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ああ……。
困った。困ってしまった。
まぎれもなく、ごまかしようもなく、今私は、エッチがしたい。
「うう……」
書類山脈に囲まれて、私はうめく。
仕事は山ほどある。むしろあふれている。
余計なことを考えずに手を動かすんだ。社畜根性を思い出せ……!
「エレナ」
「はい!」
書類の山の向こうからヴィンセントの声がして、私はびくりと震える。
執務室の机にうずたかく積もった、本と書類。
その隙間からちらりと見える、ヴィンセントの顔が、病んでいる。
顔色はいつもよりさらに青白く、髪は乱れて形よい額にぱらりとかかる。目の下にははっきりと隈が出ているのだけれど、そのせいでアイスブルーの眼光がことさらに鋭く見えた。
その目で見据えられると、ぞわっと背中を何かが駆け抜ける。
病んだ推し、色気の暴力すぎる。
こんなものを目の前にして、密室で、たった二人で修羅場をやっていたら、大体の人間はおかしくなると思う。少なくとも私はおかしくなりかけている。
彼は理想の美男子で、理想のやつれ具合で、理想の有能さを発揮していて、私は彼の衣の下がどうなっているかを知っていて。さらに、私のポケットにはボタンが入っている。
押せばヴィンセントの淫紋が反応して、エッチになだれ込めるボタンが。
……押したい。
ダメだ。わかっている。
次に万が一押すことがあったとしても、それはほぼ合意、みたいなときでないと。
そう、わかってはいるのだ。わかっているが、押したい。
何もかも放り出して、あの体に抱きしめられたい。
仕事の積み上がった机の上に放り上げられ、軍服のズボンを引きずり下ろされて、大した準備もなくつっこまれたい。
ヴィンセントはボタンを押されたって絶対そんなことはしないのだが、泣いてもわめいても首根っこを掴まれ、めちゃくちゃにされている自分を想像すると、ぽわわんと幸せになってくる。
職場もののエロコンテンツによくある感じで、机の下に飼われるのでもいいな。
私は仕事ではさっぱりヴィンセントの役に立てず、彼に冷たい目で見下ろされ、
『お前にできるのはこれくらいだな』
などと言われて、彼の仕事中は机の下で彼をお慰めする仕事に就くのだ。
澄ました顔で仕事するヴィンセントのズボンの前を開いて、あの、長大なものに舌を這わせる。
エロコンテンツの知識を駆使して彼を喜ばせようとするものの、なかなか達するところまで持って行くことはできなくて。
困っていると、いきり立った彼をいきなり口の中につっこまれる。
私の中は彼でいっぱいになり、おかしくなった感覚の中で苦しさは快感になる。
そこで部下が執務室に入ってきて、彼と部下が話し始める。
私は硬くなるけれど、ヴィンセントは机の下に手を入れて、私の頬をつつく。
それが『続けろ』の合図なのだ。
私は必死に首を振り、彼が達するように努力を続ける。そうしているうちに私自身も濡れそぼって、こっそりズボンを開けて自分で指を這わせ……。
……駄目だ。駄目。全然、駄目。
帰ってきて、理性。
「素数……素数を数えたいけど素数自体を思い出せない……円周率……円周率ならいけるか。三・一四一……一……もうわからない……!」
「うわごとが出ていないか? 本当に大丈夫なのか」
本気で心配そうに問われ、私は必死に微笑んだ。
「もちろんです。まだ毎日寝られてますからね。このくらいの修羅場、修羅場の数にも入りませんよ……!」
さて、どうしてこんな状況になっているかというと。
私とヴィンセントは、仕事をしているのだった。
カタエン世界はプレイヤーである皇帝が出現してからめちゃくちゃになりかけている。皇帝が仕事をしないから、内政が全部滞ったままだ。大小の裁判から、地方政治の監視から、治水、灌漑、災害対策から、税や通商に関する細々としたこと、教育、人事、さらには宮殿内部のインフラ整備から何から、もう、何もかもが放りっぱなしだ。
この地獄を少しでも生きやすい地獄にすると決めた私たちは、猛然と働き始めた。
困った。困ってしまった。
まぎれもなく、ごまかしようもなく、今私は、エッチがしたい。
「うう……」
書類山脈に囲まれて、私はうめく。
仕事は山ほどある。むしろあふれている。
余計なことを考えずに手を動かすんだ。社畜根性を思い出せ……!
