【完結】冷徹宰相と淫紋Hで死亡フラグを『神』回避!? ~鬱エロゲー溺愛ルート開発~

愛染乃唯

文字の大きさ
上 下
13 / 42

11-1

しおりを挟む
「す、すみません!」

 慌てて腕から逃れようとするものの、ヴィンセントは私をしっかりと抱きかかえてしまっている。ぽすん、と彼の胸に頬を預け、私はおそるおそるヴィンセントを見上げた。

「どうされましたか……?」

 彼は答えず、ただただ難しい顔で私を見下ろしてくる。
 繊細な金色のまつげと、美しい鼻梁。薄情そうな薄い唇は彫像めいて堅そうなのに実際には柔らかいのだ。私はそれを知っているから、見ているうちに触れたくなってきてしまう。そんなことはもちろん、できないのだけれど。
 やがて、ヴィンセントの唇が、ゆっくりと動く。

「やはりお前も、寝ていないな?」

 言葉と同時に落ちてくる、疑いの目。私は慌てて首を横に振る。

「まさか、そんなことあるわけないじゃないですか!」

「ならばなぜ、私が夜中に起きていると気づいている。私が寝るまで起きているからだろう。違うか?」

 鋭い。それは確かにそうだ。でも、私はおそるおそる反論した。

「ヴィンセント様が寝たあと、朝方にちゃんと寝てます。徹夜も三回までならいける人間なので、今はめちゃめちゃ余裕があるんですよ。食事も三食出ますし、寝台もふかふかしているし、ヴィンセント様が隣にいたらそれはもう栄養ですし、ひゃっ!」

 反論している途中で、私の体はふわりと浮く。

「な、何?」

 浮遊感におびえてヴィンセントの首にしがみついた。私はヴィンセントに膝裏と背中を支えられており、つまり、いわゆる、お姫様だっこをされている。
 お姫様だっこ。私が。ヴィンセントに。
 自覚すると一気に顔が熱くなり、私は焦った。

「ヴィンセント様、ダメです、下ろしてください!」

「何がダメだ」

「重いですから、私! ヴィンセント様の腰が壊れます!」

 反射的に叫ぶと、ヴィンセントは小さく吹きだした。

「これで? 腰が?」

「腰痛を甘く見ちゃ駄目です、ほんとに大事にしてください……!」

 私は必死に懇願するが、ヴィンセントは気にした様子もない。私を抱っこしたまま、とっとと扉に向かって歩き出す。

「そんなことを気にするくらいなら、きちんと寝ろ。このまま寝台まで連れて行く」

「待ってください、このまま!? このままですか?」

「放したら逃げるだろう」

 ヴィンセントは当然のように言い、私を抱いたまま器用に扉を開いた。
 これは、本気だ。本気でお姫様だっこのまま、私を寝室に運ぶ気だ。
 顔に集中していた熱さが一気に全身に回り、いたたまれない。

「逃げませんよ、なんだと思われてるんですか、私は!」

「献身的すぎて、見ていると不安になる部下」

 廊下に出ると、蜜ロウソクとどことなく隠微な香りが漂う。
 ロウソクだけで照らされた暗くて広い廊下をうかがいつつ、私は続ける。

「なるほど。いや、なるほどではなくて。ヴィンセント様が働いているのに、私が休むわけにはいかなくないですか?」

 当然の理屈だと思ったのだけれど、ヴィンセントは難しい顔だ。
 少し黙ったのち、少し冷たい目をして私を見下ろす。

「……あまりそういうことを言うようだと、寝台に縛り付けることになるが、いいのか?」

「それは……ちょっとときめきますね」

「ときめ、き……?」

 戸惑って顔をしかめるヴィンセント。
 威厳があるのにどこかかわいらしくて、私の顔は緩んでしまう。

 と、そのとき。
 どこか遠くで、誰かの悲鳴が聞こえた気がした。

「っ……!」

 私はついつい、ヴィンセントの首に強くしがみつく。

「おびえるな。わたしがいる」

 私を抱くヴィンセントの手にも力が入る。私は、すぐそばにある温かい体に集中した。どことなく甘く変化した彼の香りと、間近にある鼓動に神経を傾けていると、恐怖が少しずつ抜けていく気がした。
 ヴィンセントがいる。
 それだけで、この宮廷から漂う陰気に呑まれずに済む。

「どのへんから聞こえたんでしょうか……」

 私はつぶやき、ヴィンセントの腕の中から、宮殿の廊下を見渡した。
 廊下と言っても、宮殿のそれは長細くて天井の高い大きな部、と言ったほうが正しい気がする。屋色つきの大理石で模様が描かれた床には円柱が立ち並び、その間には奇妙な彫像が置かれている。
 そのひとつが、不意に動いた。

「ひっ!」

 私は今度こそ悲鳴をあげかけた。ヴィンセントの体もわずかに緊張する。
 が、すぐにその緊張はほどけたようだ。
 彼は私を抱いたまま、彫像のほうに声をかける。

「リリア殿か。このようなところで何をされていたのだ」

 目をこらしてみると、彫像の影から出てきたのは確かに化け物ではなかった。
 露出の少ない白いケープつきワンピースの下に、華奢な体と少し不釣り合いなくらいの大きな胸を隠した女性。宮廷付き聖女のリリアだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない

ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。 既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。 未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。 後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。 欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。 * 作り話です * そんなに長くしない予定です

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

「君を愛さない」と言った公爵が好きなのは騎士団長らしいのですが、それは男装した私です。何故気づかない。

束原ミヤコ
恋愛
伯爵令嬢エニードは両親から告げられる。 クラウス公爵が結婚相手を探している、すでに申し込み済みだと。 二十歳になるまで結婚など考えていなかったエニードは、両親の希望でクラウス公爵に嫁ぐことになる。 けれど、クラウスは言う。「君を愛することはできない」と。 何故ならば、クラウスは騎士団長セツカに惚れているのだという。 クラウスが男性だと信じ込んでいる騎士団長セツカとは、エニードのことである。 確かに邪魔だから胸は潰して軍服を着ているが、顔も声も同じだというのに、何故気づかない――。 でも、男だと思って道ならぬ恋に身を焦がしているクラウスが、可哀想だからとても言えない。 とりあえず気づくのを待とう。うん。それがいい。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

処理中です...