はじまりの朝

さくら乃

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第二十五章

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 僕らは砂浜を駅方面に向かって歩いて行く。
 樹の歩幅はいつもよりぐっと狭く、速度もかなりゆっくりだった。二人で歩く時は僕に合わせてくれるけど、今はそれよりも遅い。僕もそれに合わせて少し速度を落としているくらいだ。
 それでも、水族館から駅まではそれほど遠くないので、そろそろ駅付近になるはず。

「そろそろ駅かな」
「ああ、そうだな」

 調度コンクリートの壁が途切れ、歩道に上がる階段のあるところに差し掛かる。樹は方向を変え、その階段に向かった。


(帰るのかな……)


 階段を駆け上り歩道を足早に歩く。急に速度を上げた彼のあとを追っていく。


(どうしたのかな、急に。そんなに帰りたかった?)


 少し寂しい気持ちになりながら、階段を上り切ったところで樹が引き返してきた。
 あれ? と思って、そこで立ち止まっていると、僕の前を通り過ぎまた砂浜に下りて行く。僕は彼の行動を見守った。
 樹は砂浜に腰を下ろすと、上着のポケットからハンカチを出し砂の上に敷く。視線で僕に座るように促した。
 僕は、女の子への対応みたいで少し気恥ずかしくなりながらそこに座る。
「はい」と手渡されたのは、甘そうなカフェラテの缶。それは冷えた手にとても熱く感じた。
 まるで僕の心の中みたいに。
 樹は自分のブラックコーヒーの缶を開け、口をつける。
「飲まないのか?」
 じっと見ていたのを変に思われたろうか。僕は慌ててプルタブを引いた。一口飲むとほろ苦い味が口に広がる。甘そうだと思ったが、樹が作ってくれるカフェラテのほうがもっと甘い。僕専用の特別仕様だから。
「……いっくんのカフェラテ飲みたくなった」
 素直な言葉が零れる。
「あ、ごめん。せっかく買ってくれてのに」
「馬鹿……──ま、そのうちな」
 その声は僕仕様のカフェラテと同じくらい甘く響いた。
 樹はコーヒーを飲みながら、海を見る。しかし、その視線は海よりもずっと遠くを見ているように思えた。

「──俺、お前に追いつくよ」

「え?」
 樹と同じように海を眺めていた僕は、突然の呟きに視点を変える。
 決意の色が浮かぶ横顔が見えた。
「お前らがいなくてもちゃんとやる。今までみたいに馬鹿なことはしない。き過ぎた行動もしない。自然に自分を抑えられるようになる──それで、ちゃんと大学に入って、お前に追いついて…………」
 樹はそこで言葉を切り、僕のほうを見る。
 片手が伸びてきて。
 その手は僕の頬に。


(え……なに……)


 間近に樹の顔があって僕を見詰めている。
 どきどきと心臓が煩い。
 

(これって……)

    
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