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「だって、私、はしたなくて」
私はもう、震えながら囁くしかない。
ふ、と、耳元でまた、彼が笑った気がした。
でも、すぐに彼が私の尻を掴んで腿を寄せさせたので、私はそれどころではなくなった。
「腿を寄せてくれ……そう、強く。そう。それでいい」
言われた通りにきゅっと腿を寄せると、腿と腿の間に彼の存在を強く感じる。
堅くこごった、彼の中心。
それが今、私の中心のすぐ側にある。
「すこし、我慢だ」
耳朶に落とされた声はどことなく甘く、私はまた、呼吸を忘れてあえいだ。
「あっ……んう」
「いい声だ。外で聞いている者に、もっと聞かせてやってくれ」
囁いたあと、彼が腰を動かし始める。
「ひゃっ! ぅ……うん、あ、あっ、あっ、んっ」
私は悲鳴に近い嬌声を上げた。
ちゅ、ちゅぷ、ちゅ、と、甘えた水音が立つ。
表面を擦られているだけなのに、たっぷりと濡れた花びらは彼をのがすまいと絡みつく。
あげく私の肉芽はすっかりと硬くなってしまい、感覚のかたまりと化した。
そこを彼に擦り上げられるたび、快感が、強い波になって私を押し上げる。
何度も、何度も、何度も、快感が終わらない。
「うっ、くぅ……ヴィンセントさまっ……」
抑えようもなくこぼれる、情けない声。
体はとっくに強すぎる快感に負けていて、熱いものに触れたみたいに彼のものから逃げかける。
腰を浮かせたいのに、強い力がそれを許さない。
大きな手でウェストを掴まれて、引き寄せられて、押しつけられる。
「ゆるして……ゆるして、ヴィンセントさま……、お願い」
うなされたみたいに繰り返し、私はヴィンセントにしがみついた。
しっとりと汗で濡れた彼の体が私を受け止め、強く抱きしめてくれる。
私を閉じこめる力なのに、優しくて、それが嬉しい。
もっと、と思う。もっと。もっと――何?
息を切らした彼の声がする。
「もう少しだ、頑張ってくれ」
「ちが、う、もう、入れてぇ……!」
私は叫び、腰をうねらせた。
鋭いけれど表面を撫でて終わる快感が、お腹の中に溜まっている。
それをえぐり出して欲しい。掻きだして欲しい。
痛くてもいいから。あなたに。
あなただけに――。
「っ……!」
私を抱いていたヴィンセントの腕に力がこもり、呼吸が苦しくなる。
それも気持ちよくて、私も必死に腕に力を入れた。
私たちは抱き合う。
体の隙間がまったくなくなるくらい、強く、強く。
しばらくヴィンセントの背中には力が入っていたけれど、やがてふーっと脱力していく。
彼は私を抱いたまま、ぱたりと寝台に倒れこんだ。
しばし、二人して無言で呼吸を整える。
ぼんやりとした頭のどこかで、私はリリアのことを考えていた。
彼女は、まだ扉の向こうにいるのだろうか。寝台から気配をうかがうかぎりは、いないような気がする。
私たちはかなり迫真の演技ができた、ということなんだろうか。
まあ、半分以上本気だった気もするけれど……。
私はヴィンセントが目を閉じているのを確認してから、そーっと反対側を向く。
あった。まだ、枕元にボタンがある。
私はそれを、サイドチェストに載った花瓶の裏に、そーっとそーっと移動させた。
これで見つからないだろう、と思えたところで、ヴィンセントに声をかける。
「ヴィンセントさま……大丈夫です? いけました?」
目を閉じたまま、きゅっと額に皺を寄せるヴィンセント。
「お前が気にすることでは……いや……」
ヴィンセントはそのまま、じっと固まってしまった。
どうしたんだろう、大丈夫かな、と思いつつも、私は彼の顔から目を離せない。
この人、やっぱり渋い顔が最高に似合う。でも……と思って、私はヴィンセントの眉間に手を伸ばした。この皺が取れたらどんな顔になるんだろう、という興味に負けた。
指先が眉間に触れた瞬間、ヴィンセントはぱちりと目を開け、私を抱き寄せる。
「ごめんなさい……!」
ひぇっとなり、とっさに謝る私。
ヴィンセントは大きくて温かな体で私を包み、真剣に囁いた。
「謝るな」
「えっ……はい。はい……?」
謝らないとなると、何を言ったらいいのだろう。
困った私の頭を、ヴィンセントの手が軽く撫でた。
一度、二度。
大事なものをなぞるように撫でて、彼は言う。
「大事に、させてくれ」
「大事に……?」
私の思考は、ばちんと固まる。
大事に。
私を、大事に。
こんな私を、大事に?
