も、心も、どろんどろんになって、今度こそ貴明とまったく同じものになって、何もかもがおしまいになってしまうのかもしれない。

(そうなったら、すてき)

 そうなってしまえ。
 世界なんか、消えてしまえ。
 みゆきはうっとりと、そんなことを思う。

「中、すぐに痙攣してしまうね。もう、声、出てないよ?」

 からかうように言われても、みゆきには意味が分からない。
 ほんの少し、意味のあることを考えられるとしたら、貴明の顔が見たいな、ということ。
 でも、体は全然動かない。
 だからぼんやりと口の中で貴明の名を転がしている。

「たか、あき、さ……」

「もう限界かもしれないけれど……もう少し念入りにしておかないと、あなたは、またどこかへ行ってしまうだろうし。ごめんね」

 貴明はみゆきの背中をそっと撫でる。
 そうして再び、みゆきを欲の海に沈める行為に没頭し始めた。

 みゆきの意識は浮き上がっては途絶え、また短時間戻って――最後に、とぷんと暗い闇に沈む。

† † †

(きっと、眠ったんだわ、私)

 意識がないはずなのに、みゆきはそんなことを考える。
 自分は深い闇の中で静かに横たわっており、傍らには身なりを整えた貴明が正座している。
 彼はみゆきの顔を濡れたてぬぐいで拭き、髪をきれいに整えると、深く一礼する。
 そうして、立ち上がる。

(貴明さん?)

 彼は軍刀を剣帯に吊る。
 そしてポケットから何やら、手巾のようなものを取り出した。

(あれは……私が差し上げた、刺し子だ)

 貴明はみゆきの拙い刺し子に恭しく口づけると、身を翻して去って行く。

(待って。どこへ行くの? 待って……)

 声を出そうにも、みゆきの体はあまりにも重くて、少しも動かない。
 貴明は去って行く。
 闇の中へ、真っ直ぐに――。
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