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樹編~花詞~
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(だから……彼女じゃないから……)
もはや心の中でしか言えなかった。
その女性スタッフの話は続く。
「花言葉は本数や色にも意味がある。彼女、可愛い感じ? だったらチューリップなんかもいいかなぁ。ピンクのチューリップは『愛の芽生え』『誠実な愛』なんて言葉がついている。きみらの年齢くらいの可愛い恋人たちなら、こっちのが合ってるかも」
(彼女じゃないけど確かに可愛い奴ですっ。そりゃあもうめちゃくちゃに。誰にも見せたくないくらいにはっ)
止まらない話を聞きながら、俺は口に出させずに心の中で叫んだ。
柄にもなく『花言葉』に興味を持った俺はネットであれこれ調べ、ふんわり思っていたことを実現すべく卒業式の前日再びその花屋を訪れたのだった。
ちなみに俺の相手をしていたスタッフは店の店長で、店の名前は『花詞』だった。
ピンクのチューリップ『誠実な愛』
四本のチューリップ『あなたを一生愛します』
それから。
ジャスミン『あなたと一緒にいたい』
これは店長のオススメ。薄いピンクや白い小さな花がたくさんついたいい匂いのする花だった。花束全体を見ても可愛らしく、七星にぴったりだと思った。
相手が彼女ではないことは、いろいろ面倒なので言っていない。
「二度しか会ってないのによく覚えてますね~」
「こんなイケメンちゃん、二度も会ったら忘れないよ~。DK一人で来るのも珍しいし」
「はあ……」
つい店の前で止まってしまったことを後悔する。
「どうだった? 卒業祝いの花束。彼女に喜んで貰えた?」
「ええ、まあ」
(彼女じゃないけど)
「今度は? 誕生日?」
「えっ」
図星過ぎてどきどきした。
「……何にしようか悩んでて」
「そうかぁ。花束もいいけど、鉢植えなんかもいいかも知れないね。ずっと育てて貰えるような」
花をあげることが決定していて、何の花にするかを悩んでいる。そう取られたのだろうか。
「あ、や、そうじゃ」
言い訳しようと思ったが、やっぱり面倒になってやめる。こんなこと通りすがりの花屋の店長に言って何になる。
小さく溜息をついて然りげ無く視線を逸らすと、店先に並んだ花の一つに目が止まった。
『ユーフォルビア・ダイアモンドフロスト 君にまた会いたい』
白い鉢にこんもりと白い小さな可愛い花をたくさんつけた植物だった。
(君にまた会いたい……ナナ……)
それはまさに俺の心そのものだった。
「少年?」
「あ……」
一瞬自分の世界に入り込んでいた俺を不思議そうに見ている目とぶつかった。
なんとなく照れくさくなり、
「俺、もう行かなきゃ」
そそくさと立ち去る。実際、講習開始時間までそんなにない。
「いってらっしゃい。またおいで~」
元気な声に見送られた。
もはや心の中でしか言えなかった。
その女性スタッフの話は続く。
「花言葉は本数や色にも意味がある。彼女、可愛い感じ? だったらチューリップなんかもいいかなぁ。ピンクのチューリップは『愛の芽生え』『誠実な愛』なんて言葉がついている。きみらの年齢くらいの可愛い恋人たちなら、こっちのが合ってるかも」
(彼女じゃないけど確かに可愛い奴ですっ。そりゃあもうめちゃくちゃに。誰にも見せたくないくらいにはっ)
止まらない話を聞きながら、俺は口に出させずに心の中で叫んだ。
柄にもなく『花言葉』に興味を持った俺はネットであれこれ調べ、ふんわり思っていたことを実現すべく卒業式の前日再びその花屋を訪れたのだった。
ちなみに俺の相手をしていたスタッフは店の店長で、店の名前は『花詞』だった。
ピンクのチューリップ『誠実な愛』
四本のチューリップ『あなたを一生愛します』
それから。
ジャスミン『あなたと一緒にいたい』
これは店長のオススメ。薄いピンクや白い小さな花がたくさんついたいい匂いのする花だった。花束全体を見ても可愛らしく、七星にぴったりだと思った。
相手が彼女ではないことは、いろいろ面倒なので言っていない。
「二度しか会ってないのによく覚えてますね~」
「こんなイケメンちゃん、二度も会ったら忘れないよ~。DK一人で来るのも珍しいし」
「はあ……」
つい店の前で止まってしまったことを後悔する。
「どうだった? 卒業祝いの花束。彼女に喜んで貰えた?」
「ええ、まあ」
(彼女じゃないけど)
「今度は? 誕生日?」
「えっ」
図星過ぎてどきどきした。
「……何にしようか悩んでて」
「そうかぁ。花束もいいけど、鉢植えなんかもいいかも知れないね。ずっと育てて貰えるような」
花をあげることが決定していて、何の花にするかを悩んでいる。そう取られたのだろうか。
「あ、や、そうじゃ」
言い訳しようと思ったが、やっぱり面倒になってやめる。こんなこと通りすがりの花屋の店長に言って何になる。
小さく溜息をついて然りげ無く視線を逸らすと、店先に並んだ花の一つに目が止まった。
『ユーフォルビア・ダイアモンドフロスト 君にまた会いたい』
白い鉢にこんもりと白い小さな可愛い花をたくさんつけた植物だった。
(君にまた会いたい……ナナ……)
それはまさに俺の心そのものだった。
「少年?」
「あ……」
一瞬自分の世界に入り込んでいた俺を不思議そうに見ている目とぶつかった。
なんとなく照れくさくなり、
「俺、もう行かなきゃ」
そそくさと立ち去る。実際、講習開始時間までそんなにない。
「いってらっしゃい。またおいで~」
元気な声に見送られた。
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