「エレナ」
「はい!」
書類の山の向こうからヴィンセントの声がして、私はびくりと震える。
執務室の机にうずたかく積もった、本と書類。
その隙間からちらりと見える、ヴィンセントの顔が、病んでいる。
顔色はいつもよりさらに青白く、髪は乱れて形よい額にぱらりとかかる。目の下にははっきりと隈が出ているのだけれど、そのせいでアイスブルーの眼光がことさらに鋭く見えた。
その目で見据えられると、ぞわっと背中を何かが駆け抜ける。
病んだ推し、色気の暴力すぎる。
こんなものを目の前にして、密室で、たった二人で修羅場をやっていたら、大体の人間はおかしくなると思う。少なくとも私はおかしくなりかけている。
彼は理想の美男子で、理想のやつれ具合で、理想の有能さを発揮していて、私は彼の衣の下がどうなっているかを知っていて。さらに、私のポケットにはボタンが入っている。
押せばヴィンセントの淫紋が反応して、エッチになだれ込めるボタンが。
……押したい。
ダメだ。わかっている。
次に万が一押すことがあったとしても、それはほぼ合意、みたいなときでないと。
そう、わかってはいるのだ。わかっているが、押したい。
何もかも放り出して、あの体に抱きしめられたい。
仕事の積み上がった机の上に放り上げられ、軍服のズボンを引きずり下ろされて、大した準備もなくつっこまれたい。
ヴィンセントはボタンを押されたって絶対そんなことはしないのだが、泣いてもわめいても首根っこを掴まれ、めちゃくちゃにされている自分を想像すると、ぽわわんと幸せになってくる。
職場もののエロコンテンツによくある感じで、机の下に飼われるのでもいいな。
私は仕事ではさっぱりヴィンセントの役に立てず、彼に冷たい目で見下ろされ、
『お前にできるのはこれくらいだな』
などと言われて、彼の仕事中は机の下で彼をお慰めする仕事に就くのだ。
澄ました顔で仕事するヴィンセントのズボンの前を開いて、あの、長大なものに舌を這わせる。
エロコンテンツの知識を駆使して彼を喜ばせようとするものの、なかなか達するところまで持って行くことはできなくて。
困っていると、いきり立った彼をいきなり口の中につっこまれる。
私の中は彼でいっぱいになり、おかしくなった感覚の中で苦しさは快感になる。
そこで部下が執務室に入ってきて、彼と部下が話し始める。
私は硬くなるけれど、ヴィンセントは机の下に手を入れて、私の頬をつつく。
それが『続けろ』の合図なのだ。
私は必死に首を振り、彼が達するように努力を続ける。そうしているうちに私自身も濡れそぼって、こっそりズボンを開けて自分で指を這わせ……。
……駄目だ。駄目。全然、駄目。
帰ってきて、理性。
「素数……素数を数えたいけど素数自体を思い出せない……円周率……円周率ならいけるか。三・一四一……一……もうわからない……!」
「うわごとが出ていないか? 本当に大丈夫なのか」
本気で心配そうに問われ、私は必死に微笑んだ。
「もちろんです。まだ毎日寝られてますからね。このくらいの修羅場、修羅場の数にも入りませんよ……!」
さて、どうしてこんな状況になっているかというと。
私とヴィンセントは、仕事をしているのだった。
カタエン世界はプレイヤーである皇帝が出現してからめちゃくちゃになりかけている。皇帝が仕事をしないから、内政が全部滞ったままだ。大小の裁判から、地方政治の監視から、治水、灌漑、災害対策から、税や通商に関する細々としたこと、教育、人事、さらには宮殿内部のインフラ整備から何から、もう、何もかもが放りっぱなしだ。
この地獄を少しでも生きやすい地獄にすると決めた私たちは、猛然と働き始めた。
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