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第二十六章
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しおりを挟む『当たり前だろ──ずっと一緒にいられる、いや、いるよ』
樹はそう言った。
そして、その日別れる家の前で。
「いっくん……もし、勉強分からないところとかあったら……」
ちょっと図々しいかなと思い、おずおずと言い出した。
小学生の時、高校二年生の時、樹に教えていたことはあったけど。僕からこんなことを言い出すのは、分不相応なのではないかと。
「ありがとう」
樹はそう言って笑った。
「──でも、これは自分の力で頑張るよ。ナナに追いつく為に。だから──」
幸せな時間を過ごした日の。
最後の瞬間に樹が言った言葉。
僕はその言葉を聞いて、固まってしまった。
★ ★
ぶひゃひゃひゃー。
僕の目の前に。
漫画みたいな笑い方をして、目に涙を溜めた明がいた。
「あ、い……ら、し」
がはははは。
笑い過ぎでちゃんと喋れないらしい。
僕はしゅんとした顔でそんな明を見ていた。
一頻り笑うと、明は落ち着いたらしい。
「だから、アイツ今日来なかったんだ」
「そうなんです」
「さすが樹、極端だな。一か十しかない」
「もう行き過ぎた行動はしないって言ったんですけど、これって行き過ぎた行動以外の何ものでもないですよねっ」
「だよねぇ」
明は最後に目尻に溜まった涙を拭った。
あの日。
最後に樹が言った言葉。
「──俺は自分の力だけでお前に追いついてみせる。それまで、ナナには会わない」
僕にとって最高の時間を過ごしたあとのこの言葉には固まるしかない。
でも。
「そう、いっくんがそう決めたなら」
とにっこり笑って同意した。
「でも、僕たちまた会えるよね?」
まさか、このまま会えなくなってしまうのでは? という不安から確認してしまう。
「当たり前だ。連絡はちゃんと入れる」
樹は晴々とした顔で手を振りながら去って行った。
あれからひと月以上経って。
今日は五月五日。
そう、大地の誕生日だ。
グループラインはまだ生きていて、四月の半ば頃明から今日のことについての連絡が来た。
二人に会うのも卒業以来初めてだった。
樹からは『行けない』という返信が。ワンチャン、誰かの誕生日とかなら来るんじゃないかと思っていた僕が甘かった。
そこは、樹。公約は守る。
今までだったら昼間から祝っているはずなのだが、今回は夕方からの明の家に集まることになった。
「まあ、そのうち樹のほうが我慢できなくなって会いに来るって」
「そうでしょうか」
それは明の慰めだと思う。望みが薄いとわかっていながら。
──だって、樹だから。
「大くん遅いですね、忙しいんですか?」
大地の誕生日なのに、実は当の本人はまだ来ていない。
「陸上で有名な大学だからね。練習大変なんだ」
明の顔がなんとなく寂しそうに見えた。
「余り会えない……とか?」
「そうだねぇ、学部も違うし。高校よりは……でも、一緒に行けたり帰れたり出来る時はそうしてるよ」
「寂しいですね……」
明が柔らかく微笑みながら僕を見ているのに気づいた。
「ななちゃん、ボクらのこと樹から聞いてるんだね」
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