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第四章
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トワがユエの腕に触れている。
話している言葉は聞き取れないが、二人とも笑みを浮かべていて、仲睦まじく見える。
「なんだ、あれ。オレにはあんな顔見せないくせに」
ぴんっと腹立ち紛れに指に挟んだ煙草を飛ばす。
「あ、いけねいけね」
慌てて煙草の火を足で揉み消してから拾う。
「火事になったりしたら大変だよね~」
誰が見ている訳でもないのに戯けたような顔をする。
しかし、すぐにその表情は消えていった。
「…………オレにも笑ってみせろよ、ばーか」
きゅっと眉間に皺を寄せて、今来た道を引き返した。
「そう言えば、二、三日前からエリザの姿見えない」
エリザにつけられた傷を見ながらユエが言った。
表情はなく、寂しいのか心配しているのかわからない。
袖を元に戻すとトワは彼から手を離した。
(ずっと触れていたい)
そう思いながら。
「迷子になるといけないから、部屋から出してないんだろ?」
「うーん。そうなんだけど。この間部屋変えて……」
ユエはサロンから出た後、何度か部屋を変えていた。
記憶が曖昧なのか、そこで首を傾げる。
「……わかった。俺も探してみるよ」
(探しても……無駄かも知れないが)
脳裏に浮かんだ言葉と、その理由をユエに言うことは出来なかった。
「ーーソウは?」
話題を変えたい一心で、ユエの前では口にしたくない男の名前を言う。
「従妹迎えに行ってるよ」
自分でそう言った途端、ユエは不機嫌そうに表情を曇らせた。
その変化に痛みを覚えながらも平静を保つ。
「ああ。ソウの家に一緒に住んでるとかいう」
「家族と、だよ。まあ、ソウのご両親亡くなってるから、今は二人だけど。大学が夏休みになったからここに来たいって」
それぞれの事情は誰も深くは追及しない。言いたくなければ言わなくていい。それがBLACK ALICEのルールだ。
ただ一緒にここで過ごすに当たり、ソウは少しだけ自分のことを話した。
(たぶん、ユエは前から聞いていたんだろうな)
両親を亡くした従妹をソウの親が引き取った。メンバーの中には一人で暮らしている者もいれば、ソウのように実家暮しの者もいる。
独りっ子のソウは、その従妹を妹のように可愛がっていた。
そして数年が経ち、ソウの両親も事故で亡くなり、毎日帰宅するわけではないが、実質二人暮らしとなったのだ。
彼らがこの洋館に身を隠すことになった時、大学に通う従妹も一緒に来たがっていたが、大学にはちゃんと行け、というソウの言葉に従った。
「大学生なんだから、一人で生活できるだろうに」
「不服そうだな」
「別に」
と言うその口調自体がもう不服そのものであるのには、トワは苦笑いするしかなかった。
(……来たことを後悔することにならなければいいけど)
話している言葉は聞き取れないが、二人とも笑みを浮かべていて、仲睦まじく見える。
「なんだ、あれ。オレにはあんな顔見せないくせに」
ぴんっと腹立ち紛れに指に挟んだ煙草を飛ばす。
「あ、いけねいけね」
慌てて煙草の火を足で揉み消してから拾う。
「火事になったりしたら大変だよね~」
誰が見ている訳でもないのに戯けたような顔をする。
しかし、すぐにその表情は消えていった。
「…………オレにも笑ってみせろよ、ばーか」
きゅっと眉間に皺を寄せて、今来た道を引き返した。
「そう言えば、二、三日前からエリザの姿見えない」
エリザにつけられた傷を見ながらユエが言った。
表情はなく、寂しいのか心配しているのかわからない。
袖を元に戻すとトワは彼から手を離した。
(ずっと触れていたい)
そう思いながら。
「迷子になるといけないから、部屋から出してないんだろ?」
「うーん。そうなんだけど。この間部屋変えて……」
ユエはサロンから出た後、何度か部屋を変えていた。
記憶が曖昧なのか、そこで首を傾げる。
「……わかった。俺も探してみるよ」
(探しても……無駄かも知れないが)
脳裏に浮かんだ言葉と、その理由をユエに言うことは出来なかった。
「ーーソウは?」
話題を変えたい一心で、ユエの前では口にしたくない男の名前を言う。
「従妹迎えに行ってるよ」
自分でそう言った途端、ユエは不機嫌そうに表情を曇らせた。
その変化に痛みを覚えながらも平静を保つ。
「ああ。ソウの家に一緒に住んでるとかいう」
「家族と、だよ。まあ、ソウのご両親亡くなってるから、今は二人だけど。大学が夏休みになったからここに来たいって」
それぞれの事情は誰も深くは追及しない。言いたくなければ言わなくていい。それがBLACK ALICEのルールだ。
ただ一緒にここで過ごすに当たり、ソウは少しだけ自分のことを話した。
(たぶん、ユエは前から聞いていたんだろうな)
両親を亡くした従妹をソウの親が引き取った。メンバーの中には一人で暮らしている者もいれば、ソウのように実家暮しの者もいる。
独りっ子のソウは、その従妹を妹のように可愛がっていた。
そして数年が経ち、ソウの両親も事故で亡くなり、毎日帰宅するわけではないが、実質二人暮らしとなったのだ。
彼らがこの洋館に身を隠すことになった時、大学に通う従妹も一緒に来たがっていたが、大学にはちゃんと行け、というソウの言葉に従った。
「大学生なんだから、一人で生活できるだろうに」
「不服そうだな」
「別に」
と言うその口調自体がもう不服そのものであるのには、トワは苦笑いするしかなかった。
(……来たことを後悔することにならなければいいけど)
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