前世ではただの社畜で、仕事もほどほど、容姿はイマイチ、頑張っても頑張っても使い潰されるだけで、趣味はエロゲーで。
そんなどうしようもない私を、大事に?
考えると、頭がぐるぐるしてきてしまう。
心の中にあった硬いものが、どろっと融けてきてしまう。
これってなんだろう。少なくとも、今まで融けたことのない何かだ。
これが融けたら、私はどうなるのかな。
私は、私でいられるのかな。
肌がざわざわするような不安に襲われ、私は慌てて唇を噛んだ。
「エレナ?」
ヴィンセントが少し心配そうに聞いてくる。
優しくされている。間違いなく、優しくされている。
どろり、ますます融けてしまいそうになって、私は、強く、強く唇を噛んだ。
ダメだ。ここで融けたらダメな気がする。
私には役目がある。ヴィンセントを救うという役目がある。
そのためにここにいるのを忘れちゃ駄目だ。
そもそも、ヴィンセントが私に好意的なのは、エレナが親友の娘だからだ。
そうだ――ヴィンセントが大事にしたいのは、私じゃない。
エレナだ。
ヴィンセントが見ているのは、エレナ。
そう思うと、少しだけほっとできた。
何度か呼吸して、冷静さを取り戻して。
ひとまず、私は彼に謝る。
「ごめんなさい、ヴィンセント様」
私はもう、震えながら囁くしかない。
ふ、と、耳元でまた、彼が笑った気がした。
でも、すぐに彼が私の尻を掴んで腿を寄せさせたので、私はそれどころではなくなった。
「腿を寄せてくれ……そう、強く。そう。それでいい」
言われた通りにきゅっと腿を寄せると、腿と腿の間に彼の存在を強く感じる。
堅くこごった、彼の中心。
それが今、私の中心のすぐ側にある。
「すこし、我慢だ」
耳朶に落とされた声はどことなく甘く、私はまた、呼吸を忘れてあえいだ。
「あっ……んう」
「いい声だ。外で聞いている者に、もっと聞かせてやってくれ」
囁いたあと、彼が腰を動かし始める。
「ひゃっ! ぅ……うん、あ、あっ、あっ、んっ」
私は悲鳴に近い嬌声を上げた。
ちゅ、ちゅぷ、ちゅ、と、甘えた水音が立つ。
表面を擦られているだけなのに、たっぷりと濡れた花びらは彼をのがすまいと絡みつく。
あげく私の肉芽はすっかりと硬くなってしまい、感覚のかたまりと化した。
そこを彼に擦り上げられるたび、快感が、強い波になって私を押し上げる。
何度も、何度も、何度も、快感が終わらない。
「うっ、くぅ……ヴィンセントさまっ……」
抑えようもなくこぼれる、情けない声。
体はとっくに強すぎる快感に負けていて、熱いものに触れたみたいに彼のものから逃げかける。
腰を浮かせたいのに、強い力がそれを許さない。
大きな手でウェストを掴まれて、引き寄せられて、押しつけられる。
「ゆるして……ゆるして、ヴィンセントさま……、お願い」
うなされたみたいに繰り返し、私はヴィンセントにしがみついた。
しっとりと汗で濡れた彼の体が私を受け止め、強く抱きしめてくれる。
私を閉じこめる力なのに、優しくて、それが嬉しい。
もっと、と思う。もっと。もっと――何?
