【完結】冷徹宰相と淫紋Hで死亡フラグを『神』回避!? ~鬱エロゲー溺愛ルート開発~

愛染乃唯

文字の大きさ
上 下
12 / 42

10-2

しおりを挟む
『……なにゆえか知らんが、新しい皇帝陛下はわたしを罷免するつもりはないようだ。だがもちろん、好きにさせるつもりもない。もはやわたしだけの権限では、どんな些細なことも決裁できぬ。せめて、前代皇帝、アルマンド陛下の印章が手に入れば……』

 というヴィンセントの話を受けて、私が最初にやったこと。
 それは前代皇妃との接触だった。前代皇妃もカタエンの攻略キャラなので、私は皇妃が前代皇帝の印章を隠し持っていることを知っていた。さらに、彼女が捕らわれている牢も。私はその情報をさりげなくヴィンセントに流し、改めて男装して牢に潜入、事情を話して、無事に印章を受け取ってきたわけだ。
 皇妃様はものすごい人妻み、ママみのある物憂げな貴婦人で、最初はすっかり厭世モードだったのだけれど、私がアルマンド陛下の庶子だと知ると、なぜかめちゃくちゃ優しくしてくれた。

『目元があのひとに似ているわ……お菓子を食べなさい。私の娘と唇がそっくり……このハンカチは要る? 耳の形は私とうり二つね……印章指輪? 持って行きなさい』

 実の子は全員殺されてしまったわけなので、私を子ども扱いしたかったのかもしれない。そう思うとしんみりしてしまうが、その後の仕事の多さで感傷は全部消えた。

 現皇帝の許可が出ない書類の中で急を要するものは日付を改ざん、前皇帝の印を押してとにかく通す。その他、先送れることはとにかく先送りし、代理を立てられることには代理を立て、表でどうにもならないことは裏ルートで民間をつっつき……と、まあ、とにかく突っ走るヴィンセントを必死に補佐する作業は一週間ほど続き……私のメンタルはすっかりピンクにやられつつある、というわけだ。

「エレナ」

 急に間近から声をかけられ、私は椅子から飛び上がる。

「ど、どうされました、ヴィンセント様」

 ヴィンセントはいつの間にやら、私の席の真横に立っていた。
 疲れが色濃くまとわりついた額には、深い皺が刻まれている。彼は人を裁く目で私を見下ろし、淡々と言う。

「念のために聞くが……夜はちゃんと休んでいるのだろうな?」

「もちろんです! 睡眠は取ってますし、食事だって、かろうじて」

「かろうじて?」

 ぐっと低くなるヴィンセントの声。
 ダイレクトに背骨がぞくぞくっとして、身震いする。声だけで気持ちいいとか反則だ。いいかげんにしてほしいけれど、実際にいいかげんにしたほうがいいのは私だ。
 ピンク思考から離れて、ヴィンセントのことを考えなくては。
 私はぐっとお腹に力をこめて、ヴィンセントに言い返す。

「私のことより、ヴィンセント様はご自分のことを気遣われてください。鏡をごらんになりましたか? 酷い顔色ですよ」

 色っぽすぎるのでどうにかしてください、というところは口の中でかみつぶした。
 ヴィンセントは一瞬ためらい、すぐに反論する。

「青白いのは生まれつきだ」

 あまりに弱い反論に、私はじわっとたたみかけた。

「実は私、従者の仕事が終わってヴィンセント様に『おやすみなさい』を言った後も、お部屋からごそごそ音がしているなあ……とは気づいておりまして」

「…………」

「お食事も日々お酒の量が多くなって、他は進んでいないなあ、なんて……」

「………………」

 一切反論できないヴィンセントは、ただただ黙りこくっている。
 本当に嘘が吐けないひとなんだなあと感心しつつ、私はこっそり心を決めた。
 ヴィンセントを死なせないためにも、私のピンク妄想を押しのけるためにも、ちょっとお茶でもしよう。そのための時間は、根性で作ろう。
 そうと決めたら、馬力が違う。
 私は手元の書類の仕分けを猛スピードで終わらせ、勢いよく立ち上がった。

「そろそろ切りがよいようですから、私、朝のおやつをご用意して参りますね」

「なんだ、その朝のおやつという概念は。聞いたことがないぞ」

 やっと反論してきたヴィンセントの、反論内容がちょっとかわいい。
 私は、くすりと笑って扉に向かった。

「秋の国では普通ですよ。あそこではお茶が一日三回ありますので」

 そのまま出て行こうとすると、不意に後ろから腕を掴まれる。

「待て」

「ひゃっ」

 腕を引かれると、ぐらりとバランスを崩す。
 倒れる――と思った直後。
 私の体はヴィンセントの腕の中にすっぽり包まれていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない

ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。 既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。 未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。 後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。 欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。 * 作り話です * そんなに長くしない予定です

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

「君を愛さない」と言った公爵が好きなのは騎士団長らしいのですが、それは男装した私です。何故気づかない。

束原ミヤコ
恋愛
伯爵令嬢エニードは両親から告げられる。 クラウス公爵が結婚相手を探している、すでに申し込み済みだと。 二十歳になるまで結婚など考えていなかったエニードは、両親の希望でクラウス公爵に嫁ぐことになる。 けれど、クラウスは言う。「君を愛することはできない」と。 何故ならば、クラウスは騎士団長セツカに惚れているのだという。 クラウスが男性だと信じ込んでいる騎士団長セツカとは、エニードのことである。 確かに邪魔だから胸は潰して軍服を着ているが、顔も声も同じだというのに、何故気づかない――。 でも、男だと思って道ならぬ恋に身を焦がしているクラウスが、可哀想だからとても言えない。 とりあえず気づくのを待とう。うん。それがいい。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

処理中です...