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第六章
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噛みつくような口づけを繰り返し、引き千切らんばかりに舌を絡め取る。
そうされてもなお、トワのことは認識せずに、ただ苦しさから逃れようとずり上がる。
こうまでしてもユエが自分を見ていないことにトワ自身も気づいていた。その悲しみと怒りで、更に攻撃的になる。
口づけを解けば、途端に「あお。あお」と自分ではない名を口にするのを聞きながら、首に、喉許に、噛み痕をつけていった。
それだけでこの気持ちが納まる筈もない。
欲望のままに、紅く染まったシャツの襟を掴み、力任せに引き裂いた。
「トワ」
顕になった白い肌に歯を立てようとした瞬間、片側の肩に強い力を感じた。
彼は動きを止めた。
ユエに馬乗りになったまま顔だけを振り向かせる。
いつも軽い印象を与えるウイの、真剣な眼差しにぶつかった。その瞳の中に、己への怒気や哀れみが揺れている。
「……もう、よせ」
けして怒鳴るわけでもない。
低く静かな声には、しかし、従わせるような圧があった。
急に熱病のような興奮が覚め、ユエのことを放りだして立ち上がる。
「……だな」
ウイに背中を向けたままそう言うとゆっくりと扉のほうに歩きだした。
「ユエ!」
出ていくトワとぶつかりそうな勢いで、ソウが部屋に飛び込んできた。
すれ違い様互いに一瞥をくれた。
ソウがユエに走り寄って抱き起こす。
「あお、あお、あお」
何度も名を呼びながら、ユエはソウに縋りついた。
トワのことは全く認識も出来なかったのに。
今トワはこの声をどういう気持ちで聞いているのだろう。
そう思うと、ウイの胸はきりっと傷んだ。
「ったく、遅いんだよ」
そんなことを言うつもりはなかったが、ぼそっと口から零れてしまった。
(部屋隣じゃねぇか。なんでお前が先に来ない。お前が先に来てりゃこんなことには……)
そこでふと気づく。
いやに薄汚れたソウの姿に。
(…………)
「何があったんだ」
血塗れのユエを抱きながら顰めた顔をウイのほうに向ける。
ウイは何も言わず顎を刳って、少し開いた天蓋のカーテンの向こうを示した。
自分自身も今さっき血染めのシーツをちらっと見たばかりだ。
ソウは『何か』を察したように、ちらっとベッドのほうに視線を送った。
(お前らはお前らでなんとかしろ。オレは……)
無言で二人の脇をすり抜けて行った。
★ ★
ウイは躊躇いがちにその扉を叩いた。
ユエの部屋を出て長い廊下を見ると、ちょうど人影が扉の向こうに消えていったところだった。
ウイは自分の部屋の前を通りすぎ、一つの扉の前に立った。
すぐに扉を叩くことも、そのまま入ることも出来ずに立ち尽くす。
ユエが『あお』の名を呼んで縋りついた時、彼はどんなに苦しげな顔をしていたのだろうか。実際には見えなかったその顔を思い浮かべては胸を傷めた。
果たして自分が今トワに向き合うのは、正解か。
そうされてもなお、トワのことは認識せずに、ただ苦しさから逃れようとずり上がる。
こうまでしてもユエが自分を見ていないことにトワ自身も気づいていた。その悲しみと怒りで、更に攻撃的になる。
口づけを解けば、途端に「あお。あお」と自分ではない名を口にするのを聞きながら、首に、喉許に、噛み痕をつけていった。
それだけでこの気持ちが納まる筈もない。
欲望のままに、紅く染まったシャツの襟を掴み、力任せに引き裂いた。
「トワ」
顕になった白い肌に歯を立てようとした瞬間、片側の肩に強い力を感じた。
彼は動きを止めた。
ユエに馬乗りになったまま顔だけを振り向かせる。
いつも軽い印象を与えるウイの、真剣な眼差しにぶつかった。その瞳の中に、己への怒気や哀れみが揺れている。
「……もう、よせ」
けして怒鳴るわけでもない。
低く静かな声には、しかし、従わせるような圧があった。
急に熱病のような興奮が覚め、ユエのことを放りだして立ち上がる。
「……だな」
ウイに背中を向けたままそう言うとゆっくりと扉のほうに歩きだした。
「ユエ!」
出ていくトワとぶつかりそうな勢いで、ソウが部屋に飛び込んできた。
すれ違い様互いに一瞥をくれた。
ソウがユエに走り寄って抱き起こす。
「あお、あお、あお」
何度も名を呼びながら、ユエはソウに縋りついた。
トワのことは全く認識も出来なかったのに。
今トワはこの声をどういう気持ちで聞いているのだろう。
そう思うと、ウイの胸はきりっと傷んだ。
「ったく、遅いんだよ」
そんなことを言うつもりはなかったが、ぼそっと口から零れてしまった。
(部屋隣じゃねぇか。なんでお前が先に来ない。お前が先に来てりゃこんなことには……)
そこでふと気づく。
いやに薄汚れたソウの姿に。
(…………)
「何があったんだ」
血塗れのユエを抱きながら顰めた顔をウイのほうに向ける。
ウイは何も言わず顎を刳って、少し開いた天蓋のカーテンの向こうを示した。
自分自身も今さっき血染めのシーツをちらっと見たばかりだ。
ソウは『何か』を察したように、ちらっとベッドのほうに視線を送った。
(お前らはお前らでなんとかしろ。オレは……)
無言で二人の脇をすり抜けて行った。
★ ★
ウイは躊躇いがちにその扉を叩いた。
ユエの部屋を出て長い廊下を見ると、ちょうど人影が扉の向こうに消えていったところだった。
ウイは自分の部屋の前を通りすぎ、一つの扉の前に立った。
すぐに扉を叩くことも、そのまま入ることも出来ずに立ち尽くす。
ユエが『あお』の名を呼んで縋りついた時、彼はどんなに苦しげな顔をしていたのだろうか。実際には見えなかったその顔を思い浮かべては胸を傷めた。
果たして自分が今トワに向き合うのは、正解か。
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