息を切らした彼の声がする。
「もう少しだ、頑張ってくれ」
「ちが、う、もう、入れてぇ……!」
私は叫び、腰をうねらせた。
鋭いけれど表面を撫でて終わる快感が、お腹の中に溜まっている。
それをえぐり出して欲しい。掻きだして欲しい。
痛くてもいいから。あなたに。
あなただけに――。
「っ……!」
私を抱いていたヴィンセントの腕に力がこもり、呼吸が苦しくなる。
それも気持ちよくて、私も必死に腕に力を入れた。
私たちは抱き合う。
体の隙間がまったくなくなるくらい、強く、強く。
しばらくヴィンセントの背中には力が入っていたけれど、やがてふーっと脱力していく。
彼は私を抱いたまま、ぱたりと寝台に倒れこんだ。
しばし、二人して無言で呼吸を整える。
ぼんやりとした頭のどこかで、私はリリアのことを考えていた。
彼女は、まだ扉の向こうにいるのだろうか。寝台から気配をうかがうかぎりは、いないような気がする。
私たちはかなり迫真の演技ができた、ということなんだろうか。
まあ、半分以上本気だった気もするけれど……。
私はヴィンセントが目を閉じているのを確認してから、そーっと反対側を向く。
あった。まだ、枕元にボタンがある。
私はそれを、サイドチェストに載った花瓶の裏に、そーっとそーっと移動させた。
これで見つからないだろう、と思えたところで、ヴィンセントに声をかける。
「ヴィンセントさま……大丈夫です? いけました?」
目を閉じたまま、きゅっと額に皺を寄せるヴィンセント。
「お前が気にすることでは……いや……」
ヴィンセントはそのまま、じっと固まってしまった。
どうしたんだろう、大丈夫かな、と思いつつも、私は彼の顔から目を離せない。
この人、やっぱり渋い顔が最高に似合う。でも……と思って、私はヴィンセントの眉間に手を伸ばした。この皺が取れたらどんな顔になるんだろう、という興味に負けた。
指先が眉間に触れた瞬間、ヴィンセントはぱちりと目を開け、私を抱き寄せる。
「ごめんなさい……!」
ひぇっとなり、とっさに謝る私。
ヴィンセントは大きくて温かな体で私を包み、真剣に囁いた。
「謝るな」
「えっ……はい。はい……?」
謝らないとなると、何を言ったらいいのだろう。
困った私の頭を、ヴィンセントの手が軽く撫でた。
一度、二度。
大事なものをなぞるように撫でて、彼は言う。
「大事に、させてくれ」
「大事に……?」
私の思考は、ばちんと固まる。
大事に。
私を、大事に。
こんな私を、大事に?
前世ではただの社畜で、仕事もほどほど、容姿はイマイチ、頑張っても頑張っても使い潰されるだけで、趣味はエロゲーで。
そんなどうしようもない私を、大事に?
考えると、頭がぐるぐるしてきてしまう。
心の中にあった硬いものが、どろっと融けてきてしまう。
これってなんだろう。少なくとも、今まで融けたことのない何かだ。
これが融けたら、私はどうなるのかな。
私は、私でいられるのかな。
肌がざわざわするような不安に襲われ、私は慌てて唇を噛んだ。
「エレナ?」
ヴィンセントが少し心配そうに聞いてくる。
優しくされている。間違いなく、優しくされている。
どろり、ますます融けてしまいそうになって、私は、強く、強く唇を噛んだ。
ダメだ。ここで融けたらダメな気がする。
私には役目がある。ヴィンセントを救うという役目がある。
そのためにここにいるのを忘れちゃ駄目だ。
そもそも、ヴィンセントが私に好意的なのは、エレナが親友の娘だからだ。
そうだ――ヴィンセントが大事にしたいのは、私じゃない。
エレナだ。
ヴィンセントが見ているのは、エレナ。
そう思うと、少しだけほっとできた。
何度か呼吸して、冷静さを取り戻して。
ひとまず、私は彼に謝る。
「ごめんなさい、ヴィンセント様」
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