155 / 163
樹編~花詞~
4
しおりを挟む誕生日のプレゼントは結局あの時目についた、白い小さな花がたくさんついた鉢植えにした。
勿論あの花屋で購入。
店長に揶揄われながら。
そして、クリスマス。
クリスマスプレゼントは決まっていた。
手袋だ。
七星の手は夏でも割とひんやりとしているが、冬には氷のように冷たくなる。昔からそんな感じで、それは再会してからも変わらなかった。
再会した年のクリスマスイブ、二人で並んで歩いた。珍しく雪がちらついて、しんと冷える夜だった。七星が自分の手に息を吹きかけてた。
(ああ、手が冷たいんだろう。昔と変わらない)
そう思ったら俺の手で温めてやりたくなった。まだ七星に対して距離を置いていて、堂々と「温めてやる」とは言えず『早く帰る』ということに託けて手を握った。
俺より小さくて冷たい手。
心臓が跳ね上がるのを抑えながら、その手を引いて歩いた。
ふんわりとした温かそうな白い毛糸の手袋。
それから──ストックという花。
本当は手袋だけのつもりだったのに。俺はまたしても花を添えてしまった。
花言葉は『愛情の絆』『求愛』など。
そして、白いストックには『ひそやかな愛』。ピンクのストックには『ふくよかな愛情』という意味があるらしい。
しかし、あくまで主役は手袋だ。
ということにしておこう。
★ ★
別に、花言葉で想いを伝えようと思ったわけじゃない。
だって、そうだろ?
贈る相手は俺と同じ男で、特別花に興味もなさそうで、花言葉なんてそれを上回るだろうし。
ただ言えない自分の『想い』を、この溢れ出してしまう『想い』を『花言葉』の中に閉じ込めただけ。
それに。
七星が俺と同じように俺を想ってくれるなんて、そんなのは夢のまた夢だ。
なにしろ『親友』だから。
七星にはきっと、七星よりも小柄な可愛い女の子が似合う。
それでも。
俺が大学に合格して無事卒業することが出来たら。
俺は俺の気持ちを伝えよう。
きっと七星なら引かないでくれる。俺を許して、『親友』という座にいさせて貰える。
それを信じて。
──だから、俺は驚いたんだ。
赤い薔薇の花束を抱えた七星を見て。
何か確信があって外に出たわけじゃない。
ただ、七星の卒業式の日の朝偶然出会えたように、今日も偶然を期待しただけのこと。
奇しくも、余り雪の積もらないこの地域に同じように雪が積もった──まるで、あの日と繫がっているかのように。
そして──奇跡は起きた。
51
お気に入りに追加
93
あなたにおすすめの小説
普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。
かーにゅ
BL
「君は死にました」
「…はい?」
「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」
「…てんぷれ」
「てことで転生させます」
「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」
BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。
彼の理想に
いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。
人は違ってもそれだけは変わらなかった。
だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。
優しくする努力をした。
本当はそんな人間なんかじゃないのに。
俺はあの人の恋人になりたい。
だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。
心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。
地味で冴えない俺の最高なポディション。
どらやき
BL
前髪は目までかかり、身長は160cm台。
オマケに丸い伊達メガネ。
高校2年生になった今でも俺は立派な陰キャとしてクラスの片隅にいる。
そして、今日も相変わらずクラスのイケメン男子達は尊い。
あぁ。やばい。イケメン×イケメンって最高。
俺のポディションは片隅に限るな。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)
かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。
はい?
自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが?
しかも、男なんですが?
BL初挑戦!
ヌルイです。
王子目線追加しました。
沢山の方に読んでいただき、感謝します!!
6月3日、BL部門日間1位になりました。
ありがとうございます!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる