はじまりの朝

さくら乃

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番外編〜はじまりの裏側で〜

エピソード3

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 卒業を数か月後に控え、まさかこんなことになるとは思わなかった。
 七星には一生消えない傷が残り、母親は家を出た。
 俺はナナと離れることを決意する。
 俺の妙に正義感とやりすぎる性質が、七星をまた危ない目に合わせるといけないから。
『ただの幼馴染』だった俺の七星への想いが変化しつつあると感じるから。

 
(俺の大事なナナを……俺のせいで傷つけたくない……)


『あの日』から俺は七星にそっけない態度を取り始めた。それでも七星は何度かいつものように話しかけてくれたが、それも次第になくなっていた。
 でも七星はそんな俺をずっと見ていてくれていた。俺はそれに気づいていた。何故なら、俺も見ていたからだ。
 七星には気づかれないように。
 卒業してしまえば、偶然見かけることもなくなる。それまでは。



 ──そして、俺たちは今日卒業を迎える。



 紺色のブレザーにグレイのズボン。
 見慣れない姿にどきっとする。中学の制服姿はどんなのだろう。間近で見ることが叶わない姿を想像する。
 卒業証書授与の為の道筋を挟み、俺たちは向かい合わせに座っていた。
 目を合わさないように、それでも見詰めていた。
 この目にその姿を焼きつけるように。
 七星も俺を見詰めてくれている。
 俺は泣きそうになった。


 両親とも来ない卒業式。
 クラス写真を撮り終え、俺は校門に向かった。あちこちで写真を撮り合っている奴らの間を潜り抜け。
 俺が一緒に撮りたい奴は七星しかいない。それが叶わないならいる意味もない。

 校門を通り過ぎ、俺は立ち止まる。振り返って校舎を仰ぐ。
 七星と一緒の、楽しかった日々だけを思い出しながら。


 どれだけ経っていたのか、気づくと遠くに──七星がいた。
 目が合う。
 
 しまった、と思った。
 俺は自分の迂闊さを呪った。

 こちらに来ようとしているのか。
 泣きそうなのを俺はぐっと堪える。たぶん、俺は酷く険しい顔をしているに違いない。

 七星はこちらには来なかった。
 でも、時間が止まったように見詰め合う。

 俺の口は自然とその言葉を形作った。

『ナナ』

 と。
 


 俺の七星への気持ちが──ただの『幼馴染』に戻ったら、また七星と一緒にいることができるだろうか……。


 
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