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第八章
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しおりを挟む今日もいつもと変わらず、薔薇が咲き乱れてるーー。
トワはバルコニーの手摺りに寄りかかり、薔薇の園を眺めていた。
朝露含む朝も早めの時間。
色とりどりの薔薇の中で佇むユエを見つける。しばらくして、ソウが来て何か話し始めた。
それを思いの外平静な心持ちで見ながら。
(ウイは何処に行ったんだ……)
数日前からウイの姿を見掛けなくなった。
(あの部屋にも戻って来ない……)
ウイが部屋の移動を止めて、一つ所に留まったのは、トワが訪れやすいように。
トワにもそれがわかっていた。
(ウイは……俺を……)
あの日。
ユエを乱暴しそうになった日。
ウイに腹立ち紛れに『お前が代わりになれよ』と言った。彼はそれに『いいよ』と答えた。
(あの時初めて気づいたんだ……俺を見る目に)
そして、過去の話を語る。
彼の『想い』はそこからずっと続いているのだと知った。
(歳は四つ程上の筈……なのに、なんだか可愛い男だ)
ユエにしか興味のなかったトワが、初めて『ウイ』という人間の存在を知った。
少しずつ、自分の心が彼に傾いていることは、トワ自身も感じていた。
それでも、トワにとって『ユエ』は特別だ。ウイがトワを想い始めるよりもっと前から、トワはユエを想っていた。
自分の想いが叶わないからと言って、すぐに切り替えられものでもない。
それでも。
ウイとの時間は自分にとって心地好いものであることには変わりない。
物思いに耽る彼の耳に、車のエンジン音が聞こえた。
見れば、薔薇の中にはユエ一人。
恐らく石畳に停まっている車にはソウが乗っているのだろう。
(買い出しか……)
この洋館の住人で、外に出れるのはソウだけ。そして、ソウは必ず戻ってくる。
何故それ以外の人間は外に出れないのか。試した訳でもないのにどうしてだか、そうとしか考えられないのだ。
自分で自分を雁字搦めにでもしているみたいに。
車が門から出ていくと、ユエはゆっくりと歩きだし、館の裏側のほうへと向かっていく。
血のように真っ赤な薔薇。
そして、死を連想させるような、それでいて、高貴な黒薔薇。
館の裏側には、そんな薔薇が咲いていてる。
ユエに贈る為の深紅の薔薇を探しに行ったことがある。
でも黒薔薇のほうには近寄る気がしなかった。
手前の薔薇を一輪摘んで館に戻った。
手は棘で傷ついた。
そうまでしても、結局は渡せなかったんだ。
(俺からの薔薇なんて必要ない)
あの時そう思った。
(そう言えば、あの時それをウイに押しつけたっけ……今度会えたら……そうだなぁ、薄いピンクにも薄い紫にも見える薔薇……確かそんなのがそこにあったような気がする……)
ユエの背から視線を外し、柔らかな色合いの薔薇に目を移した。
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