【完結】冷徹宰相と淫紋Hで死亡フラグを『神』回避!? ~鬱エロゲー溺愛ルート開発~

愛染乃唯

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なぜ、ボタンが彼の手に……?
 呆然とする私の目の前で、皇帝がボタンを振る。
 鮮やかな赤の♥マークは、神様からもらったまぐわえボタン。
 この世界のキャラたちは、まったく知らないはずの代物。
 それを手にして、皇帝はにやにやと笑い続ける。

「なんか妙だとは思ってたんだよなあ~。この世界に、お前みたいなキャラがいていいわけがねー。お前が出張って来て以来、ヴィンセントの反応も不自然だ。妙だ、妙だと思ってたら、よりによってこんなもんがあったとはなぁ?」

「陛下は、そのボタンがなんだか、ご存じなんですか?」

 私はおそるおそる聞いた。
 衝撃覚めやらぬ中ではあったけれど、皇帝の台詞には違和感がある。
 彼は私を『キャラ』と呼んだ。
 それって、つまり……?

「質問していいとは言ってねーよ、この世界に紛れ込んだ大バグちゃん。俺の機嫌を損ねると、この場でこのボタン、押しちゃうぞ?」

 皇帝は♥ボタンを前に出し、今にも押しそうな所作を見せる。
 私はひやりとし、ヴィンセントを見た。
 ヴィンセントは少し難しい顔をしたのち、すぐに階段を上がってくる。

「おっ、どうした。素直にやる気か?」

「――大体予想はついていましたが、その奇っ怪なボタンを見て概ね悟りました。やはりあなたが邪教に身を染め、わたしに奇っ怪な紋……淫紋とやらを植え付けたのですね」

 同じ高さで皇帝と相対し、ヴィンセントが言う。
 こうしていると、ヴィンセントのほうが長身なのがよくわかる。
 体型も、態度も、皇帝よりヴィンセントのほうが堂々としている。
 ひょろい大学生めいた皇帝は、派手に顔をゆがめて叫んだ。

「ばーーーーか、ちげーよ! このボタンを押したのも、お前に淫紋つけたのも俺じゃねえ。エレナだ!」

 皇帝の大声が高い天井に響き、わんわんと反響を生んでいく。

 ああ、終わったな、と、思う。
 不思議なくらい焦りの感情は浮かばなかった。
 むしろ少し、ほっとしたかもしれない。

 広間はしんと静まり返り、次にざわざわとし始めた。
 困惑の空気の中、私は妙に冷静に考える。
 このゲームの皇帝は、そもそもが異界から召喚された、という設定だった。
 なのに、今の今まで正体に気付かなかった私のほうが鈍いのだ。

 目の前の皇帝陛下は、私と同じ、転生者。
 カタストロフ・エンジェルがなんたるかを知っている、現代日本人だ……!

 ざわめきの中で、皇帝はひとり続ける。

「っつーか、こいつはエレナですらねえ! この世界の外から来た転生者だ。異世界人だよ。ヴィンセント、こいつはお前のファンだ。憧れのキャラとヤるためにチートアイテムを持って転生してきて、お前に淫紋つけて、お前の人生とプライドをめちゃくちゃにしたんだよ!!」

 皇帝の語る真実を、ヴィンセントは難しい顔で聞いている。
 私はその顔を直視するのがつらくて、思わず下を向いた。
 私が悪い。どう考えたって、私が悪い。
 いくらヴィンセントを助けるためとはいえ、私のとった手段は卑怯で、暴力的で、自分勝手で――。

「安心しました」

 ヴィンセントが、ぽつりと言う。

「は?」

 皇帝が素っ頓狂な声を出した。
 私も全く同じ気持ちで、目を見開いてヴィンセントを見やる。
 ヴィンセントは自分の男らしい顎を撫でながら、ゆっくりと言う。

「細部の事情はまだ、わかりかねるところもありますが……つまり、わたしは悪意でつけられた邪教の紋章で彼女を苦しめていたわけではないのですね。ならば、なんの問題もない」

 ヴィンセントはそう言って、微笑んだのだった。
 ひどく優しい微笑みなのに、目尻に情熱的な赤い色がにじんでいるのが、不思議なくらい色っぽい。
 私は……私は、今度こそ、ぽかんとした。
 私の好きなひとは、天使だったんだろうか。

「ヴィンセント、さま」

 かすれた声を絞り出すと、ヴィンセントが私を見た。
 視線と視線をからめてから、緩やかに歩み寄ってくる。
 ほどなく、節くれ立った指が顎をすくって、アイスブルーの瞳が私をのぞきこんだ。
 優しい熱で覆われた、その瞳。
 見上げていると、私は自然と泣けてくる。

「ヴィンセント様……ごめんなさい。私」

「好きだ、エレナ。お前を愛し、慈しみたい。いや――エレナではないのだったか?」

 少しの嘘もない声で囁かれ、私はぼろぼろと泣きながらうなずく。

「……はい……」

「本当の名があるのなら、教えてほしい」

 何度も、何度もうなずいて、私は記憶の隅にあった前世の名前をつぶやいた。
 三十年近く使ったはずの名前なのに、私にとってはもう、ひどく遠かった。

「――――」

 ヴィンセントは慈しむようにその名前を呼んで、私と唇を合わせる。

「ん…………」

 私も懸命に唇を合わせ、彼の舌を招き入れる。
 私たちの唇は、すぐにどちらがどちらのものかわからないくらい融け合った。
 気持ちがよかった。鋭い快感で震えるのではなく、ただただひたすらに幸せだった。
 ぬるくて香りのいいお湯に浸かっているときみたいな、ひたすらの幸せ。
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