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番外編〜はじまりの裏側で〜
エピソード5
しおりを挟む高校を卒業したら家を出よう、そう決めていた。
それは中学の体育教師になりたいと思い始めていたころから考えていたことだ。当然父親はそれを良しとしないだろう。
だから、俺は家を出る。
その為に今までのレベルより高い高校を目指したかった。
そして、それは叶った。
それなのに。
まさかこの高校に『龍惺会』のメンバーがいるとは。
『カナ、お前知ってたろ、何で言わなかったんだ』
明を睨みつけると、
『え、だって~もし言わなかったら、他のガッコ行ってたろ~それじゃあボクがつまらないじゃーん』
へらっと笑って言っていた。
そんなわけで俺の高校生活は、入学式から躓いていた。
入学式では門の前で待ち伏せされ出席せずに帰った。学校側には「体調が悪くて」と連絡をした。
その後もやはり待ち伏せされるので、登校時間をずらしたり校門以外のところから入ってみたりなど、とにかく目立たないようにしてみたが効果はなく、気がつけば俺の周りにはこの進学校でも『余り良くない感じ』の連中が集まってしまった。
俺は諦めて普通に登校することにした。
一年の廊下を勝手に出来た集団で歩けばそりゃあ目立つだろう。
(あれ……まさかな……)
何気なく振り向いた。こちらをちらちら見る一年の中に見知った顔が見えたような気がした。
駅まで偶然出会った明とぼちぼち学校へ歩いて行く。
いつものごとく隣でなんか話しているが、俺は全く別のことを考えていた。
考えないようにしているのに、昨日から度々浮上する。
もう三年会っていない、七星のこと。
(昨日見かけたのは……まさか……本当に? ナナならもっと……)
などと頭の中でごちゃごちゃ言っていると、隣にいるとばかり思っていた明がいない。
俺はいつの間にか学校の敷地内に入っていて、明は少し後ろのところに立ち止まっている。背の高い明の陰からちらちらと制服が見える。
「あー仲良しこよしでちゅかー。だめでゅよー、ちゃんと周り見なくちゃー」
(何やってんだ、彼奴)
俺は大股で明の後ろに近寄った。
「絡むな、カナ」
──俺は後悔した。そのまま放っておけば良かった。そのままにしておいても、明がそんな酷いことをする筈もないんだから。
そこには驚いた顔で俺を見る──七星がいた。
「お前……」
少し大人っぽくなったが、顔は余り変わっていない。前髪が目を半分隠している。
これは額にある傷を隠す為か。
ずきんっと胸が痛んだ。
「……なんでここに」
俺は思わずちっと舌打ちをしてしまった。
それは七星にじゃない、俺自身にだ。
(なんで、この高校には入らないと思ったんだろう。ナナは俺よりずっと頭が良くて、もっとレベルの高い学校に行くんだと。勝手に……)
七星の顔が悲しそうになる。
(泣くな……ナナ……)
そう言って頭を撫でてやりたかったが、そんな顔をさせているのは自分だった。
そして、俺は気づいてしまったんだ。
会わなければ、時と共に風化すると思っていた七星への想いは、まだ俺の中にあるということを。
七星を壊してしまうくらいの、歪んだ想いが。
俺は明の腕を引っ張りその場を去った。
七星がこちらをずっと見ているのを感じながら。
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