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第八章
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それでも気にしていたのは、トワには少々負い目があったからだ。それはトワも知らないことだが。
幾つ目かの扉をノックした。
今までと違ってなんとなく人の気配を感じる。
やや間があって扉は開かれた。
姿を見せたのはウイだった。
ここはウイの部屋だったかと思ったが、彼は今日はもっとサロンよりを使っていたような気がしていた。
ソウの考えは当たっていた。中にはやはりトワがいて、二人が一緒だと言うことに驚いた。
ウイのしどけないバスローブ姿は、今シャワーを終えたばかりのようだ。
そして、すらりとした白い足に流れている赤い筋ーー血だ、と思った。
それは、先程まで自分とユエの間の『行為』を連想させた。
★ ★
ウイがユエの部屋の中に入る前から、ソウはそこにいた。
部屋の中に注目していたウイは気がつかなかったのだ。
この洋館には表玄関以外にも幾つか外へ通じる扉がある。ソウは館の裏側、黒い薔薇が咲いている場所にある扉から入って来た。
左翼側の長い廊下の途中にある扉だ。
所々に揺らぐ灯りはあるが薄暗い廊下に、ぽっかりと明るい光が漏れ見えていた。
一つの部屋の扉が開け放たれているようだ。
(ユエの部屋か?)
部屋の前に人影。シルエットからウイだとわかる。
(何やってるんだ)
訝しんでゆっくりと近づいて行く。
部屋の中からユエの叫び声が聞こえる。
『あお、あお』とソウを呼ぶ声。そして、声はもう一つ。
(トワが中にいるのか……?! いったい何が)
ウイの背後から様子を伺う。
ユエの上に馬乗りになっているトワの姿が隙間から見える。
(彼奴……っ何やって……っっ)
経緯はわからない。でも、ソウはトワの気持ちに気づいていた。ユエに恋情を抱いていることを。
すぐにウイを押し退けてトワを止めなければ。そう思ったすぐあとに。
(でも……もし……)
ソウは躊躇した。
ここに来てから、ユエの気持ちは『あお』から離れているのではないかと思っていた。自分の中の『恐怖』を取り除いてくれるなら誰でもいいのではないかと。
(誰でもいいのなら……トワだって……)
心臓が激しく音を立てている。
そうじゃないんだと、ユエは自分を愛している、自分だけを必要としている、そう信じたかった。
トワを拒絶して何度も『あお』を呼ぶ。
(そうだ、やっぱり、『ゆい』は……)
それに安堵した。それと同時に試したことを、ユエとーーそして、トワに対して後ろめたく思えた。
ウイを押し退けようとした。その時、ウイの身体は部屋の中に吸い込まれて行った。
ソウは壁に身を寄せて中を盗み見る。
「……もうよせ」
けして大声ではないのに、トワを止める強い意志のある声だ。それはソウには切ない響きがあるように思えた。
そうだ、先程目の前にいた身体は細かく震え、両の拳は白くなる程握られていたでないか。
(ウイは……トワを……)
幾つ目かの扉をノックした。
今までと違ってなんとなく人の気配を感じる。
やや間があって扉は開かれた。
姿を見せたのはウイだった。
ここはウイの部屋だったかと思ったが、彼は今日はもっとサロンよりを使っていたような気がしていた。
ソウの考えは当たっていた。中にはやはりトワがいて、二人が一緒だと言うことに驚いた。
ウイのしどけないバスローブ姿は、今シャワーを終えたばかりのようだ。
そして、すらりとした白い足に流れている赤い筋ーー血だ、と思った。
それは、先程まで自分とユエの間の『行為』を連想させた。
★ ★
ウイがユエの部屋の中に入る前から、ソウはそこにいた。
部屋の中に注目していたウイは気がつかなかったのだ。
この洋館には表玄関以外にも幾つか外へ通じる扉がある。ソウは館の裏側、黒い薔薇が咲いている場所にある扉から入って来た。
左翼側の長い廊下の途中にある扉だ。
所々に揺らぐ灯りはあるが薄暗い廊下に、ぽっかりと明るい光が漏れ見えていた。
一つの部屋の扉が開け放たれているようだ。
(ユエの部屋か?)
部屋の前に人影。シルエットからウイだとわかる。
(何やってるんだ)
訝しんでゆっくりと近づいて行く。
部屋の中からユエの叫び声が聞こえる。
『あお、あお』とソウを呼ぶ声。そして、声はもう一つ。
(トワが中にいるのか……?! いったい何が)
ウイの背後から様子を伺う。
ユエの上に馬乗りになっているトワの姿が隙間から見える。
(彼奴……っ何やって……っっ)
経緯はわからない。でも、ソウはトワの気持ちに気づいていた。ユエに恋情を抱いていることを。
すぐにウイを押し退けてトワを止めなければ。そう思ったすぐあとに。
(でも……もし……)
ソウは躊躇した。
ここに来てから、ユエの気持ちは『あお』から離れているのではないかと思っていた。自分の中の『恐怖』を取り除いてくれるなら誰でもいいのではないかと。
(誰でもいいのなら……トワだって……)
心臓が激しく音を立てている。
そうじゃないんだと、ユエは自分を愛している、自分だけを必要としている、そう信じたかった。
トワを拒絶して何度も『あお』を呼ぶ。
(そうだ、やっぱり、『ゆい』は……)
それに安堵した。それと同時に試したことを、ユエとーーそして、トワに対して後ろめたく思えた。
ウイを押し退けようとした。その時、ウイの身体は部屋の中に吸い込まれて行った。
ソウは壁に身を寄せて中を盗み見る。
「……もうよせ」
けして大声ではないのに、トワを止める強い意志のある声だ。それはソウには切ない響きがあるように思えた。
そうだ、先程目の前にいた身体は細かく震え、両の拳は白くなる程握られていたでないか。
(ウイは……トワを……)
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