【完結】冷徹宰相と淫紋Hで死亡フラグを『神』回避!? ~鬱エロゲー溺愛ルート開発~

愛染乃唯

文字の大きさ
上 下
19 / 42

14-1

しおりを挟む
 急だな、と思ったけれど、そんな気持ちはすぐに彼の体温で溶けてしまった。
 温かい。気持ちいい。いい匂い。嬉しい。
 私はぎゅうっと彼にしがみつく。
 彼も、ぎゅうっと私を抱く腕に力を入れて、すぐにほどいた。

「……やはり、女だけで行かせるべきではなかった」

 暗い声で言い、彼は私の手を掴んで歩いて行く。
 結構な早足に、私は小走りでついていくことになった。

「申し訳ありません。あの、リリア様は悪くないんです。んっ……」

「……どうした?」

 眉間に皺を寄せて、ヴィンセントが振り返る。
 私は下腹部を押さえて、必死に顔を取り繕った。
 小走りで移動すると、体の中のあれがどうしても存在を主張するのだ。

「いえ、なんでも……」

「なんでもない顔ではない。こちらへ」

 ヴィンセントは顔をしかめ、私を廊下の隅へ導いた。
 廊下の隅にはソファや椅子なんかが置かれていたりして、細長い部屋という感じだ。
 ヴィンセントは太い柱の奥、カーテンの垂れ下がる裏へ、私の体を押しこんだ。

「さっきの男たちに、何をされたか話せるか」

 話すのか。一瞬ためらいはあったけれど、ヴィンセントは私の上司だ。
 職場である宮殿であったことは、報告はするべきだろう。
 私はなるべく普通のテンションに自分を調整する。

「大したことはされてないですよ。女だとばれてしまったので、腕をひねり上げられて。服の上から胸を揉まれて、抵抗したら頬を殴られて、倒れたら踏まれて、さらに踏まれて、兵士の慰みものだったんだろう、的な暴言を受けたんですが、私、ほんとに、全然そんなの慣れっこでして!」

「……もういい」

 苦い声が降ってきて、ヴィンセントは私をぎゅっと抱きしめてくれる。

「すまなかった。私が悪い」

「なんでですか? ヴィンセント様は、なに、も」

 抱きしめてくれたのが嬉しい。ほっとして見上げると、唇を奪われた。
 柔らかな唇が重なり、温かい舌が性急に私の中に入ってこようとする。
 私は急いで口を開き、彼の舌を受け入れた。這い回る舌が私の舌に、粘膜に触れる。
 そのことが嬉しくて、どこに触れられても気持ちがよくて、体から徐々に緊張が抜けてくる。

 嬉しくて、ヴィンセントの背中に両手を回した。
 すがりついて、舌をからめて、体を少しでも密着させようとする。
 お互いの呼吸を奪い合い、お互いの口の中が同じ温度になったころに、ヴィンセントがわずかに唇を離した。逃れる熱がもったいなくて、まだ唇と唇が触れそうな距離で、私たちは見つめ合う。

「ヴィンセント様」

 名前を呼ぶだけで、少し気持ちがいい。
 ヴィンセントは苦しそうに目を細めて、私に囁く。

「私が悪かった。私が、何もかも悪い。お前を外に出さねばよかった。仕事をさせたのも間違いだ。部屋に閉じこめて、大事に鍵をかけておけばよかった」

 繊細な、繊細な囁きが降り積もっていく。
 いつも冷静なヴィンセントらしくもない。
 まるで恋に惑わされているひとみたい。このひとは、誠実すぎるくらい誠実だ。
 恋人でもない私を、こんなにも大事にしてくれるなんて。

 なんだかこそばゆくて、嬉しくて、自分が別の自分になっていくかのようで、私は頬を緩めてしまった。

「私は小鳥ではないですよ」

「知っている。すまない。謝ってばかりだ、私は」

 熱いため息を吐いて、ヴィンセントが私の肩に顔を伏せる。
 預けてくれた重みも嬉しくて、私はぎゅうっと彼にしがみつく。

「謝らないでください。私、ヴィンセント様が私を閉じこめたいなら、嬉しいです」

「…………」

 ヴィンセントは黙って私を強く抱いた。
 服が邪魔だな、と思った。
 私とヴィンセントの間にあるもの、すべてが邪魔だ。
 空気も、服も、いっそ皮膚も邪魔かも知れない。
 もっともっと、あなたの近くに行きたい。

 すり、と体をすりつけると、ヴィンセントも答えてくれる。

「ん……」

 足の間に硬いものが当たって、思わず声が出てしまった。
 ヴィンセントだ。ヴィンセント自身が、硬くなっている。
 そう気づいた途端、じわん、とお腹が温かくなって、私ははっとする。
 とろん、と、体の奥から蜜がこぼれてくる感触。
 ヴィンセントに気づかれてしまいそうなほどの――。

「ご、ごめんなさい!」

 私がヴィンセントを押し離そうとすると、ヴィンセントはわずかに青ざめた。

「……! すまない」

「え? あ、ヴィンセント様が謝ることは何もありませんよ……?」

「いや、謝るべきだろう。お前が傷ついているのに、わたしは」

 歯を食いしばり、自分の前髪をわしづかみにするヴィンセント。
 言葉ににじむ本気の悔しさに、私は慌てて彼の腕にすがった。

「違うんです、私、ヴィンセント様なら大丈夫です!」

「無理をするな。男に触れられるのはまだ嫌だろう、やはり聖女殿を呼んでこよう」

「嫌です!」

 思わずはっきり言い切ってしまった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない

ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。 既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。 未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。 後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。 欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。 * 作り話です * そんなに長くしない予定です

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

「君を愛さない」と言った公爵が好きなのは騎士団長らしいのですが、それは男装した私です。何故気づかない。

束原ミヤコ
恋愛
伯爵令嬢エニードは両親から告げられる。 クラウス公爵が結婚相手を探している、すでに申し込み済みだと。 二十歳になるまで結婚など考えていなかったエニードは、両親の希望でクラウス公爵に嫁ぐことになる。 けれど、クラウスは言う。「君を愛することはできない」と。 何故ならば、クラウスは騎士団長セツカに惚れているのだという。 クラウスが男性だと信じ込んでいる騎士団長セツカとは、エニードのことである。 確かに邪魔だから胸は潰して軍服を着ているが、顔も声も同じだというのに、何故気づかない――。 でも、男だと思って道ならぬ恋に身を焦がしているクラウスが、可哀想だからとても言えない。 とりあえず気づくのを待とう。うん。それがいい。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

処理中です...