142 / 163
第二十六章
2
しおりを挟む『カナと日下部はつき合っている』
樹からその話を聞いたのは修学旅行の時だから、もう一年以上も前のことだ。
「えっと……」
どう答えるのが正解なのか。
大地には聞かないでやれ、とあの時樹は言った。だから、この話には触れたことはない。このまま知らないふりをしたほうがいいのか。
僕は驚きはしたが、でも一方で納得もいった。二人の醸し出す雰囲気がだんだん違って来るのを感じていたから。
それに自分も。
男である七星は、やっぱり男である樹のことを好きだから。それは友だちの好きとは違う。
「……言わなくてもいいよぉ」
明が優しい笑みを浮かべながら言った。
たぶん顔に全部出てしまっているのだろう。
「あのコがその話に触れたくないから黙っててくれたんだよね。ありがとう」
いつものように頭を撫でてくれる。
「……ボクらもそうだから。ななちゃんの気持ちも前からわかってたんだよ」
「メイさん」
僕が樹を想う気持ちはもう二人にはわかっていたのか。
それなら樹はどうなんだろう。
(バレバレで実は引いてる……とか? それとも思いも寄らな過ぎてまったく気づいてないとか?)
(彼女いたくらいだし……男を好きになるなんてありえないよね)
「ボクらはななちゃんの味方だからね。二人は今はどんな感じなの」
(どんな……感じか……)
本当は涙が出そうなくらい切なさを感じているけれど。
僕は笑った。
「どうやら『親友』に収まったようです!」
途端に憐れむような、労るような眼差しで見られた。
「アイツ、マジでにぶちんだから」
ぎゅっと抱き締められ、またよしよしと頭を撫でられる。
本当に涙が出てきそうになったけれど。
「ま……お互いさまってヤツか」
ぼそっと声が降ってきた。
「えっ?」
なんのことだろうと思った時。
「こらーっ、何やってんだーっっ」
そんな怒鳴り声と共にドアがバーンっと開いた。
あっという間にまた別の腕に抱き締められる。
「俺の七星にっ」
「うぁっ、また、あんたそんなこと言って」
二人にぎゅうぎゅう抱き締められて、涙は出ずに終わった。
ついでにさっき明が言ったことも聞きそびれた。
でも。
相変わらずの二人に酷くほっとした。
★ ★
僕は大学生活に慣れるのに忙しくて。
瞬く間に季節は、春から夏へと変わって行く。
ほっと一息吐く時に、ふと樹に会いたくなる。
でも、明が言うところの『一か十しかない』樹は、あの時言った言葉通り僕に「会おう」とも言わないし、会いに来ることもない。
理由もわからず離れて行って交わることのなかったあの数年間と、なんのわだかまりもなく会えるのに会わない今とどちらが辛いだろうか。
あの時は何もかも諦めていた。樹を想う気持ちも今のほうが強い。
だから、今のほうがあの時よりも辛いかも知れない。
でも連絡だけは取り合っている。
ラインで。時々通話もする。
だから、樹が会ってもいいと思える時まで、僕は待つことが出来るんだ。
33
お気に入りに追加
93
あなたにおすすめの小説
彼の理想に
いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。
人は違ってもそれだけは変わらなかった。
だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。
優しくする努力をした。
本当はそんな人間なんかじゃないのに。
俺はあの人の恋人になりたい。
だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。
心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。
地味で冴えない俺の最高なポディション。
どらやき
BL
前髪は目までかかり、身長は160cm台。
オマケに丸い伊達メガネ。
高校2年生になった今でも俺は立派な陰キャとしてクラスの片隅にいる。
そして、今日も相変わらずクラスのイケメン男子達は尊い。
あぁ。やばい。イケメン×イケメンって最高。
俺のポディションは片隅に限るな。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
眺めるほうが好きなんだ
チョコキラー
BL
何事も見るからこそおもしろい。がモットーの主人公は、常におもしろいことの傍観者でありたいと願う。でも、彼からは周りを虜にする謎の色気がムンムンです!w
顔はクマがあり、前髪が長くて顔は見えにくいが、中々美形…!
そんな彼は王道をみて楽しむ側だったのに、気づけば自分が中心に!?
てな感じの巻き込まれくんでーす♪
王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)
かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。
はい?
自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが?
しかも、男なんですが?
BL初挑戦!
ヌルイです。
王子目線追加しました。
沢山の方に読んでいただき、感謝します!!
6月3日、BL部門日間1位になりました。
ありがとうございます!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる