黒薔薇の微笑

さくら乃

文字の大きさ
上 下
2 / 77
第一章

 1

しおりを挟む


「ねぇー、こっちの道であってる? なんか周り人いなくなったけど」
 と美雪みゆが言う。緩いウェーブのかかったロングヘアに、ふあっと可愛らしい雰囲気のワンピース。
「んー? 間違えたかな」
 スマホを見ながらぺろりと舌を出すのは、同じ顔をした美華みか。赤い色のショートヘアに、デニムのショートパンツ。
 歳の頃は、二十代前半。顔は同じなのに、受ける印象はだいぶ違う二人。
「えー、ちょっと、大丈夫なのー?」
「大丈夫じゃないかも。ここスマホ使えないみたい」
 えへっと言いながらも少し焦った表情をしている。
「とりあえず……来た道戻るか」
「そうだねー」
 美雪も同意する。
 同時にくるりと回転した。

 その時突然、強い風が吹いた。
「きゃっ」
 美雪が舞い上がりそうなワンピースの裾を懸命に押さえている。
「あーびっくりした! すごい風だったな」
「うんーーあれー?」
「ーーだな」
 二人は顔を見合せて頷いた。
「なんだろーなんかいい匂いするよね、お花の匂いみたいな」
 風は一瞬で止んだが、を運んで来た。
「こっちからだ」
 くるっとまた美華が身体の向きを変え、香りのするほうへと歩いて行く。
「美華ぁ~ダメだよぉ。また迷子になっちゃう」
 しかし、彼女は美雪の言葉が聞こえないかのように、そのまま鬱蒼とした木々の間に隠れてしまった。
「んもぉ!」
 一人で迷子になるより、二人で迷子になるほうがまし! そう考え、慌てて美雪も追いかけた。

 美華はすぐに見つかった。
 木々に入って数メートルのところで立ち止まったいる背が見えた。
「美華ぁ~」
 息を切らし、美華の肩に手を置く。

 その肩越しに見えたものは。

「あ…………」
 それ以上言葉が出ないと言う顔をして眼前を見つめる。



 色取りどりの。

 一面の薔薇。

 風に吹かれ、舞い上がる花弁はなびら

 白い柵にも、門にも絡みついている花枝。

 そして、その奥。

 遠い先に見えるのは、古めかしくも豪奢な館ーーーー。



「何ここ……すごい」
 まるでいばらが巻きついたように動かなかった二人の身体が、漸く少し解れた。
「薔薇園とか? なんか中世のお城みたいのあるし、テーマパークとか?」
 雰囲気に飲まれているのはわかっているのに、空元気を出す美華に「えー」と不平の声を上げる。
「……誰かのお屋敷とか? お姫様とか住んでそう」
「お姫様? そっかー? なんかちょっと不気味な……」
 こっちが美華の本音らしい。
 怖いくらいに美しい。
 それは美雪も同意見だった。

 しかし、そう思いながらも、魅入られたように二人は近づいていく。
「いたっ」
「大丈夫? 美雪?」
「棘が……」
 いつの間に鉄製の白い柵を掴んで中を見ていた。柵に巻きつく花枝の棘が、彼女の白い指先に傷をつくる。
 美雪はちゅっと自分の指を吸った。

「どうしました? お嬢さん」
「えっ」
 顔を上げると柵の向こうに一人の男が立っていた。

 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

お客様と商品

あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

処理中です...